第40話 最高の友達で最高の下僕
「やったあああっ! スゲーぞおっ! 武!」
終了のゴングと共に麗衣がリングに駆け上がり、勢いよく抱き着いてきた。
デビュー戦でも麗衣に抱き着かれたが、今度はプロレスで言うフライング・ボディ・アタックの様な勢いで押し倒された。
「スゲーよ武! やっぱりスゲー奴だよお前は! お前は最高の
そう言うと、押し倒した俺の唇に軽くキスをしてきた。
「れ……麗衣? どうしたんだ?」
「本当は顔にしてやろうかと思ったけどヘッドギアが邪魔だったからな。だから唇にしてやったんだ。ありがたく思えよ」
麗衣はやんちゃ坊主の様な表情を浮かべた。
「ヒューヒュー! お前ら結婚しろ!」
「いいぞ! お前らこの場でヤっちまえ!」
リング上の俺達を観て囃し立てる観客や熱心にスマホで写真を撮り始める観客まで現れた。
一体ナニを期待しているんだコイツ等?
「ハイハイお客さん達。コイツは弟みたいなもんだから、残念だけどやましい事なんか何もしねーからな!」
無視すればいいものを麗衣が観客にそんな説明をすると、レフェリーがチョイチョイと麗衣の肩を突いた。
「君。小碓選手のセコンドだろ? あまりにも逸脱した行為は小碓君が失格になるから彼氏の為にも止めたまえ」
レフェリーは俺を麗衣の彼氏と勘違いしていた。
まぁ人目も憚らず、あんな事をすればそう思われるよな。
「彼氏じゃねーっすよ……でも失格は困るんでスイマセンでした」
麗衣が頭を下げてすごすごとリングサイドに戻る姿を見ると、そこでは勝子と恵が二人揃って口から魂がはみ出して白くなっていた。
コイツ等……俺が勝利した嬉しさより麗衣が俺にキスをしたショックの方が上なのか?
そんな事を考えていると、意識を取り戻し、既に立ち上がっていた堤見選手が俺の方に近づいてきた。
「いやぁ……、小碓君。空手経験者みたいな多彩な蹴りにも驚かされたけれど、何より凄いパンチだったね。完敗だよ」
これは喧嘩とは違う。
憎しみ合って戦ったわけではないので、試合が終わればノーサイドだ。
「いえ、今まで俺が戦った相手の中で堤見さんが一番強かったです」
「それは光栄だね。でも、君はインターハイで対戦したバンタム級の選手に負けないくらいパンチがあったし、Aクラスのライト級のキックボクサーとスパーリングした経験があるけど、その人よりもパンチが強かったよ」
アマチュアボクシングのバンタム級は56キロが上限なので、この大会のバンタム級の選手よりも2キロ重い。
当然54キロ級キックボクサーのパンチよりも遥かに強い事は想像できる。
だが、キックボクサーが同じ階級のボクサーぐらいのパンチ力がある訳ないし、ライト級のキックボクサー以上のパンチ力と言うのもかなり大げさだと思うが。
「お世辞でもそこまで言って頂いて嬉しいです」
「お世辞じゃないよ。俺はボクシング時代に1回もダウンした経験が無いんだよ」
「え? マジですか?」
「こんな事で嘘をついても仕方ないだろ? それがまさかキックボクサーのパンチで倒されるなんて思いもしなかったよ」
堤見選手はサバサバした様子で言った。
「それにしてもCクラスで君みたいな化け物が居るとは思わなかったし、アマの内に自分の何処が足りないか分かって良い経験になったよ。でも、このリベンジは何時かプロのリングでさせて貰うからね」
堤見選手はそう言いながら手の甲で軽く俺の胸を叩くとリングから降りて行った。
プロのリング……か。
興味は無かったはずだけれど、その響きに胸の高鳴りを感じるのは何故だろう?
◇
「「武先輩! おめでとうございます! 格好良かったですうっ!」」
リングを降りるや否や、香織と吾妻君が可愛らしく口を尖らせて待ち受けていた。
「どうしよう香織ちゃん。武先輩ヘッドギア脱いでくれないと両側から頬っぺたにちゅーしずらいよ?」
「そうだよねぇ……なら、カズ君から最初に口にちゅーする? 私はその後でも良いよ?」
吾妻君と香織はそんな会話をしていると、俺の後からついて来る勝子が二人と俺の間に割り込んだ。
「駄目よ! 武は麗衣ちゃんとキスしたんだから! 貴方達が勝手に間接キスしちゃダメよ!」
まさか前みたいに麗衣と間接キスしたいとかで俺にキスしたがるつもりか?
「武! あとでちゅーするけど貴方に拒否権は無いからね!」
図星だった。
「いや、お前麗衣に直接キスしろよ……」
「ねっ……ねぇ、武君。君の事が好きとかじゃ全然無いんだけれど、後でキスしても良いかなぁ?」
恵までそんな勝手な事を言い出して、俺は堤見選手に殴られた頭が益々痛くなってきた。
そんなこんなで、俺と麗衣は共にトーナメントに優勝し、表彰台に上がった。
麗衣は3階級優勝の功績が認められ最優秀選手賞。
俺はトーナメント3連続KO勝利を評価され、KO賞を授与した。
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