第41話
雑魚モンスターから攻撃されたところで傷1つ負う分けでもないが、物理的障害物にはなり得る。
そういう理由で、追ってきた雑魚モンスターを掃討したことで、黄玉蟹王戦前の露払いは終わった。
「よし、始めるか! 最初から思いっきり打ん殴ってくるぞ」
巨大なハンマー、
「無理せずに回復薬をきちんと使用するんだ」
「危険を感じたら必ず盾に隠れなさいよ」
去っていくツヴァイの背に向け、声を掛けるアインスとドライ。因みに小八島は、ドライの頭の上で大人しく見学することになっている。
ドライの周囲に浮遊していた大盾の幾つかが、ツヴァイの後を追うかのようにゆっくりと移動を開始した。
ドライは雷の属性魔石(強)をフルセットしている為に、薄紫色へと変化した服の周囲に青紫色の閃光が発生している。なお、閃光に触れたとしても感電することはない。
ドライは白銀の弓を取り出して構えると、照準器で黄玉蟹王の脚の関節部分へ照準を合わせる。それから弦の無い弓へと魔力を注ぎ始めた。
すると、弓を通して魔力が矢の形を成していき、パチパチと放電する光の矢が出来上がる。しかし、光の矢が完成しても、ドライは魔力を弓へと注ぐことを止めない。
ドライの持つ弓は白銀であるのだが、どんどん魔力を注がれている内に、小さな赤い光点がぽつぽつと灯り始めた。
これは、ツヴァイの様に器用に武器を使い熟せないドライなりの工夫である。点灯している赤い光点の数だけ、いつでも最大威力の矢を射出できる機能を追加しているのだ。
アインスはふわりと浮き上がると、高速で空中を移動してドライと大きく距離をとった。その位置は、真祖エルフの3人がツヴァイを頂点に2等辺三角形の格好となっていた。
「出て来るんだ、イフリータ」
「「「よんだ~♪」」」
アインスが呟くと、アインスの周りにアインスよりもちょっと小柄な少女たちが現れた。アインスに喚ばれ姿を現した少女たちは、翼も羽根も無いのに普通に空中に浮いている。
少女たちはフリルワンピースの水着姿で、キャッキャッと明るく元気な声で笑いあっている。
「標的はあそこにいる蟹だ」
「「「わぁ~、おおきくてキレイなカニ~ぃ。アレって食べても良いの?」」」
少女たちは完全に声を揃えて同じ言葉を発する。しかも、巨大な蟹王を食べる気であるらしい。
「アレは斃したら消えるから食べられない。代わりに、アレの周りにある宝石は好きなだけ食べても良い」
「「「ぶーぶーっ。それだと足りないよ~」」」
アインスはイフリータの答えが分かっていたのか、無言でレベル88の魔石を取り出し彼女たちへと見せつけた。
「「「……じゅるり。美味そう♪」」」
「ちゃんと斃せたらコレをやる」
「「「その依頼、受けた~♪」」」
アインスの言葉を聞いた少女たちは、満面の笑みを浮かべて頷いた。
「妹(ツヴァイ)が攻撃したら、アレと戦闘開始だ」
「「「まっかせてー♪」」」
快諾したイフリータたちは、一丸となって黄玉蟹王へと向かって行った。
彼女たちイフリータは、アインスの【固有スキル】高位精霊召喚魔法で喚び出せる高位の精霊だ。
高位精霊召喚魔法はレベル80で習得したばかりのために、レベルは1と最低なので彼女たちの協力を得るには、召喚時の魔力だけでは足りなく、色々と供物が必要となる。
今回は、アインスよりも明らかに強いボスモンスターの討伐なので、イフリータたちへの供物も奮発したのだ。
因みに、イフリータたちの数は喚び出す度にランダムであるし、現在は最弱の状態だ。それでも高位の精霊であるため、精霊召喚で喚び出せる精霊よりも能力は高い。
なお、イフリータたちはアインスの【固有スキル】であるため、従魔とは別という事でツヴァイは納得している。
アインスはイフリータたちが飛び去ると、MP回復薬(極)を1本飲み干した。
高位精霊召喚魔法を使用したことでアインスの最大MPの9割、240億以上を一気に消費したので回復薬の服用も当然であった。
「ふぅっ。
アインスはMPが完全に回復したことを実感すると、討伐対象である黄玉蟹王を見据えた。
そこには、今まさに黄玉蟹王の脚部へ向けて、目一箇を全力で横凪ぎに振るうツヴァイの姿があった。
――お前は悪くない、だから全力で抗ってくれ。骨砕打!
ツヴァイは己の存在を知覚してもなお、暢気に体のお手入れを継続する黄玉蟹王の脚部めがけ、目一箇をフルスイングした。
――ガキィーーーーーーィンンン
ツヴァイの重い一撃を、無防備な状態で右脚部下位に受けた黄玉蟹王であった。それまで、澄んだ青色をしていた黄玉蟹王の眼が赤く染まった。
硬い物体同士がぶつかり合う大音を周囲に響かせて、階層主との戦闘が幕を開けた。
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