第2話 東京駅

 「おはようございます。」

元気はつらつ!でもなく、かといって眠そうだとか元気がないというのでもなく、綾瀬は穏やかに挨拶をした。待ち合わせをした東京駅の北陸新幹線改札口。キャリーケースを一つ持ち、きちっとスーツを着てそこに立っていた。俺が近づくと、普通に挨拶したのだ。若者のテンションとは、もう少し高いものだと思っていたが、意外に今の若者はこれが普通なのだろうか。それとも、こいつはテンションの低いやつなのだろうか。6つしか違わないのにやたらと世代間ギャップを感じるのはなぜだろう。社会人をやっているといつの間にか年寄り臭い思考になってしまうのかもしれない。

 二人で改札を通り、新幹線の乗り場へとエスカレーターを上った。「MAXとき」が停車していたが、我々が乗るのはその次の「かがやき」である。まだ20分はあるので、ホームにある弁当屋で朝食を買う。これも計画通りである。

 食べ物と飲み物を買い、「かがやき」がホームに入ってくるのを待った。ちなみに、俺の服装はポロシャツとGパンである。綾瀬にも、服装は自由でいいと言ってやれば良かったと思ったが、前の担当もだいたいスーツのような物を着て来たし、彼らには「仕事中はスーツ」というルールがあるのだろう。気の毒だが、サラリーマンの安心と引き換えに差し出す犠牲だから仕方がない。悪い事もしていないのに、明日から急に仕事も収入もなくなるかもしれない自営業や、もう金輪際なにも書けなくなるかもしれない小説家とは、違うのだ。ああ、恐ろしい。

 到着した「かがやき」に乗り込み、座席を確認する。並んで腰かけ、テーブルを出した。

 綾瀬は若者らしくすき焼き弁当を買い、それを広げ始めた。俺は、朝はあまりがっつり食べないので、サンドイッチとコーヒーである。窓の外を眺めながら朝食を済ませ、それからは、寝・・・たりはしない。車窓がどんな感じなのか、小説に書くために、写真を撮ったりメモを取ったりする。都内の様子、埼玉に入り、どの辺から変化してきて、山が見えて、田んぼが見えて、などなど。当然、窓際に座る俺。綾瀬はその隣で、スマホを見たり、やはり手帳に何か書き込んだりしていた。

「何か書いているのか?」

そう尋ねてみた。

「あ、はい。僕、詩を書くんです。」

は?詩?ポエム?

「へえ、そうなんだ。それで、手書きで詩を?」

「はい。これだけは、手書きじゃないとしっくりこなくて。」

綾瀬はそう言って笑った。綾瀬は、日程の予定は全てスマホの中にメモしている。それでも、詩を書く時だけは、小さいノートに手書きで書くと言うわけか。

「それで、今詩を書いていると。」

「はい。」

「どれどれ?」

俺がノートを覗こうとすると、綾瀬は自分の胸にノートをくっつけて、

「あ、ダメです。日記のようなもので、とても人様に見せられるような物ではありませんので。」

などと言う。

「そう、か?」

まあ、見せたくないのなら、いいか。

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