第5話:捕虜の扱い
「ミーツ殿、この部屋をお使いください」
俺が塩を作り出してからのゴリラ親父の変化を、現金な態度とか、手のひら返しと言ってはいけないのだろう。
閉鎖された領地で塩がないというのは、死活問題だからな。
絶対に作りだすことができないと思っていた塩を、この領地で大量に手に入れる物から作り出せるとなれば、感謝するのが当然だよな。
だが、領主のジョージ殿には油断がない。
俺がいないところで再検証して、詐術でない事を確かめるようだな。
「ありがとうございます、ゴードン殿」
「いえ、いえ、いえ、ミーツ殿はバイロン男爵家の救世主です。
我が家でできる最高のもてなしをさせていただきます」
さて、今のうちにできるだけ知識を吸収しなければいけない。
特に定番の魔法が使えるかどうかが重大だ。
異世界の知識がある俺を、ジョージ殿が簡単に殺すとは思えないが、何があるか分からないのが異世界転移の定番だ。
それでなくても、敵対しているという侯爵家は、バイロン男爵家が塩を手に入れたと知れば力、力攻めに作戦を切り替えてくるだろう。
「では、この世界の事を教えていただきたいのです。
異世界から来たばかりの私には、この世界の事が何も分かりません。
分からなければ、お世話になるバイロン男爵家のお手伝いもできません。
魔術の事、モンスターの事、この国の事、武器の事、全部教えてください」
「おお、我が家を手助けしてくださるのですか、それはとてもありがたい。
私が何でも教えて差し上げますぞ、ミーツ殿」
しめしめ上手くいったと思ったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
ゴードン殿は駆け引きや軍略が苦手だから、無制限に情報を引き出せると思っていたのだが、ジョージ殿に抜かりはなかった。
俺がゴードン殿から余計な知識を得ないように、お目付け役を付けていたのだ。
「駄目です父上、そんな事をしたら、また御爺様に怒られますよ。
父上は何も考えずに大切な情報まで話してしまうのです。
何度言ったら分かっていただけるのですか!」
「しかしオードリー、ミーツ殿は我が家の大恩人ではないか。
塩の作り方を教えてくださったミーツ殿の頼みを断るなど、あまりにも恩知らずな酷い態度ではないか」
オードリー嬢がとても辛そうな顔をしているが、今回は裏で指示しているジョージ殿の方が正しい。
俺は何も分からない状態で異世界に転移させられた弱い立場なのだ。
その俺から最大限に有利な条件で知識を引き出そうと思えば、隔離して何も情報を与えず、無理矢理奪うのが一番いい方法なのだ。
だが俺には不利だし、黙って言いなりになる義理もない。
これは、前世で考えていた魔力増強法を試して、急いで力をつける必要がある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます