第6話 あらゆる日常の

 この三度宮家にはオルガンがある。ピアノではなくオルガンである。


 聞くところによると、貰い物らしい。親父どのは書道家で仕事の時は精神を集中するらしい。オルガンの音色などもってのほかであった。

と、思いきや。


「最近、娘がオルガンを弾いてくれない」


 僕に相談されても困るが親父どのは簡単に言えば親バカである。高校生の娘にオルガンを弾いてくれとは言い難いらしい。僕は音楽のセンスが無いので妹の静美が羨ましい。試しに僕は妹に頼んでみる事にした。


 温かいコーヒーを二つ持って妹の部屋に入る。先ずは交渉からだ。


「むむむ、お兄ちゃん、何用?」


 しまった警戒されてしまった。


「コーヒーを一緒に飲もうかと……」

「それだけ?」


 ここは一つ素直に頼んでみるか。


「オルガン?いいけど」


 よし、簡単に交渉成立であった。


 ♪~ん。


 奏でられる音楽はビートルズであった。何処で覚えたのであろう?

 

 それは昼下がりの午後の事であった。


 部活の時間のことです。ジャージを着て、体育館の隅に座っていると。隣に大量の荷物が運ばれてくる。校舎の五階の図書室行の本でした。


 業者が少し間違えたそうな。司書のおばちゃんが物欲しそうにこちらを見ている。


「五階まで運んでくれるかい?」


 ……。


「そうかい、運んでくれるのかい」


 イヤ、その……。僕が困っていると。


「お兄ちゃん、凄い」


 妹の静美がレオタード姿で現れる。司書さんと妹は頷き何かを確かめる。あいよ、運べばいいのだな。


 僕はダンボール箱を持ち上げて校舎に向かう。中身が本だけあってズシリと重い。

 ふと、後ろを見るとジャージ姿でうまい棒をボリボリしながらダンボール箱を運ぶ妹がいた。


 安く買収されたなーと、呆れるのであった。さて、遠い五階の図書室に着くと。


 もう一往復を頼まれる。


 剣術に体力は必要だが筋力はいらない。しかし、そんなことは関係なかった。

要は運べと言うのだ。


 一階の体育館に着くと三往復は嫌だとなり。一度目よりも大量に運ぶ。


 厳しい苦行の後で自販機の前に行きお茶を飲み干す。暑いのか妹はジャージを脱いでレオタード姿でスポーツドリンクを飲んでいる。うまい棒は何本貰ったのか聞いてみると。


「三本だよ、一本、お兄ちゃんにあげる」


 はあ~とどっと疲れが出た。うまい棒をボリボリしながらのお茶は美味しいのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る