第3話 夜露を切り裂いて

 僕は妹の静美と一緒にラーメンを食べに来ていた。運ばれてきたラーメンを見て悲しい気分になる。


 そう、味の素がテーブルに無いのである。


 店員さんに頼みラーメンに味の素を入れる。


陰気な妹に「美味いぞ」と言うのであった。


 以前、頑固店主のラーメン屋で怒られたことが有ったが、この店は大丈夫らしい。


 ズルズルとラーメンを食べて。会計に進むと。


「あんちゃん、味の素は美味しかったかい?」


 店主らしき人がレジの前に立っていた。


 僕は、ぱっと見は男子なので『あんちゃん』と呼ばれる。


 色んな意味で首を傾げる店主に。


「ラーメン、美味しかったよ」


 と、話を進める。店主はラーメン屋でありながら、こだわりは無いらしい。

僕は上機嫌で店を出ると。


 チョコレートパフェを食べに行こうよ。今からなのかと問うと明日らしい。


「お兄ちゃん、流石に味の素はかけないでしょうね」


 それは盲点であった。塩辛くなりそうなのでチョコレートパフェにはかけないことにした。


 しかし、この男装の姿でチョコレートパフェは恥ずかしい。


「静美、チョコレートパフェはテイクアウトできたかな?」

「できるよ」


 翌日、妹にお洒落な店に案内されてチョコレートパフェのテイクアウトを頼む。

大きなプラスチックケースに入ったチョコレートパフェを近所の公園で食べる。


 はて?男装を始めて初めてのパフェであった。妹と言う存在は大きいなと改めて思うのであった。


 僕は早朝から中庭で剣術の稽古をしていた。夜露を切り裂くと朝日が昇ってくる。


「おはよう、お兄ちゃん」


 眠そうな妹は少し大きめのパジャマから着替えを始める。


「あぁぁ、お兄ちゃんのエッチ」


 色々ツッコミを入れたいが、仕方なく。洗面所で顔を洗う。短髪で凛々しい顔は男装女子と言っていい。


 うん?母上がやってきて朝食に誘う。


 食卓に向かうと妹の静美が座っていた。指定のスカートをはき、目玉焼きを食べていた。そんな時間か……。


 親父殿がやって来るとズシリと座る、書道家である、親父殿は存在感が大きいのであった。


 これが三度宮家の日常である。白いご飯に目玉焼き、サラダに少し塩辛い味噌汁。朝食はいくつかのおかずの組み合わせを変えるだけである。それでも、以前はろくな物を食べていなかった。


 僕は死んだ妹の涼香の事を思い出していた。荒れた生活の中で涼香だけが心のよりどころであった。そして、静美は血の繋がらない妹である。僕はこの家族と上手くやっていけるのであろか?


「お兄ちゃん、時間だよ、早くしないと遅刻だよ」


 おっと、黄昏につかっている暇はないらしい。最寄りの駅に向かうと反対のホームに涼香の姿を見つける。僕が声をかけようかと思った瞬間に特急列車が通過する。気がつくと向かいホームに涼香の姿は無かった。僕は疲れているのかと落胆する。


「お兄ちゃん?」


 心配そうに見ている妹に声を返して電車に乗り込む。揺られる電車内で携帯に残っていた涼香の画像を見る。


……。


 言葉にならない気持ちであった。


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