第117話
一通りのレクチャーを受けた春人たちは、ダンジョン探索サポートセンターのメインホールへとやって来た。その目的はパーティー登録であるが、施設内を実際に見て窓口などの場所を把握することも含まれている。
ざわざわとしていたホール内が静寂に包まれたかと思うと、密密とした話声へとかわった。やはり、春人が一番注目を浴びている。その視線の多くは、
その理由は、登録した事で春人のレベルやステータスなどが公開されたことにある。公開とはいえ、個人名で調べなければ知ることなど出来ないが、春人はあの動画で有名となっている。当然、春人がこの場所に来たことを知っている者が大勢いるわけで、調べない者はいなかった。
これまでの最高レベルは41の勇者・魔王・剣聖の3人であったのに、春人はそれを大きく上回っているのだから当然といえる。SNSでは情報が拡散されて、幾つもの掲示板が乱立するお祭り状態となっている。
ゴブリンを1撃で葬れるようになった者たちの中には、春人と並んだ気になっていた者も多かった。しかし、蓋を開けてみればその差はとんでもないものであった。
また、レベルやステータスに関する話題が多いなか、称号、特に上級職転職者(初)は世界も注目することになる。
春人たちは速やかにパーティー登録を行った。個人の登録は無料で出来たのだが、パーティーの登録には10万SPが必要となった。これは、パーティーを組んで活動する事で特典が発生するからだ。
最初の特典は、ダンジョン内で獲得した魔石の買い取り額にプラス3%が上乗せされる。活動実績に伴いパーティーランクが上がることで、特典の質と種類も増えていくそうだ。
初心者ダンジョンでは魔石の獲得量など高が知れているので、パーティーで活動する場所は自然と成長したダンジョンへとなっていく。成長したダンジョンはモンスターの数も多いので、自分たちに適したレベル帯ならば当然魔石の獲得量も増える。そこに買い取り額の上乗せがあるのだから、かなりのメリットであると言えるだろう。
なお、魔石は基本的に全て政府による買い取りとなっているが、パーティーや個人のランクによっては一部そのまま所持する事が認められる。これも特典の1つである。
政府はダンジョン化が確認できた建物には印をつけており、超小型高精細無線式監視カメラを多数設置している。その電源は、魔石という軽量コンパクトにして大容量のエネルギーであるため、ダンジョンの数が大量にあっても十分カバー出来ており、判別は高度AIが行っている。そのため入ダン申請のない者が侵入すれば、即座にダンジョン探索サポートセンターの管理部と巡回班へと報せが入るシステムが構築されている。
印のつけられたダンジョンには2つのタイプがある。
1つは魔石回収用のダンジョンだ。このダンジョンは、魔石を得るためのダンジョンであるために、ダンジョンコアの討伐が禁止されている。その多くが、ダンジョンコア(小+)とダンジョンコア(小++)のダンジョンであり、出現するモンスターのレベルは1~30である。
これらは、新人族部隊がダンジョンコアを確認しており、魔石というエネルギー資源の回収用のため討伐せずに管理されることになったダンジョンだ。現在は、文京区・豊島区・荒川区の3区に集中している。
もう1つは討伐対象のダンジョンである。こちらはダンジョン化が確認されていてダンジョンコア(小+++)以上と考えられている。討伐するにはそれなりの強さが必要となるため討伐依頼物件とされており、少ないが報奨金と探索者としての活動実績にカウントされる。
なお、7都市以外にあるダンジョンは未だ管理できる状況に至っていない。そのため政府の規制外となっていることで、そちらへ遠征して稼ぐ者も多いのが現状だ。
政府がパーティー活動に特典を付けてまでパーティーを組ませようとするのは、ダンジョンでの死亡率を低下させるという目的が一番大きい。それならば、別に登録しなくても良いわけであるが、パーティー登録時にはメンバー全員に2cm角のタグが渡される。
このタグは、[生命の記録]という名の魔道具であり、個人でも売買システムで購入可能な物だ。その効果は、
この機能に目を付けたのが政府である。ダンジョン内では殺人を犯しても立証は難しい。しかし、この魔道具をパーティーメンバー全員が使用していれば、全滅しない限りは証拠が残るのだ。特に人間同士の争いであった場合は、有力な証拠となる。仲間が事故で死んだと報告をされた場合でも、生き残っている者の魔道具を確認すれば、その真偽は容易であるからだ。また、探索者の証言のみよりも、強力なモンスターや特殊な能力を持ったモンスターの確認にも有効であると考えられている。
春人たちはゴーストタウンと化した東京を見学する気はないので、ダンジョン討伐の依頼を受ける事にした。依頼を受ける場合はスマホでも可能なので、ここに来るのは討伐報告時だけで良かったりする。しかし、折角窓口があるのだから使わない手はない。
なお、パーティーとしての依頼を受ける場合は、パーティーリーダーが申請する事に決まっているので、この場合は春人が行うことになる。
依頼窓口には人集りどころか列さえ出来ておらず、利用している者が2人いるだけである。依頼を受けたい者は、朝一で並び依頼を受けたかスマホで依頼を受けたかのどちらかで、今頃はダンジョンで魔石回収の作業中か向かっている途中なのだろう。
つまり、ここにいる大勢の登録済の者たちは、臨時・常時パーティーのマッチングの場所として利用しているのだろう。もしくは春人たちのように登録後に見学をしている者たち、またはその両方である可能性が高い。
春人は、自分から一番近い
「いらっしゃいませ。依頼の受諾に来られた方でよろしいでしょうか」
「ああ、そうだ。ダンジョン討伐をするんだが、個人宅じゃないタイプの
「畏まりました。入ダン料は一律3000SPとなっておりますが、ご存じでいらっしゃいますか」
「問題ねえ」
春人は受付嬢の差し出したチケットを3000SPで購入した。
「それでは、ライセンスカードをこちらに提示してください。はい、確認できました。如月春人様ですね。今回の討伐は、パーティーで行われるということでよろしいでしょうか」
「ああ、それで頼む」
「畏まりました。少々お待ちください」
受付嬢は春人が仲間たちの中から向かってくる様子を見ていたので、個人ではなくパーティーでの依頼ではないかと気を利かせたのだ。普通なら魔石回収が一般的であり、ダンジョン討伐を受けたがる者は全体の1割にも満たない。しかし、目の前にいる人物は見た目とは違い国内でも、否、世界屈指のハイレベル新人族で間違いない。心配することの方が烏滸がましい。
受付嬢は港区西新橋1丁目にある物件を紹介した。
「現在はここ千代田区を中心に、港区と中央区の建物の破壊とダンジョン討伐が政府より推奨されています。こちらの物件ですと、活動実績が個人・パーティー共に多く得られるのでお勧めです」
「そうなのか。えっと、栗田さんありがとな」
春人は、受付嬢の左胸にある顔写真付きの名札を確認してからお礼を言うと、仲間たちの元へと戻っていった。
春人に笑顔でお礼を言われた受付嬢は、にやけそうになる顔を必死で堪えていた。両隣にいる同僚からの視線が痛いからだ。だが、苗字を呼ばれた嬉しさは我慢の限界を簡単に突破し、すまし顔は破顔してしまった。
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