第39話
ここでも集落の者たち(男性)を魅了したツヴァイは、作物を収穫する頃に再びオアシスの町へと訪れる事を約束した。
真祖エルフの3人は、集落に来るまでに入手した素材をフローレシアン族へと譲り渡し終えると、オアシスの町を後にした。
「ドライ、この先はもう回収する物はなかったよな?」
「ええ、鉱物資源は採ったから問題ないわ」
ツヴァイの問い掛けにドライは肯定の返事をする。
「それじゃ、アインス、ドライの順番で跳んでくれ。俺も同じ方向に跳ぶから」
「ああ、任せてくれ」
「わかったわ」
断崖絶壁まで駆けて来た真祖エルフの3人は、崖っぷちで立ち止まることなく駆ける速度を落とすでもなく、大空へと跳躍した。
「はっ」
「えい!」
「やーっ!」
3人が踏み切った場所には、岩肌に足跡がはっきりと穿たれていた。
本来であれば、大気との摩擦熱で発火してもおかしくない程の速度を保ったまま、放物線を描きながら空中を高速で移動していく3人。
しかし、[静寂のブレスレット]を嵌めている効果で、空気抵抗がゼロに近いために大気の壁で大きく減速する様な事は起きず、重力の影響を受けるくらいだ。
空から地上をみれば、3人に気が付いたモンスターが追走してくる光景が目に入る。だが、レベル50以下のモンスターでは3人の速度には及ばない為に、あっという間に視界から消え失せていく。
「ツヴァイ、そろそろ降りる。あと岩山を5つ通り過ぎたら、目的の階層主まで直ぐだ」
「分かった。……ああ、楽しみだな」
アインスの言葉に、ツヴァイは了承の返事をする。今回からツヴァイ1人で戦闘するのではなく、アインスとドライを含めた3人で階層主を相手にするのだから、ツヴァイはとても楽しみなのだ。
1対1で戦うのが好きなツヴァイだが、姉妹と協力して強敵を斃すのは今回が初めてとなるのだから、階層主との戦闘を想像してワクワクが止まらないのだ。
生まれ落ちた時は、
しかし、今回は自らの意思で自らの都合のためだけに、姉妹と協力して階層主を斃すのだ。
階層主と比べれば、ツヴァイたちの方がレベルは上である。しかしながら、ステータスは階層主の方が勝っているので油断はできない。
また、薫の従魔たちが階層主を一方的に斃してしまっていたために、階層主の戦闘スタイルがよく分からない。だから、階層主の姿を知っている事くらいしか情報はない。
この状況はツヴァイにとって大変喜ばしい事であるが、アインスとドライは万全の準備を整えて来ている。回復薬も潤沢であるし、装備も可能な限り性能を上げている。
アインスは角度を調整し、急速に高度を下げていく。ドライとツヴァイはアインスに倣い、角度を微調整していく。
5つ目の岩山を通り過ぎ、地上まであと100mくらいの高度となった時点で、アインスは魔法を発動させた。すると、高速で移動していたアインスの体が空中で静止した。
ドライも自作の腕輪型魔道具を操作して、同様に空中に留まる。
ツヴァイも「天駆」と言葉を発して、2人と同様の状態となる。
彼女たちの視界に映るのは、陽光を反射しキラキラと眩しく輝く黄金色の砂漠だ。アインスは2人の姉妹を目視して頷くと、一言だけ発した。
「降りる」
アインスの体が姿勢はそのままに、スーッと下降していく。ドライもツヴァイもアインスに追従して地表へと下降していく。
3人が降り立った場所は、ここに来るまで見かけた石の欠片が、倍近く大きくなったもので大量に埋め尽くされている。しかも、欠片には丸みが一切なく、鋭く尖っているものばかりである。
この石の欠片の正体は、宝石としても有名な
どうして階層主の一部と断定できるのか?
その答えは、現在進行形で行われている毛繕いならぬ、体のお手入れをしている階層主がいるからだ。
体の彼方此方から生えている黄玉の結晶。その中で、成長し過ぎて邪魔になる結晶を、巨大で鋭く切れ味抜群のハサミで器用にもジャギンジャギンと、適度な長さと鋭さを損なわずに切断している。
宝石蟹系の大型ボス、黄玉蟹王がここ38階層の階層主だ。
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