第7話 死んだ妹からの……。

 体育館の入口前にあるベンチで空を眺めていた。


「お兄ちゃん、ここにいた、何で携帯に出ないの?」

 

 どうやら、妹は僕の事を探していたらしい。しかし、携帯は鳴らず、首を傾げる。

 僕は原因を探して携帯を色々操作する。あれ?こんなアプリ入れたかな?


 青地に人の影の様なアプリだ。アプリの名前は『伝言板』であった。


 立ち上げてみると……。


『アクセスされた番号は解約されています。その他、条件を満たしています。伝言を聞きますか?』


 僕は少し悩んだが『はい』を押してみる。


『あ、あ、テスト、テスト……。よし、このメッセージを聞いていると言う事は、わたしは生きていないのかもしれません……』


 この声は死んだ妹の涼香だ。僕は息を飲み携帯を見つめる。


『簡単に言うとわたしの番号が無くなって機種変をした時にメッセージが流れるアプリなのよ。ウフ、幽霊みたいに文字を表示したり、フォトを白黒にしたりできるらしいの』


 最近の怪現象はやはり死んだ妹の涼香の仕業か。


『えへへへ、世の中には色々な物があるよね。こうして、死んでいるわたしのメッセージが聞こえるアプリもあるからね』


 何故、事故で死んだ妹の涼香がこのアプリを使っているのか分からないでいると。


 『死って何だろうね?時々凄く身近に感じる時があるの、だから生きた証を残そうと思ったのよね』


 生きた証……。その言葉に僕の涙腺は決壊していた。


「お兄ちゃん、これって……」

「何も言うな……」


 隣で見ている妹の静美が言葉を選んでいた。

 

 僕は……僕は……。


 もう一度、妹の涼香に会えた気分である。


 僕はさらに妹の涼香のメッセージを聞く。


 『でも、きっと、幸せを手に入れているのですね。このアプリの最後の因子は新しい携帯番号からの着信なの、わたしの知らない誰かと出会って、このメッセージを聞いているのですもの……』


「お兄ちゃんは今幸せなの?」


 一緒にメッセージを聞いていた静美が問うてくる。僕は答えに迷ったが今いるのは静美であった。


 そう、妹の涼香が事故にあった夜を思い出していた。怒鳴り合う両親に奇跡的に顔だけが綺麗に残った涼香が印象的であった。あの日に髪を切り短髪にした事をよく覚えている。新しい家庭に新しい妹ができても髪を伸ばすことはなかった。


『少し暗くなっちゃったね、髪でも切って短髪にでもしたかな?それとも手首を切って自殺未遂かな?』


 涼香の予言に戸惑っていた。短髪は合っているが……。不仲の両親の元にいたら本当に手首を切っていたかもしれない。


「静美、僕は幸せだよ」


 迷いが消えて胸を張って言えるのであった。


「お兄ちゃん……」


『そろそろ、時間かな?このメッセージはわたしが死んだ時に流れるの、時々でいいから、わたしの事を思い出してね……。ツー、ツー』


 アプリが閉じられて校内に静かさが戻る。気がつくと雨が降り出してきた。代わりに僕の涙は止まっていた。


「静美、戻ろう」


 僕の言葉に妹の静美が付いてくる。平和な日常に戻るのであった。

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