第9話 レオタード姿は恥ずかしい

 僕はレオタード姿で体育館の隅にいた。所属だけのはずがコーチに認められて本格的に始めることになった。


「さあ、そんな隅にいないで中央で柔軟ですよ」


 しかし、このレオタード姿というのは恥ずかしい。レオタードを着ていると弱気な気分になるのが不思議であった。


 オドオドと言われるままに色々していると……。


「リターナ・優紀の参上です」


 あん?


「わたしは今日から新体操を始める事にました」


 コーチも苦い顔をしているが優紀は本気らしい。


「先ずは、この学園の美少女ランキング一位をとってみせます」


 訂正、優紀はよこしまな気持ちで新体操を始めるらしい。それは初心者二人で一緒に練習をする事になり、複雑な気分であった。柔軟から片方つかまり反対の足を振る練習をする。


「何故、ですの?同じ初心者なのにこの差は?」


 当たり前だ、僕は毎日、剣術の訓練をしている。そもそも、死んだ妹に対しての友情が行動理念のはずが、僕をぎゃふんと言わせたいらしい。


 さらに基礎練習が続くと。


「ゼハ、ゼハ、息がきれる……。何故、歌論は平気なのに……」


 優紀はスポーツドリンクを飲み干すが、まだ息が荒いのであった。


「貴様、わたしのスポーツドリンクがもう無いぞ」


 要は外の自販機に一緒に買いに行きたいらしい。仕方なく、自販機に買いに行くと。


 男子とすれ違う……。


 しまった、レオタード姿であった。ジャージを羽織ってくるべきだった。


 うぅぅ、視線を感じるな……。


「男子の視線に弱いなんて、死んだ涼香にそっくりね」


 僕は僕の知らない妹の話を聞く気分であった。


 死んだ妹か……。


 自販機の前でがぶがぶ飲む優紀を見ていながら妹の事を思い出していた。


「お兄ちゃん、帰りが遅いから来ちゃった」


 今の僕の行動理念は静美である。僕は妹に謝り体育館に戻るのであった。


 親父どのは書道家である。遠い親戚なので血の繋がらない関係です。亭主関白なのかと聞かれたら、胸を張ってかかあ天下と言おう。


「お父さん、まだ、寝てるの?」


 休日に妹が起こしに行くが自由業なので朝は遅い。これで収入が無ければダメ親父であるが、そこそこ有名らしい。うん?今日は僕の朝稽古の終り頃には起きてきた。


「おはよう、歌論くん」

「おはようございます」

「うむ、わたしは今日が決め切りの一筆があってね、こうして早起きだよ」


 なんでも、広告に載せるキャッチコピーを書道の質感で書いて欲しいらしい。パソコンに入っているフォントでは満足できないお客さんとのこと。


 念入りに考えたキャッチコピーらしく、プロに表現して欲しいのか。


 さて、一度は親父どの仕事風景を見たいがダメらしい。


 子供向けの教室に一人で入り講師席に座る。扉は閉められて作業開始らしい。


 僕は汗を流しにシャワーを浴びる事にした。


「お兄ちゃん、わたしもシャワーを浴びたい」


 鍵のかかったドアをガタガタとしてくる。


「まさか、一緒に浴びたいのか?」

「そんなアホなことできるわけないでしょ」


 微妙な年頃だなとつくづくと思うのであった。親父どの苦労を感じるな。さて、体を拭いて、着替えに袖を通す。入れ替わりに妹はシャワーを浴びている。


 僕は竹刀を磨く事にした。『斬木葉』流は武術で心が大切である。


 相撲で言う心・技・体で表される。


 やはり、少し本気の親父どのを見たいのであった。

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