第119話

 30階層を超えても洞窟は続いていた。さらに出現するモンスターも全て蜘蛛型ばかりであった。同じタイプだけのモンスターしか現れないダンジョンは、春人の経験からしても初めての事であった。


 現在33階層。

 ここで春人以外の全員がマナコイン(小+++)を使用する事にした。皆レベルは31で、盾士のしおりと俊樹の2人は2枚使用済み。他のメンバーは1枚だけ使用済みの状態である。


 マナコイン(小+++)は、レベル31~35までしか使用することが出来ない。この階層に出現しているモンスターのレベルは36である。ここにあるダンジョンコアは(並)以上であることが確定しているのだ。


 ダンジョンコア討伐時にレベル35止まりであれば問題ないが、もしも36以上になった場合はステータス値においてかなり損をすることになる。それ故に、MAX16枚まで使用する事にしたのだ。


 彼らがマナコインを所持しているのに全て使用していなかった理由は、薫からの貸与品であるからだ。彼らにもプライドがあり、自分たちで手に入れた物を使いたいという思いでここまでダンジョンコア討伐を熟してきた。尤も、マナコインを受け取っている時点で今更である。


 現実でのレベルアップ作業は、かなり厳しいものである。


 せっかく討伐したダンジョンでも、レベルアップに繋がらないものがあるのだ。自身のレベルが上昇するほどに、討伐対象は成長したダンジョンとなるのだ。移動距離はもちろんの事、モンスターの強さも増して攻略にも時間も掛かる。

 SPの獲得だけが目的であるのならば全く問題ないのだが、春人と一緒にダンジョン活動を続けたいと思っている面々には、肩を並べられるくらいにはレベルを上げたいと願うのも当然のことであった。



 春人には優秀な従魔が複数いるので滅多なことでは危険になる事はないが、幼馴染らを庇って窮地に陥る可能性は高いと薫は思っている。

 春人の取り巻きがレベルだけの弱小ステータスに育った場合、危険が減ることはない為にマナコインなどのサービスをすることにした薫であった。



 マナコイン使用時に俊樹だけが全部使用することを渋ったものの、春人が自分の持つ余り物のマナコインを渡したことで決着した。消耗品のコインでさえ、敬愛する薫から貰った物は俊樹にとって大切な宝物であるのだ。

 俊樹は春人の気遣いにとても感謝して、何度もありがとうを連呼した。いつもなら英語で礼を述べるのだが、感極まると丁寧になることが発覚した俊樹であった。

 しかし、その後女性3人から腹パンという物理的な嫉妬を俊樹は受けたのであった。俊樹にとって薫から貰った物が宝物であるように、彼女たちにとって春人から貰う物は宝物なのだ。マナコイン(並++)ならそれなりに所持している春人だが、持っていたマナコイン(小+++)が1枚だけだった。



 36階層で新たな変化が起きた。1階層からずっと出現していた蜘蛛型のモンスターから熊になった。

 熊の大きさは3mくらいで、モンスターとしては大して大きくもないが、炎を操る火焔熊、氷を操る蒼氷熊、風を操る疾風熊、雷を操る轟雷熊、土を操る金剛熊がそこら中にいる。しかもレベルは40~41ばかりである。


 仲間たちは元より、その従魔たちよりもちょっと強い個体ばかりである。ここまでそれなりに戦ってきたが、蜘蛛型モンスターとの戦闘に慣れたこともあったからだ。

 それでも、隊列を組んで多少は善戦できていた。散らばっていたモンスターが集まって来るまでは。




 春人が参戦しモンスターラッシュを戦い抜いた一同は、ようやくダンジョンコアへの扉を確認した。ここは最後まで洞窟型のダンジョンであったことが確認できた。


 扉の近くには、10mを超える大きさの熊が3体いた。黒熊、白熊、白黒の熊である。


「どうする?」


 春人の何をが抜けた問い掛けに、カズたちは揃って答えを返した。


「「「やる!!」」」


「じゃあ、お前等はパンダの相手な。残りは俺が片す。ヴァージニア、全員にバフ特盛だ」

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