第4話:塩化カリウム

「くっくっくっくっ、確かに異世界人の言う通りだ、名前は大切だ。

 儂の名前はバイロン男爵ジョージ。

 この男が息子で次期当主のゴードン。

 この娘がゴードンの長女オードリー」


 驚いたな、ジョージは婿ではなく実の息子か。

 それにオードリー以外にも才覚のある娘がいるようだ。

 それともジョージかゴードンの妻なのだろうか。

 確認する事で俺の能力を表に出しておいた方がいいな。


「だとすると、もう一人リーゼという名の有能な方がおられるのですね」


「ほう、たったあれだけの会話でそこまで判断できたか。

 これは期待できるな、だったら早速やってもらおうか。

 我がバイロン男爵の弱点は塩がない事なのだ。

 異世界の知恵で塩を創り出す事はできるかな?

 それが無理なら岩塩鉱を発見してくれてもいいぞ」


「父上!」

「御爺様!」


「この弱点はポーレット侯爵家も知っている事だ。

 現に道を封鎖しただけで攻めて来ようともしない。

 異世界人に教えたからと言って今更の話だ」


 なるほどバイロン男爵領は閉鎖された領地で、密かに塩を買う事もできないのか。


「念のために聞いておきますが、領地は海に接しておらず、塩の湖も岩塩鉱もないのですね」


「ああ、ないな、その条件で塩を創り出せるかな」


「燃やす時にあまり煙の出ない草と燃料になる材木はありますか?」


「それなら腐るほどあるが、それで塩が作れるのか?」


「口で話すよりも実際にやってみた方が早いですね。

 灰にする草を入れる大きな鍋もよ用意してください」


「分かった、直ぐに用意させよう」


 ゴリラ親父ゴードンは不信の目つきを変えなかったが、オードリーの目つきは縋るようなモノに代わって来ていた。

 バイロン男爵ジョージの目は、全てを見抜こうとするような鋭さがあった。

 だが、やましい事など全くない俺は平気だった。


 俺は男爵家の使用人達を使って鍋一杯に草を入れさせた。

 薪を使って鍋を熱して草を灰に変えた。

 灰が冷えたら炭や不純物を取り除いて、麻布を通して水でろ過した。

 ろ過した灰汁を別の鍋に入れて再度火にかけ、沸騰させて塩の結晶を創り出した。


「これがカリウム塩です」


 バイロン男爵ジョージが使用人に毒見させた。


「閣下、塩です、間違いなく塩です、これで何の不安もなくなりました」


 使用人がとても喜んでいるが、注意しておかなければいけない事がある。

 あまりにも大量にカリウム塩を摂取してしまうと、死んでしまうのだ。

 塩化カリウムは大量に摂取すると高カリウム血症になってしまう。

 ラットだと二六〇〇 mg/kgで半数致死量となる。

 五〇㎏の人間だと一三〇〇〇〇ミリグラムほどだろうか。

 アメリカ合衆国保健福祉省が推奨している一日の摂取量は。

 塩化ナトリウム:二三〇〇ミリグラム

 塩化カリウム :四七〇〇ミリグラム

 だから、普通に食べる分には大丈夫だと思う。

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