第4話 死んだ妹
僕は普段はスポーツブラを付けている。目立たない胸は更に女性らしさを削っていた。そう、僕はこれでいいのだ。出会う事のない恋人を探す気にもならない。中庭の出入口に座り季節の流れを感じていると。
「お兄ちゃん、ここにいた。課題が出ているのでしょう。一緒にやろうよ」
僕は渋々、リビングの机に向かい課題を始める。
う~う~……。
妹は唸り声からしてはかどっていないらしい。少し内容を見ると去年の国立大学の過去問であった。中堅国立大学とはいえ、妹は一年生である。僕たちが通っている高校は、確かに特進クラスはあるが。
普通の高校である。僕は課題の簡単な積分の問題を解いていた。力任せで適当に回答を書くのであった。
うん?携帯のバイブレーション機能が働いている。アプリの通知である。携帯を開くとフォトの画面が広がる。僕が内容を確認していると。
死んだ涼香の画像が白黒になっていた。アプリの誤作動か?試行錯誤でアプリを動かしていると。
『何故、見殺しにした?』
『何故、忘れるの?』
『何故、幸せをつかむの?』
携帯に表示される文字は呪いのように僕を苦しめる。これは死んだ妹の涼香からのメッセージだ。
「お兄ちゃん、顔が真っ青よ」
「あ、ぁ、大丈夫だ」
静美を心配させまいと言葉を選んで返事をする。
「わたしが守ってあげる」
静美は後ろから抱きつき動揺している、僕を抱き締める。切り替えなければ……これが今の現実だ。僕は呪いと戦う様に心を強く持つのであった。
妹の涼香が死んだのはハロウィンの季節であった。以前から問題のあった壊れかけの家庭はあっけなく崩壊した。
今は、回りまわって、この三度宮家にお世話になっている。新しい妹の静美が甘えた声で僕を呼んでいる。
「お兄ちゃん、わたしのブラ知らない?」
何故、妹のブラを知っているのか疑問に思うが普通に知らないと答える。
「一緒に探してよ」
僕は頭をかきながら。渋々、探すのを手伝うことになった。キッチンの椅子の上が目立っている。雑誌が置いてあり、その下にある薄ブルーのブラを見つける。
「お兄ちゃん、凄いー。でも、ちょっと恥ずかしいな」
妹の静美は僕が女性であることを知っている。ホント、何処、この発想であろう?
「でも、お兄ちゃん、大好きだよ」
だから、何故照れる。季節は流れてハロウィンの飾りが目立つ時期になった。手軽に手に入るソシャゲーはイベントだらけである。
そう言えば、この三度宮にお世話になるとの理由で携帯の機種変をしたのである。
金銭てきな不安が無くなったからだ。いくつかの涼香との思い出のゲームは消してしまった。
これでいい……。
僕は自分に言い聞かせていた。椅子に深く座ると妹の静美がお風呂場に向かうのが見えた。シャワーを浴びてさっきのブラに着替えるらしい。
静美はお風呂場から顔だけ見せて「覗かないでね」と笑顔で言う。本当に困った妹だ。僕は疲れた体を動かして手を振る。それは平和そのモノの生活であった。
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