第8話 相変わらず可愛くも頼もしい後輩達
「死ねやコラっ!」
鉄パイプを持った男が静江に殴りかかってきた。
静江は半身になり、振り下ろされた鉄パイプをヌンチャクで斜めに降り飛ばして受け、鉄パイプの軌道を逸らしたヌンチャクをそのまま降りぬく。
再び鉄パイプを振り上げ、静江の頭を殴ろうとすると、右手から左手にヌンチャクを持ち替え、斜めに降り飛ばしたヌンチャクで鉄パイプを受けた。
更に追撃を止めず、脛を薙ぎ払わんと鉄パイプで足を振り払おうとしたが、静江は上にジャンプして、その攻撃を躱すと、ふわりと短いスカートが舞い、大きめのお尻に履かれた紺色のスパッツが覗いた。
ぽっちゃり体系の見かけによらず、身軽な動きで鉄パイプを躱した静江は着地と同時に上段振り打ちで敵の頭を打つ!
「ぐわあああっ!」
鉄パイプの男はヌンチャクで頭部を殴打されては堪らず、鉄パイプを手放し、地面をのたうった。
「このガキが! 犯すぞ!」
木刀を持つ男と木製バットを持つ男に香織は前後を挟まれていた。
トンファーを両逆手持ちで構える香織に対し、木刀を持つ男が突きを入れてきた。
香織は右手のトンファーをくるりと回転させ、本手に持つと体を左にさばき、下段払い受けで木刀を弾いた。
そして、木刀男の小手に右裏打ちを当てた。
「イテエエエッ!」
小手を打たれた木刀男が木刀を落とすが、香織はそこで注意を絶たず、後ろから振り下ろされたバットを振り向きざまの上段受けで止めた。
勢いを止めず、トンファーで体重をかけてバットを押し込む様に右足を踏み込み、バットを腰よりも下の高さに引き落とすと、こめかみを右横打で殴打した。
「があっ!」
木製バットを持つ男を倒した事を確認すると、香織は膝を正面で抱えるようにして抱え込むと、静江よりも更に短めなスカートが翻り、白い下着が見えるのも構わず、一直線に横蹴り込みで木刀男の顔面を打ち抜く!
「あががっ……」
木刀男は目の色を失い、地面に突っ伏した。
「もーっ! やだあっ! 静江みたいにスパッツぐらい履いて来ればよかったあっ! 武先輩になら見られても良いけど、こんな奴に下着見られちゃったじゃない!」
そう言いながらも、性懲りもなく、スカートを翻らせながら手近な敵を上段回し蹴りで失神させていた。
いや。麗衣とか勝子に聞かれたら俺が殺されるんでそんなこと言うの止めて欲しい……。
「だーっ! なんでオレの相手はいつも刃物持っている奴なんだよ! サイ苦手なんだって!」
そんな文句を言いながらもナイフを持つ相手の前に立つのは澪らしい。
他の仲間を危険な目に遭わせるぐらいなら自分から率先して危険に身を晒すのが中学生チームのリーダーとしての責任感だけでなく、澪の優しさであろう。
澪は右手に持つサイの先端を敵に向けた所謂右本手持ちで、左手のサイは先端を自分に向けた左逆手持ちで構えた。
「刺せねーと思っているだろ? 本気でやってやるよ! 死ねや!」
その言葉に嘘はないのか?
ナイフの男は澪の脚を刺そうと手に持つナイフで突いてきた。
澪は左足で一本立ちになり、右手のサイで下段払い受けすると、右足で踏み込みながら左逆手突きでサイの
「があっ!」
額を叩かれ、よろめいたナイフの男に追い打ちをかける様に澪が踏み込み、上体を45度ほど後方に倒しつつ、蹴り脚側の手を反対側の顔の横に持っていきながら膝を上げ、手を勢いよく振り戻しながら、高く外側から脚を蹴り上げると、腰を大きく内側に捻りながら斜め下に真っすぐ蹴り下ろした。
「ぐうっ!」
ブラジリアンキック。
中段蹴りと変わらない軌道で膝がカイ込まれる為、相手が中段蹴りか上段蹴りか判断するのが難しく、防ぐ時に迷う蹴りである。
澪の得意な変則上段回し蹴りで足首がナイフ男の首に巻きつくと、男は前のめりにぶっ倒れた。
K-1ヘビー級のフルコンの選手などがよくやっていた蹴りで、一時期流行ったが、基本的に蹴りは膝でブロックし、蹴りを防ぐ為に腕を下げることのないムエタイには通用しない為、キックボクシングではあまり使われることなく廃れた蹴りである。
とはいえ、空手の様に蹴りを腕で防ぐのが基本の格闘技ではまだまだ使い道のある蹴りであり、ましてや腕を上げて防ぐこともままならないであろう素人の不良を失神させるには充分な威力を発揮した。
「やっぱり武器使うよりかこっちのが良いわー♪」
「澪! 今のはキックじゃなくてサイで倒すべきだったよ! 相手の意識がしっかりしていたら脚刺されていたかもしれないよ! 油断するな!」
俺は相手がナイフで反撃してくる可能性があるのにも関わらず、武器で倒し切らなかった澪に注意した。
「はーい! 言う事聞くから後でおし……」
「お尻は触らせんぞ」
澪の言葉を遮ると、澪は手近な敵をサイの上段打ちで倒しながら「良いじゃんケチ!」などと言っていた。
「えいっ!」
吾妻君はワンツーを敵に打ち込むと、右ストレートを打った腰の捻りを利用し、まるで格闘ゲームのロリキャラの様な可愛い声を上げながら体重を乗せて思いっきり左フックを敵の顎に叩き込んだ。
首を捩じりながら、殴られた敵は吹き飛ばされるようにして地面に尻餅を着いた。
小柄でライトフライ級(約49キロ)程度の体重しかない吾妻君のパンチ力はあまり強くないが、正確に相手の急所を打ち抜く技術は麗の中でも屈指である。
「このアマ! 捕まえちまえばこっちのモンだ!」
パンチで撃たれるのも構わず、突っ込んできた男に襟首を掴まれると、ブチブチと吾妻君のワイシャツのボタンが弾け、Tシャツが引っ張られると素肌が露になった。
醜悪な期待で希望を膨らませた男の表情は一瞬にして唖然とした表情に変わった。
「乙女の素肌を覗こうなんて許せません!」
釣り手で相手の襟を掴み、引手で袖を掴む、所謂相四つの状態から吾妻君は腕時計を見る様に引手を引き、目よりも高い位置に引き上げると、相手の脇の下に釣手の肘を滑り込ませ、肘を相手の上腕に当てると相手の体と同じ方向に向く様にして回転すると15センチは吾妻君よりも背が高い男の体は宙を舞った。
背負い投げ。
自分よりも背の高い相手の懐に入りやすく、背の高い相手は目線が合わない為に有効な投げ技であるが、今回の場合、吾妻君の肌を見てしまったショックが大きくて何も出来なかっただけの様な気がするが……。
とにかく、敵を地面に叩きつけると、敵の上で四股立ちになると、恐らく姫野先輩から教わったであろう、日本拳法の押さえ面突きで敵を無力化した。
「まったく。武先輩に見られるのだって恥ずかしいのに、こんな奴に見られるなんて」
一寸マテ。
奇しくも下着を敵に晒した香織と似たような事を言っていたが、君の場合、香織とは全く意味合いが異なるぞ?
まぁ、それはとにかく、見た目が可愛らしい年下の女の子達だが、香織と静江は琉球古武道の一種である武器術を使い、澪も空手の鍛錬でサイを使っている為、同じく武器を持つとはいえ、ただの不良に不覚を取る訳がなかった。
そして、男の娘である吾妻君は見た目によらずボクシングと柔道を使う。
俺も初スパーリングでは衝撃の逆転負けを喫したけれど、予備知識抜きに彼と戦うとショック受けるだろうな……。
俺が手を貸すまでもなく、四人は流れ作業の様に敵を倒していく。
相変わらず可愛くも頼もしい後輩達だ。
受験の時期は格闘技の練習時間も限られていただろうに、受験が終わったばかりのブランクも感じさせない。
だが、多勢に無勢。
武器を使うとはいえ、四倍近い人数を相手にするのはそろそろ限界だろう。
俺は取り分け疲労の色が濃い香織と交代しようと声をかけようとしたその時だった。
「くそっ! 邪魔するんじゃねーよっ!」
棟田は澪が倒した男が落としたナイフを拾い上げると、横から澪に襲い掛かった。
「危ない!」
俺はMMAクラスで習った慣れない両足タックルで澪に飛びついて彼女を押し倒し、間一髪で棟田の凶刃から逃れた。
「なななっ! 小碓クン?」
何を勘違いしたのか?
一瞬澪が顔を真っ赤にして澪らしくない乙女っぽい表情を浮かべた。
だが、それは一瞬にして切羽詰まった表情に変わり、悲痛な声を上げた。
「危ない! 逃げて!」
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