第6話:駆け引き

 捕虜にされてから七日七晩過ぎましたが、大したことは何も起こっていません。

 バイロン男爵ジョージ卿も、俺の実力が分からないので、強硬な事はしないようにしているようです。

 俺が何か強い力を隠していて、怒らせてそれを使われては困るのでしょう。

 それができるのは、塩を確保できた事による余裕だとおもいます。


 バイロン男爵家はポーレット侯爵家と敵対しているという話でしたが、普通に考えれば男爵家と侯爵家では経済力も軍事力も比較にならないのです。

 正面から戦えば、絶対に勝つ事はできないでしょう。

 それが余裕を持った態度でいられるというのは、特殊な事情があるのです。

 他領から塩を手に入れることができない隔絶した領地と言っていましたから、守備側が圧倒的に有利な攻めにくい地形なのでしょう。


「オードリー嬢、今日の食事は何かな?

 できれば肉にもっと塩胡椒を利かせて欲しいのだが」


「申し訳ないがそれは無理な話です。

 ミーツ殿のお陰で塩を自作することができるようになったが、まだまだ生産量が少なくて、備蓄できる状態ではないのです。

 ただできるだけ香草を使って美味しく作るように努力しよう」


 俺の事はバイロン男爵家内でも秘密にしているのか、食事の世話をしてくれるのはゴードン卿とオードリー嬢だけだった。

 三人とも大事な話はしないようにして、とりとめのない会話をした。

 何か重大な事に触れて、強硬策に出なければいけなくなると困るので、大体は食事の話になってしまう。

 俺には魔力を高めるための時間がどうしても必要だったのだ。


「俺の事を少しでも感謝してくれているのなら、食事の量をもっと増やしてくれないかな、今の量では向こうで食べていた量の一割にも満たないから」


 俺は大嘘をついて食事量の増加を要求した。

 最初から多めの食事を出してくれているのか、量的には今でも日本にいた頃の三倍くらいあいるのだが、魔力鍛錬を始めた俺には少なすぎるのだ。

 東洋医学の五行思想に従い、経絡経穴に魔力を流して魔力の流れをよくしている。

 三焦経に重点的に魔力を流して、魔力を蓄える器官であろう所に増え続ける魔力を押し込んで、大量の魔力を非常時に使えるようにしている。

 魔力器官を魔力袋だと思い込んだら、いくらでも魔力を蓄えられるようになった。


「向こうではそんなに食べていたのですか?

 向こうの人はみんなそんなに大食いなのですか?」


「いや、向こうの人の多くはこの世界の人と同じくらいしか食べないよ。

 ただ俺が大喰いだというだけだよ、だから俺に感謝していないのなら、今まで通りの量でも構わないよ」


 さて、どうしてくれるのだろうか?

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