第42話
衝突時に発生した衝撃波が地面に転がっている宝石柱を波打たせ、ツヴァイと黄玉蟹王を中心にして外側へ向かって土埃を広範囲に巻き上げる。
ツヴァイの攻撃を真面に喰らった黄玉蟹王であったが、直撃した脚部が折れたり潰れたりする事は無かった。
しかしながら、無傷でもなかった。甲殻の至る所からから生える鋭利な宝石柱だが、目一箇が当たった部分に生えていたものは砕け飛び散ったからだ。
まあ、黄玉蟹王の被害はそれだけで生命力を削れた訳ではない。
ツヴァイが黄玉蟹王へ使用した骨砕打は、強固な防御力を誇る対象にこそ、その真価を発揮するものだ。
黄玉蟹王のように、全身を外骨格で被われているのであれば、その効果は絶大である。
だが、黄玉蟹王の宝石柱が緩衝材の役割を果たしたことで、ツヴァイの攻撃は本体へ届く前に威力がなくなってしまったのだ。
周囲を埋め尽くしている宝石柱であれば障害となる事もなかったのであろうが、黄玉蟹王の体から直接生えているものには魔力が行き渡っているようで、かなり強固な防壁となっているのだ。
それでも、ツヴァイは攻撃を止める事は無い。衝突で反発した力を利用し回転し、さらに勢いを付けながら先程と同じ場所へと攻撃を加える。
ツヴァイの攻撃が直撃するかという所で、黄玉蟹王の姿は掻き消え空振りとなってしまう。
黄玉蟹王はその巨体からは信じられない速度で、ステップバックしたのだ。
ツヴァイには黄玉蟹王の動き自体は見えていたが、直撃目前で回避されたために、そのまま目一箇を振り抜いて回転しながら、黄玉蟹王のいる方向へ向かって叩きつける。
黄玉蟹王の姿自体は土埃の中に消えて視認する事は適わないが、用心スキルがある為にはっきりと捉えることが出来るのだ。
――シャラシャラシャラ
威力の半分以上が地面に吸収されたものの、残った力が宝石柱を弾き飛ばしながら一直線に黄玉蟹王へと迫る。
――ドドドドォーーーーーン
ツヴァイの攻撃が黄玉蟹王へ届く前に、閃光が奔り爆音が轟く。
音の正体は、イフリータによる魔法攻撃が黄玉蟹王へと命中した証である。
イフリータによる攻撃で黄玉蟹王の周囲に漂っていた土埃が晴れる。
そこには、左側の脚を全て失った黄玉蟹王が姿を現した。そして、ツヴァイの攻撃が傷ついた黄玉蟹王に追い打ちをかける。
だが、黄玉蟹王は残った右のハサミを振るってツヴァイの攻撃を簡単にあしらった。
「いいぞ。さすがボスモンスター」
ツヴァイは、イフリータからの完全な不意打ちを受けてもなお戦意を失わなず、威力が大きく減衰した己の攻撃をハサミの一振りで無効化した黄玉蟹王へ感嘆の声を漏らす。
その時、またもや黄玉蟹王を襲う閃光と轟音が辺りに響く。
ドライによって放たれた雷の魔力を纏った魔力の矢が、良い具合に黄玉蟹王の傷口に突き立っている。
それだけではなく、アインスの魔法により作り出された膨大な熱量を放つ青白い光の杭が数本、黄玉蟹王の甲羅に突き立ってボッコンボッコンと爆発音と香ばしい薫りを伴い、白煙を量産している。
波状攻撃を受ける形となってしまった黄玉蟹王はといえば、激しく身悶えながらブクブクと泡を吹いている。泡は口だけでなく、傷口からも絶え間なく発生し続けている。
「「「まだ生きてるよー、しぶといカニだねぇー」」」
対して、空中から黄玉蟹王がまだ戦える状態にある事を把握したイフリータは、次なる魔法を発動しようとしていた。
体の大半を泡に包まれた黄玉蟹王は、右のハサミをクイクイっと動かす。その動きは、干潟でよく見るシオマネキの動きにそっくりだ。
「「「きゃははは、これでおしまいだよ♪」」」
イフリータは炎や氷、雷や嵐の力を宿した魔力の槍をそれぞれが手にしており、黄玉蟹王へ向けて投てき体勢に入る。
しかし、黄玉蟹王を中心に突如として巨大な石礫の嵐が巻き起こり、上空にいたイフリータは弾き飛ばされてしまった。
「「「ひゃーーー」」」
石礫の嵐は近くにいたツヴァイも巻き込み、その新雪のような肌に数多の裂傷を作り出し、小さな体を赤く染めていく。
ツヴァイは黄玉蟹王が嵐招きというスキルを持っている事は分かっていた。だからこそ、予め土属性と風属性を防御力に振っておいたのだ。しかしながら、ツヴァイの想像以上に嵐招きは凶悪だった。
誤算の1つは、嵐招きの発動が速かった事とその効果範囲が広かった事で、回避に失敗してしまった。しかも、これまで戦ってきたモンスターの風系統の攻撃と比べて風に含まれる魔力量が多い所為か、風自体に重さがあるようで、体の動きが制限されてしまうのだ。
もう1つの誤算は、周囲に大量にある宝石柱だ。
黄玉蟹王との戦闘を開始してからも、転がっている宝石柱に変化は見られなかった。しかしながら、嵐招きが発動した途端、宝石柱の1つ1つに黄玉蟹王の魔力が纏いついて、ツヴァイの防御力をあっさりと突破し被害を及ぼしてきたのだ。
だが最大の誤算は、この嵐の中にいるとスキルやアーツが使用できない点であった。この点は、ツヴァイは確りと反省している最中である。
ツヴァイ自身も対象の能力を封じる様なことが出来るのだから、相手が使用できることも想定しておくべきであったと。
「大丈夫かツヴァイ。返事をしろ」
パーティーを組んでいるので、ツヴァイのHPが急速の減っていくのが分かる為に、心配になり声をかける。
同時に、アインスは巨大な嵐に捉えられているツヴァイを救出すべく、嵐に向けて風の魔法で猛烈な突風をぶつけるが、その効果は芳しくない。
「ツヴァイ! もう少しだけ頑張って耐えて」
ドライもツヴァイのステータスが分かる所為で、姉を案じてその綺麗な顔を歪める。
アインスの攻撃が通用しない嵐に、ドライの攻撃など効果はないと頭では分かっていても、弓による攻撃を行わずには居れなかった。
心配する2人の声に即答できなかった自分に腹が立つツヴァイ。蘇生薬の存在を知っていることで、慢心していた事に気が付いたのだ。
己の血煙に覆われたツヴァイが後悔と反省をしていると、急に痛みが和らいだ。気が付くと、ドライの大盾がツヴァイの周囲をがっちりと固めていたのだ。
すぐに己の状況を把握したツヴァイは、全身の痛みと猛烈な倦怠感の中、ドライに感謝しつつ回復薬(極)を服用する。
また2人を悲しませる結果になるところであったと深く反省し、奮起するツヴァイ。
「済まない、2人とも心配させてしまったな。俺はもう大丈夫だ」
「無事なら良い」
「盾を上手に使ってね」
ツヴァイは嵐が治まる間、大盾に囲まれている中で魔石の換装を済ませたのであった。
黄玉蟹王はステータスで己に勝る相手ではあるが、レベルは己よりも低い事でどこか下に見ていたことに気が付いたツヴァイ。
「本気で打っ倒す!!」
ツヴァイは全身から覇気を漲らせていた。
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