取材旅行と恋のポエム~飛騨高山編~

夏目碧央

第1話 担当者変更

 「先生、これが今度新しく先生の担当となります、綾瀬蓮(あやせ れん)です。先生の大ファンだそうですよ。何卒よろしくお願い致します。」

出版社の社長自らうちに来て、担当が変わる事を告げた。

「綾瀬、こちら世良隆一(せら りゅういち)先生だ。知っての通り、人気作家の大先生だから、失礼のないように、勉強させてもらいなさい。」

社長がそう言うと、綾瀬と紹介された青年は、背筋を伸ばした。

「綾瀬です。よろしくお願いします。」

そして、深々と頭を下げた。

「新人君かな?」

ちょっと皮肉を込める。

「はい!」

綾瀬はただ返事をする。

「いやあ、ベテランの編集者は、新人作家さんにつけないとならないんですよ。でも世良先生なら、担当なんて誰だって関係ない!そうでしょう?」

社長がおべっかを使う。まあいい。口うるさいベテランより、可愛い新人君の方がこちらもありがたい。

「綾瀬君だね、よろしく頼むよ。」

そう言って右手を差し出すと、綾瀬は遠慮がちに俺の右手を両手で包み、握手を交わした。そして、わずかに笑った。ほんの少し、にこっと。

 ほう、イケメンだな。というか、可愛い顔をしている。まあ、どうでもいい事だが。


 かくして、推理小説家、世良隆一と、綾瀬蓮との共同作業が始まったのだった。

 俺が書いている小説は、旅ものである。日本のあちこちで殺人事件が起こるのだ。なので、取材旅行をする。半年に一度くらいの割合で出かける。編集担当にも同行してもらう事が多い。経費を請求するのが面倒だし、後々編集作業の時に話が合うのでその方がいいのだ。

 これから書く話は、岐阜県で起きる事件だ。飛騨高山や白川郷を舞台にして物語が繰り広げられる。その予定だ。早速取材旅行の手配を始めた。行く場所や泊まる宿、交通手段などは全て俺が自分で調べる。その過程もまた、小説のネタになるのだ。今はインターネットであれこれ調べられるから楽だ。昔はどうしていたのだろうか。雑誌や時刻表で?後は行き当たりばったり?それも面白そうだが。ちなみに、俺は28歳。インターネットのない時代などほとんど知らない。

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