第118話

 春人たちはスマホの地図アプリを使い、依頼の物件までやって来た。その物件の入り口には、2人の男性が立っていた。2人が身に着けているのは、ダンジョン探索サポートセンターにいた職員たちと同じ服装だった。


「やあ、こんにちは。私はダンジョン探索サポートセンターの乾で、隣にいるのは大塚です。君たちはチームハルで間違いないかな? 間違いなければ代表者はライセンスカードを見せて欲しい。それと、全員大塚の持つステータス判別シートでチェックさせて貰う。中で入手した魔石の買取りに問題はないかな?」


 柔和な顔をした乾と名乗る男性が、春人たちへ話しかけてきた。その隣に立つちょっと厳つい顔の大塚というらしい男性は、先刻見た物と同じ判別シートをこちらの人数分手に持っている。


 春人はスマホで確認する。なるほど、顔も名前も今回の担当者2名で間違いない。確認を終えた春人は、メンバーへ頷くとライセンスカードを取り出し乾へ渡した。


 チェックは直ぐに終わり、春人たちはダンジョンと化したビルへと入っていった。


 残された2人の担当者は、きちんと確認をしてからライセンスカードを提示した春人の評価に〇をつけた。意外とこれを守らない探索者は多く、マイナス評価の対象者が多いことは、職員だけの秘密となっている。




 春人たちの前には、暗闇だけが広がっていた。つまり、真っ暗闇で視界ゼロということだ。しかし、大地図スキルと地図スキルを持つ者たちであるため、階層内を移動する事に支障はないが明かりがあった方が進み易い。


 メンバー内で唯一の回復士である松本藍は、光魔法を持っているので視界確保の魔法を使用した。すると、藍を中心に周囲30mほどが明るくなった。見た感じ足元は固い土のようである。壁や天井は明かりの範囲外にあるため分からないが、地図で確認するとかなり凹凸がある。ここは、洞窟型のダンジョンのようで空気は適温といった感じである。


 春人は、暗闇の戦闘に慣れさせようかとも思ったが、今回は明るさを保ったままクリアする事に決めた。通路は途中で枝分かれしており、上り下りや蛇行などもある。虱潰しに転移陣を探すのは面倒なので、千里眼で行き止まりをチェックして当たりを見つけた春人は、進行ルートを皆に告げて移動を開始した。



 このダンジョンでは、1階層から15階層までずっと真っ暗な洞窟が続き、出現するモンスターも蜘蛛型ばかりが出現した。大きさや形の違いは見受けられたが、蜘蛛であった。

 ダンジョン序盤という事もあり、低レベルの敵に対して陣形を組んだりすることはせず、接敵&進路上にいるモンスターだけを斃して最短距離を進んだ。



 16階層からも洞窟であることに変わりなかったが、暗闇から一転、光を発する植物やキノコが繁茂する多彩な世界が広がることになった。色合いも白から濃い紫と幅広く、常に発行しているものから定期不定期に点滅するもの、葉っぱの部分のみ・幹や茎や柄の部分のみ・実の部分のみ・傘の部位・全体が発光と多岐にわたる。

 明るくなったことを皆が喜んでいる中、春人は愚痴をこぼす。


「いくら幻想的な景色やものがそこにあっても、この手で触れる事さえ出来ねえ。ゲームの背景と違って色んな匂いがあるのも腹立たしいぜ」

「あ~それ分かる。最初は感動してたけど今はもう慣れたっつーか、諦めてるってのが正直なところだ」

「マコ、ハルやカズがらしくねえこと言ってるんだが、あいつらどうしちまったんだ?」

「さあな。本好きの大輔が言うなら不思議じゃない。だがハルとカズだと違和感ありまくりでキモい」

「知ってるかマコ。キモいとかいう奴がキモいんだぞ」

「自分の気持ちに正直なのが俺の美徳だって両親が褒めてくれるんだ。今後も変えるつもりはない」

「うーん、そう言われると恋愛対象がコロコロ変わるマコは正直なのか?」

「おまっ、なんてこと言ってんだよハル」


 山田誠は年齢イコール彼女無しである。そんな誠であるが、女子の情報網を甘く見てはいない。今では恋愛対象から外れているとはいえ、パーティーにいる3人の女子にSNSで拡散されてはたまらない。

 春人と誠が戯れ合いを始めると、俊樹が持論を展開し始めた。


「別にハルやカズを擁護するわけじゃないけど、レベルが上がって僕らの感受性も強くなったのが一因じゃないかな? あとは珍しいものに興味が湧くのは当然だろうし、ダンジョンの中ってわくわくするんだよ。少なくとも僕とダイスケはそんな感じだね」

「そうそう。最初は恐ろしかったダンジョンが今じゃ楽しい遊び場って感じだな」

「「「わかる」」」


 大輔の言葉に皆が賛同する。しかし、全員がデコピンで吹き飛んだ。


「楽しむなとは言わねえが、ゲーム感覚でいると死ぬぞ。レベルが上がるほどモンスターは強力になっていくんだぜ。しかも奴らの方が数が多いんだからよ。ここからは、隊列を組んで進むぞ」

「ねえハル、どうしてここからなの? この階層のモンスター数ってかなり少ないよ?」

「ブクマの言う通りモンスターが少ないな。まだ隊列とか組まなくても問題なくね?」

「あっ! そう言う分けね。トシと僕が前列、カズと藍が後列、残りが真ん中。はい、さっさと並ぶ。ハルは最後尾をお願い」


 何かに気付いた勇気の指示により、仲間たちは隊列を組み始めた。本来は、トシが前列で最後尾を守りながら指揮をするのが勇気である。しかし、春人がいることで勇気も前列で行動する事にした。

 田中智一(弓士)と松本藍が後列に、盾士である永井俊樹と蓮見勇気が最前列、その間に加藤大輔(槍士)・川畑しおり(騎士)・山田誠(剣士)・渡辺穣(剣士)の布陣でモンスターに対処することにした仲間たち。


「ねえハルっち、理由を教えてよ」

「ハル、僕もどうしてここから隊列を組むのか知りたい」


 藍と俊樹の質問に答えたのは、春人でも勇気でもなく智一であった。


「前の階層よりモンスターの数が少ないとか、明らかにおかしいだろ。答えは用心スキルに反応しないスキル持ちだと考えられる。そうだろ、ハル」

「そうか気配遮断スキル! 情報は知ってたけど、こんな状況になるのか」

「気配遮断は隠密と違って視認できるんだから楽だぞ。どっちもレアスキルっぽいから、遭遇する事は稀だしよ。モンスターに集中しすぎてトラップへの注意を怠るんじゃねえぞ」

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