第10話 ヤンキーJKの家にお見舞いに行きました

 警察を巻いた俺達は麗衣の家にお見舞いに行った。


 麗衣の家は以前、一階が床屋だったらしいが、麗衣のおじいさんがお亡くなりになられた後、キックボクシングを始めた麗衣の為に疑似ジムと呼んでいい練習所に改造したらしい。


 この練習場では女子会と称してお茶をシバクのではなく女子同士でシバキ合うスパーリング会を毎週行っているが、麗のメンバーには俺と生物学的には男子の吾妻君がいる為、最早女子会という呼び名が相応しくなく、俺は呼び方を変える様に訴えたが「二人とも可愛いから良いんじゃね?(笑)」という麗衣の台詞に俺以外の全員が賛成。


 吾妻君まで麗衣に賛成しやがって、女子会という名称は変更しなかった。


 と、ちょっと話が横道に逸れてしまったが、話を戻すと、二階は麗衣の部屋があるのだが、麗のメンバー一同が入るには流石に狭すぎる。


 そんな事を考えながら、俺が麗衣の家に着くと中学生チームは既に全員集まっているようで、門番の様に勝子が階段の前に立ちふさがっていた。


「麗衣はどうしたの勝子? 恵も居ないみたいだけれど?」


「麗衣ちゃんはもう帰ってきているよ。今は十戸武が麗衣ちゃんを診ているところ」


「そうなんだ。……ところで何で通せんぼしているの?」


「一度に集まると狭いでしょ? だから中学生チームは一階に待機していてね」


 にべもなく勝子が言うと、俺の腕にさりげなくくっつきながら澪が食いついた。


「ええええっ! そりゃないっすよ! 麗衣サンの汗まみれの服を脱がして、しっとりと濡れた小麦色の柔肌を拭いてあげて、びしょびしょの下着を脱がして、着替えさせるのはオレの役目なのに!」


 気付けば勝子ヘンタイが二人に増えていた。


「しっ……下着は無理でも……せっ……せめて麗衣先輩の寝間着姿が見たいですぅ……」


 普段は引っ込み思案の静江まで変なことを言い出している。


「ダメよ。麗衣ちゃんが落ち着いたら、ちゃんと会わせてあげるから」


「むーっ……じゃあ、せめて小碓クンを置いて行ってください」


「良いわよ」


「コラ。勝子。俺の意思を聞かずにあっさりと許可するな」


「いや、意地悪するわけじゃなくて、麗衣ちゃんの着替えをアンタに見せる訳いかないでしょ?」


 一見筋は通っているが、お前みたいな変態が診るのも危険だろうが。


「じゃあ、着替えは十戸武に任せて勝子もここに居ないとな」


 パキポキ


「下僕武。丁度スパーリング出来る場所に来ているから今からやらない?」


「……いいえ。どうか心行くまで麗衣の面倒をみてあげてください」


 スマン麗衣。


 俺の力ではこの変態の視姦からお前を守る事は出来ないみたいだ。



 ◇



「はぁー……つまんねーの。ねぇねぇ小碓クン。さっきオレを助けてくれた時みたいにぎゅっと抱きしめて慰めてよ♪」


 後ろから俺に抱き着き、胸を押し付けながら、澪がおねだりしてきた。


 結構デカいんだな。


 長身だから相対的デカいんだろうな。カップはとにかく、単純なバストで言えば静江並みかも知れない。


「もおーっ! 澪ちゃんったら! アタシとの約束忘れたの?」


 何の約束か知らないけれど、香織はフグの様にぷくーっと顔を膨らませながら怒っていると吾妻君がそんな香織を宥めた。


「あはははっ。流石に今日ぐらい良いんじゃないの? ナイフから守ってくれたなんてドラマのヒーローみたいじゃん。武先輩格好良すぎるでしょ?」


「それはそうだけど……って、何カズ君までドサクサに紛れて武先輩にスリスリしているの?」


 何時もの事で慣れて気にならなくなっていたけれど、何時の間にか吾妻君が長い睫毛がかかった二重瞼を閉じながら、俺の左腕に引っ付いてスリスリしていた。


「だって。あのオジサンとタイマン前からの約束だもん♪」


 約束じゃなくて吾妻君が一方的に言っていただけなんだが……。


 しかしなぁ……頬摺りするその仕草がまるで小動物の様で可愛すぎて、何時も本当の性別を忘れてしまいそうになるが、と接するには気をしっかり保たなければならない。


 傷つけない様に、やんわりと彼を引き離そうとすると。


「もーっ! 二人ともずるいんだから! アタシも武先輩にスリスリするのっ!」


 二人に対抗するように香織が俺の右腕に引っ付いてスリスリを始めた。


 何このハーレム状態?


 つい半年前には自殺までしようと思っていた俺なんかがこんなに好かれるなんて自分でも信じられなかった。


「とっ……取りあえず吾妻君離れてくれないか?」


「ええええっ! 澪ちゃんと香織ちゃんは良くてどうしてボクは駄目なんですかぁ~」


 ダメに決まったんだろうがああああっ!


 と、心の中で叫んだが、吾妻君はまん丸の瞳をうるうると潤ませながら俺の顔を覗く、その表情を見て心の叫びを口にすることは出来なかった。


 何だろうこの胸を締め付けるような罪悪感?


「いっ……いやっ……そっ……そのおっ……そうそう。麗衣が熱で苦しんでいるのに俺達だけがこんなに楽しそうにしていたら申し訳ないって気がして……」


 我ながら苦しい言い訳ではあったが、吾妻君はあっさりと納得した。


「そう言われてみたらおっしゃる通り、不謹慎でしたよねぇ~」


 そう言って吾妻君は俺から腕を離した。


 ふふふっ。


 これで俺に濃厚接触しているのは純粋な女の子二人になった。


 ここには中学生組と仲良くしていると何時も口うるさい勝子も居ないし、勝利のご褒美に少しぐらいイチャイチャしたり、もしかして、ぱふぱふしてもらうなんて展開でも構わないよね?


「流石小碓クン……確かにオレ達だけ遊んでいる訳にはいかねーよな」


「そうですよね……自分の事ばっかり考えていました。武先輩のストイックさをアタシ達も見習わないと」


 そう言いながら澪と香織、二人とも俺から離れた。


「そっ……そうだよ皆。麗衣のつらい状況を考えてあげないと」


 何か自分が最低な人間になった気分だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る