第38話
岩壁を上った先には、緑豊かな森が広がっていた。この高地には敵性モンスターの反応がない。
真祖エルフの3人は、森に分け入ってどんどん奥へ進む。暫くすると森の切れ目が確認でき、森を抜けた先には沢山の畑が広がっていた。
広い畑の間には小さな貯水池が点在し、水路が規則正しく通されていた。この貯水池と水路は、ドライの指導の賜物である。
つまるところ、畑が広がったのもドライあってのことである。
畑で栽培中の作物は、元々フローレシアン族が育てていた蕎麦に近い植物だ。それに加えて、ドライが持ち込んだジャガイモを筆頭に、数種の穀物と葉物野菜が栽培中である。
さらに、人口の池も作られて魚の養殖も開始されている。
ダンジョンの中であればこの様な事は不可能に近いが、バビロンタワー内ではモンスターの発生する地域としない地域があることで、フローレシアン族は厳しい環境でも生き残ることが出来ていたりする。
農作業中だったフローレシアン族の1人がアインスたちに気が付き、手を振り声を上げる。
「おいでなさいませ、女神さま、アインス様」
1人が声を上げると、作業中の者たちも真祖エルフの3人に気が付いたらしく、作業を中断し同様に手を振ったり声を掛けてくる。フローレシアン族はお互いにテレパシーが使えるのでわざわざ声に出しているのは、アインスたちへ敬意を表しているからに他ならない。
アインスたちは手を振り返しながら、集落へと続く道をゆっくり歩いて行く。
この場所は本当に砂漠の中にあるのかと疑うくらい、畑の作物は青々と育ち、瑞々しい生命力を感じさせる。それは、周囲にある森も同様だ。
この巨大な岩の塊からは、どういう訳か山頂部から水が滾々と湧き出しているのだ。しかし、この水が地表まで届く事は無い。
崖から流れ落ちる水はあっても、風に吹き散らされてしまい、大気に溶け込んでしまうせいだ。
ここの森には特殊な木が生えている。固い岩肌にも食い込んで根を張る広葉樹の
石食は、枝葉は並の植物と変わらないが、呆れるほど幹が堅くて重い。
さらに石食が特徴的なのは幹だけではなく、僅か10年で枯れてしまう点だ。そして、枯れる際に無数の黄色の花を咲かせて、林檎に似た実をつける。
この果実は、フローレシアン族は元より、森に棲む動物たちにも大人気である。
しかし、たった1つだけ、他の実と比べて小さいのに途轍もなく堅く重い実が存在する。それこそが石食の種である。
フローレシアン族は、石食の種を緑のない岩場に置き水を撒くことで、森を増やしてきた。
なお、石食は枯れると魔力を多量に含んだ砂鉄の山となる。これを用いて、この階層のフローレシアン族は武具や生活道具の作成している。
沢山の木造の建物が遠くからも確認できる。あそこがこの階層にある集落、オアシスの町だ。人口は3000人ほどと少ないので、町と命名した薫であった。
オアシスの町には、外敵から防衛する柵や塀などは存在しない。その理由は、この地でフローレシアン族へ害をなす生物は駆逐され、既に絶滅させられているからだ。
道の両脇には、空から次々と舞い降りて来る大型の鳥とそれに騎乗したフローレシアン族の狩猟部隊が列を作り、真祖エルフの3人を出迎える。
総勢100を超える
初めて目にするツヴァイは、瞳を綺羅綺羅させている。
「見事に躾が行き届いているな、天晴れ」
ツヴァイは声に出して褒めていた。
フローレシアン族が騎乗している大型の鳥は、この岩山の途中で営巣している鳥の卵を孵化させて、雛から飼い馴らしたものだ。その為に、気性の荒い個体はほとんどおらず飼い主にはとても従順である。
因みにこの鳥は、世界中に幅広く分布している雀の超大型種である。雑食であるために、餌に困る事は無い。
隊列が終わると、この集落の族長である初老の男性を筆頭に、多くのフローレシアン族が待っていた。
族長のジンドゥバがドライへ頭を垂れながら、挨拶をする。
「ようこそ女神さま、一昨日ぶりでございます。
「一昨日ぶりです、ジンドゥバ。此方にいるのが、私の姉妹のツヴァイです。皆、よろしくお願いね」
ドライは族長のジンドゥバの言葉を肯定すると、ツヴァイを紹介した。ツヴァイは1歩進み出て、自らも名乗る。
「俺はツヴァイだ。皆、よろしく。階層主をこれからすぐに倒しに行くから、また今度な!」
ツヴァイの言葉を聞いた集落の者たちは、一様に心配そうな表情を浮かべている。
やはり、ツヴァイの見た目が自分たちとあまり変わらない身長というのが、一番の原因であるのだろう。
ツヴァイのことが余程心配らしいく、族長のジンドゥバがフローレシアン族の狩猟部隊に途中まで送らせると提案をしてきたが、今回の階層主はレベル66もある強者なので、ドライだけでなくアインスも断った。
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