第3話 富山駅

 東京駅を出て2時間11分後、富山駅に到着した。時刻は9時31分だった。この後JR高山線に乗り換えるのだが、次の列車までは約1時間空いてしまうのだった。そこで、車内でつまむ物などを買いに、みやげ物がたくさん売っている場所へ行ってみた。「とやマルシェ」というらしい。

 富山と言えば、ます寿司、白エビ、ブラックラーメン。と思ったら、更に飾りかまぼこなるものがたくさん売っている。魚や花などを象った、色鮮やかなかまぼこ。だが、スティック状のチーズかまぼこが気になって、それを購入した。ます寿司の小さいものと、白エビせんべいも購入。綾瀬を見ると、ブラックラーメンスナックを味見させられていて、そのまま断り切れずに購入していた。俺も近づいて行き、味見をしたが、コショウがかかっているものの、甘いスナック菓子だった。本当にこれでよかったのか?綾瀬よ。

 30分程とやマルシェで過ごし、乗り換えの為に移動した。結局、七越焼という、今川焼のような物も購入し、乗り換えた先のホームのベンチに腰かけて食べた。

「あれ、世良先生、この表示おかしくないですか?」

綾瀬が、すぐ近くの電光掲示板を指さして言った。次はJR高山本線、猪谷行き10時32分発の電車に乗るはずだった。改札口で2番線だと確認して来たのだが、ここにある電光掲示板には32分発の猪谷行きは書いていない。いや、ここは2番線だと思って降りて来たのに、よく見たら3番線ではないか。隣のホームを見ても、2番線がどこにもない!

「あれ?2番線はどこだ?」

二人でキョロキョロ見渡すと、この同じホームのずっと前の方に電車が止まっていて、

「先生、前の方には2番線って書いてあるような・・・。」

綾瀬が言った。

 俺たちはホームを前の方へずんずん歩いて行った。なかなかに長いホームだった。東京なら当たり前の長さだが、途中で2番線から3番線に変わるとは、意外だった。まだ時間があってよかった。発車までに10分くらいあったが、既に電車が止まっていて少し焦る。そして、乗り込んでみたら、何となく古いというか、年季の入った車両だった。これに48分ほど乗って行くのだ。若干不安だ。

 初めは空いていると思ったが、発車間際にわりとたくさん乗ってきて、座席はだいたい埋まった。ゆるく座っていた俺たちも、詰めてくっついて座る事になった。車窓を眺めながら、メモを・・・と思ったが、眠気が襲ってきてウトウトとしてしまった。


 ふと目を覚ますと、座席はいつの間にか空いていた。いくつかの駅に止まったので、乗客が降りたらしい。隣に座っている綾瀬は、俺との間隔を少し開け、何やら熱心にメモをしていた。そうか、ポエムだな。寝ている振りでもないが、体勢を変えぬまま、何となく綾瀬の方を伺う。どんな顔をして書いているのかと、妙に気になった。

 綾瀬は、少し微笑んでいた。笑っているという程でもないが、口角がほんの少し上がっているのだ。その表情は、いつまでも見ていたいような心地良さがあった。

 窓の外を見ると、ダムのようなものが見えた。この辺りには発電所がいくつかあるのだ。きっとそれだろう。静かに水をたたえたダムに、雨が注ぐ。綾瀬が手元から車窓に視線を移した。しばらく外を眺め、またペンを走らせ、ちらっとこちらを見た。

 目が合う。ちょっと気まずい。俺は目線を外してまた車窓に目をやった。


 猪谷駅に到着した。この駅では3分しか乗り換え時間がない。これを逃したら2時間半電車がないのだ。ひっきりなしに電車が来る生活をしている俺からすると、不安で心臓がバクバクする。ただ、向かい側のホームに乗り換えるだけなのだが。

 ホームに出ると、雨が降っていた。そう、ホームに屋根がなかったのだ。そして、向かいのホームに停車しているはずの電車は、はるか遠く・・・という程でもないが、1両編成の電車が、ホームの端っこに止まっていた。傘をさすのも面倒なので、走った。

 無事に次の電車、高山行きの電車に乗り換える事が出来た。この電車には1時間乗る事になる。意外にも、この電車は新しい車体で、新幹線のように全ての座席が前を向いていた。

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