第44話
バビロンタワー38階層の階層主を斃して認証キーを入手した真祖エルフの3人は、39階層へは向かわずに如月家へと帰宅した。
その理由は、ツヴァイが身に着けていた[身代わりのペンダント]が、38階層の階層主との戦いで消滅してしまったからだ。
ペンダントはその役割を十分に全うしたが、ペンダントがない状態での戦闘は極力控えるよう薫から言われているので、3人はツヴァイの新しいペンダントを貰うためにきちんと戻ってきたのであった。
「ただいまー」
ツヴァイは帰宅の言葉を元気よく発する。だが、午前中のためか居間には誰も居ない。真祖エルフの3人は、反応のある薫の部屋へと急いで向かう。
その理由は、獣のような声が聞こえているからだ。
薫の部屋の扉を勢いよく開けた真祖エルフの3人が目にしたものは、薫と半裸の春香がまぐわっている様であった。
「「「……」」」
薫は春香を組敷いて夢中で腰を振っている。しかし、アインスたちに気が付いた春香は外へと呟いた。
すると、完全に気配を断っていたミケとリリム、リリスまでもが現れ、アインスたちを部屋の外へと連れ出した。
閉じられたドアから再び獣声が漏れ聞こえることはなかった。
なお、再び部屋へと戻ったリリスとリリムは、薫から生気を吸い取り消耗の激しい春香へ還元する作業や、防音を担当しているらしい。
だから室外に声が漏れ聞こえたのは、リリスとリリムが態とやった悪戯であった。
リビングへとやって来た真祖エルフの3人とミケ。
「どういう事か説明して貰えるのだろうな?」
アインスの言葉に対してミケが頷く。
「もちろんニャ。取り敢えず、座って下さいニャ」
ミケに促された3人は、ソファーへと腰かける。3人が座るとハーブティーが出された。3人はその意味を正しく理解し、差し出された
ハーブティーを飲む。
「……美味い」
「はぁ、落ち着く味ね」
「本当に美味いな! お代わりをくれ!」
「どうぞニャ」
3人の心が少し落ち着いたのを感じ取ったミケは、説明を開始した。
ダンジョンをクリアして戻ってきた春香は、眠った雫を座敷童たちに任せると薫の元へ。
春香は毎日欠かさず薫に話しかけ、心と体の接触を続けている。
特に最近は、薫と居る時だけタンクトップとショーツという肌の露出が多い姿で過ごしている。そのように春香が努力していても、薫が照れたり興奮したりすることは、全くなかった。
だから、今日もいつも通りの筈であった。
しかし、本日の薫は春香の質問に答えながら、異神と戦ってから先延ばしにしていたスキルの再改造を行ったのだ。スキルの改造は順調に進んでいる様であった。
だが、耐性スキルを改造するために削除した際に問題が起こった。
ミケの予想では、耐性が無くなったことに加えて、春香の魅力が増していたことで薫の性欲が暴発してしまった結果らしい。
いつの間にか、薫の視線は春香に釘付けになっていた。薫の視線に気が付いた春香は、どうかしたのと首を傾げ薫に問いかけたそうだ。
しかし、薫は春香の問いに答えを返すことなく、強引に春香の唇を奪った。突然キスされる形になった春香であったが、抵抗もせずに薫を受け入れた。
春香は薫と肉体的・精神的に繋がりたかったのだから、体を求められただけでも嬉しかった。当然、春香の思いを知っているミケとリリムは邪魔などしなかった。
なお、サクラはコスモスと共に鍛練に出かけている。[開拓都市]から戻ってきたタマにはミケが簡単に事情を説明して、魔道具作成スキルで精神耐性が上昇する装備品を作成して貰っている最中である。
その後、タマから少し遅れて戻ってきたリリスは、ミケの提案を拒否しようとした。先ずは自分たちの主である薫の状態を確かめて、あわよくば自分たちも薫に愛されたいと。
しかし、ミケはタマとリリスのことなど百も承知なので、薫が再びどころか更に強力な耐性スキルを手に入れた場合、今回のような事は永遠に起きなくなる可能性が高いだろうと指摘した。
だが、耐性が上昇する装備品であれば、その装備を外しさえすればタマやリリスの願いも成就する可能性もあるだろうと、心を巧みに誘導し説得に成功したそうだ。
そう、この話はアインスたちにとっても大いに利があるのだ。今まで薫はいやらしい視線をただの一度も3人へ、否、彼女たちが知る限り薫と一緒に暮らすようになってから誰にもいやらしい視線を向けたのを見たことがない。
薫には改造スキルがあるので、耐性スキルの効果が自分たちよりも強力な性能であったと指摘されれば納得できるし、その所為で自分たちへ対する性的興味が薄かったのだと言われれば、心にストンとおさまった。
なるほど、薫がこのまま耐性スキルをより効果の高いものへ改造しようものなら、幾らアピールしても性的な興味を惹くことや行為を要望しても叶う可能性は低いと思い至るアインスたち。
だからこの時、真祖エルフの3人は利が勝ると判断した。
そもそも、アインスたちが部屋へ入る前に阻止できたミケたちであるが、3人には隠さず現場を見せた方が理解を得られると考え、その結果は成功したのだ。
当初は、リリムが魅惑物質スキルを薫へ使用して操ろうかとも考えたが、リリムと同じスキルを持つリリスによって簡単に無効化されるのは予想がつくし、薫の従魔たちはレベルが2も上である。もしも逆上されたならば、勝てる見込みは薄い。
それ以前に、主人の春香から確実に怒られるし解除させられる事が容易に想像できたので、実行などしなかった。
そこで考えたのが、装備品での耐性上昇だ。
装備品自体はミケでも作れるのだが、薫に大した思い入れがある訳でもないミケが作成しても、出来上がるのは良品止まりである。
しかし薫の従魔であるタマであれば、その思いはミケとは比べ物にならないほど強いので、必ず高性能な品を作ると信じて疑わないミケであった。何と言っても、己が主の安全を守る為の品であるのだから。
物作りに自信のあるドライではあるが、タマには自身のスキルレベルを上昇させる反則的なスキルがあるので、協力は必要ないと判断するも、興味があるのでタマのところへと向かった。
ツヴァイは眠っている雫のところへ向かったので、リビングに残っているのはアインスとミケだけである。
どちらにも沈黙するという選択はなかったようで、アインスたちが行って来たバビロンタワー38階層の話をしていた。
そこへ、タマがドライと一緒に戻ってきた。ミケの予想よりも早く完成したのを素直に喜ぶミケ。しかし、タマが作ったのは魅了耐性だけの臨時品とのこと。
「タマニャン、どうしてそんな半端なものを作ったのニャ」
「雫ちゃんが起きたら、主さまも春香ちゃんも困るニャ。間に合わせでも十分役に立つニャ」
その理由は、雫が目覚める前に事態を収拾する為だと答えたタマ。
「うニャッ……ニャンたる不覚」
ミケは己が主の娘である雫への気遣いを怠っていた事実に気付くと、両手で頭を抱えて悶えた。
その後、リリムがあっさりと薫を魅了して魅了耐性が付いた指輪を嵌めさせた。魅了を解かれた薫は、正気を取り戻すと春香へ平身低頭した。
なお、全て薫は覚えているそうで、余りの気持ちよさに腰が止まらなかったそうだ。その快楽は、一番最初にオークを斃しレベルアップした時よりも凄かったそうだ。だから春香を抱いたことに関しては、全く後悔していないと言い切った。
薫は全ての耐性スキルを再獲得すると、改造せずに全状態異常耐性スキルへアップグレードしたが、改造していないので結果的にはダウングレードした。
なお、プライベート空間で耐性上昇の指輪を外している時は、自分の従魔や女性陣への視線がちょっぴりエロくなった薫であったが、忌避される事はなく逆に好意的に捉えられている。
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