第30話 大会トーナメント表

 流石の麗衣も日本ランカーや男子プロ、挙句に階級が上の女子のチャンピオンとの三連続スパーリングはきつかったようだ。


「はぁ~終わったぁ~疲れたわぁ~。下僕たけるぅ~あたしを運んでくれぇ~」


 練習が終了し、クタクタな様子の麗衣は俺の後ろから、おんぶするような格好で俺の背中に飛び乗った。


 フライ級に増量し、栄養がたっぷりつまった二つの柔らかな果実が俺の肩を圧迫した。


「しっ……仕方が無い。俺が途中まで運んでいってやるよ」


 俺が喜びを隠し、麗衣を背負っていこうとすると恵が立ちふさがった。


「駄目だよ麗衣さん! 武君の背中におっぱいが当たっていて、武君が気持ち悪い変顔で喜んでいるから!」


 この前麗衣のペットボトルで間接キスを試みたら邪魔をされた事を根に持っているのか?


 恵は現在の俺の状況をありのままに伝えやがった。


「なっ……何を言っているんだ! 俺は筋トレを兼ねて疲れている麗衣をおぶっているんだ! そんな邪念など断じてちっとも少しも一欠けらも抱いていないっ!」


「……そんな強調されても却ってあやしーわ。まぁ、コイツには中防にエロ画像を送らせたっていう立派な前科があるからな」


 そんな事を言い出して、麗衣は俺の背中から降りた。


「だから、あれは香織からも誤解だって確認とっただろう?……」


「いーや、普段からテメーがエロい視線で中防どもを見ているからだろうが」


 それは否定のしようもない事実だが、一番エロい視線で見られているお前は何故気付かない?


「……俺ってそんなに信用されていないんだ」


「まぁ日頃の行いよねぇ」


 恵は勝ち誇った表情を浮かべていた。


「ところで恵、MMAクラスの後からスパーリングクラスに参加してきつくなかったか?」


 MMAクラスは打撃の他にレスリングや柔術の技術も練習する為、キッククラスの練習量の比ではない。


 その割には俺とスパーリングしていても全くスタミナが落ちている様子が無かった。


「いいえ。長野さんにしごかれていた時はもっときつかったしね」


「そういやぁ、あの化け物に腹パン打たせて鍛えていたんだっけ? 流石にクラス練習じゃそこまでやらないからな」


「そうだよねぇ~だから麗衣さん、好きな時に私に首相撲とか膝蹴りの練習して良いよ♪」


 何故か恵はキラキラと目を輝かせながら麗衣に言った。


 そう言えばコイツMっぽいところあったよな。


 コイツの場合打たれ強さが自慢と言うよりMな変態なだけだろ。


「馬鹿。練習以外の時に友達ダチを殴れるかよ。それよりか打たれない技術を磨いとけ」


 麗衣に言われ恵は物凄く残念そうな表情を浮かべていた。


「じゃ……じゃあ武君。私に毎日ボディブロー打ってくれないかなぁ?」


「丁重にお断りします」



 ◇



 トーナメントの対戦相手が決定した。


 俺が参加するバンタム級のCクラストーナメントは八人選手がエントリーした。


「なぁ……、これって同姓同名の別人だよな?」


 トーナメント表を見た麗衣が首を傾げながら俺に聞いてきた。


「さぁ。俺に聞かれてもねぇ……」


 トーナメントの正反対側の組み合わせに棟田塁の名前が記載されていたのだ。


「てか、アイツ総合やっているんじゃねーの? 何でキックの試合に出るんだよ?」


 この棟田塁がかつて俺を苛めていた棟田と同じ人物であるのか不明であるが、同一人物の可能性が無い訳ではない。


「恵と同じで総合やっているからってキックの試合に出ないとは限らないしね。多分、あの棟田じゃないかな?」


「あの棟田だとしたら、わざわざ武が出場する試合狙っていたのか? 偶然かもしれねーけど気持ち悪いよなぁ」


 不良と言う生き物は下らない自尊心が肥大化しており、大抵粘着質なもので、一度目を付けた相手にはしつこく絡んでくる習性がある。


 そう言った意味では棟田は典型的な不良であるが、流石に俺が出る試合まで調べているものだろうか?


「棟田が俺の出場を知っていたとは思えないし、偶然じゃないか? 棟田本人だとしても決勝まで当たらない組み合わせだし、そもそも勝ち抜けないと思うけどな」


「ははははっ! そりゃそうだわ。で、勝子。この中で誰か知っている奴居る?」


 麗衣はトーナメント表を勝子に見せながら聞いた。


「そうだね……棟田は論外として、二回戦で当たる可能性がある堀田共示ほりたきょうじって選手は伝統派空手で地区大会だけど優勝した実績がある人だね。あと反対側のブロックの堤見修二つつみしゅうじは高校生の時、ボクシングでインターハイ出場経験があるわね。この二人が優勝候補じゃないかしら?」


 ボクシングクラスのサブトレーナーとしてアドバイスを求められる立場にある勝子はボクシングと空手の選手についてそれなりに把握しているらしい。


「ちょっ……一寸待って! 他競技でそんなに実績がある人が何でCクラスなの?」


 恵は当然の疑問をぶつけた。


「他競技経験者はビギナーズクラスは免除されるけど、Cクラスからは出場しないと駄目だからな。まだキックに転向して間もないか、逆にブランクがあってあんまり試合していないのかもな」


「これがデビュー戦っていう可能性もあるよね。何れにせよ、普通のCクラスの選手よりはずっと手強いと思った方が良いわよ。武」


「ああ。分かっているさ」


 優勝候補という選手の対策について考える事にして、棟田に関する気持ち悪さは念頭から消えていた。


「十戸武の対戦相手は聞いた事無いわね。まぁ十戸武は勝つだけじゃなくて内容にこだわって欲しいわね」


 前回の恵の試合に辛口評価だった勝子はその事を踏まえて言った。


「うん。前回の反省点は試合までには修正するよ」


「麗衣ちゃんの女子フライ級Aクラスは四人がエントリーしているね。反対側の組み合わせで気になるのは元バンタム級1位の渡辺華南子選手が階級落としてきたよね。確かこの前の女子バンタム級Aクラストーナメントで優勝していたと思うけど、この選手については麗衣ちゃんの方が詳しいんじゃない?」


 渡辺選手もAクラストーナメントで優勝経験があり、元バンタム級1位ならミニフライ級1位の麗衣とほぼ同格の選手って事か。


「ああ。元レディース総長だっけ? もう引退しているからウダウダ言うつもりはねーけど、現役のノリで来たらボコボコにしてやるよ」


「渡辺さんのジムのブログ見たら二階級優勝を手土産にプロ入りする気らしいね」


「それは無理な夢ってヤツだぜ。元珍走なんざぁ、あたしの敵じゃねーよ」


 渡辺選手の事はよく分からないし、アマチュアキックボクシングの実績を見る限りでは強敵に思えるが、今まで麗衣は男子で格闘技を使う暴走族を倒して来ている。


 その事を考えると元は階級が上のランカーとはいえ、麗衣が負けるとは思えなかった。

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