第96話
自宅に帰り着いた薫は、春香とドライにカミーユを紹介した。カミーユの職業と能力に驚く2人に対して、カミーユの方はそれ以上に衝撃を受けていた。
薫の嫁を名乗る女性は、カミーユの想像を軽々と超えた美の体現者であった。何しろ、ドライの余りの美しさにカミーユは呼吸をする事も忘れてしまったほどだ。薫の軽い威圧を受けて正気に戻ったカミーユは、漸く己の状態に気付かされたのだから。
婚約者の女性もまた、美しい女性であった。ドライという存在を見ていなければ、世界一の美人と認めたに違いないと思ったカミーユであった。
薫が軽く言った〝心が折れなければ〟という言葉が、冗談ではなかったのだと、カミーユは痛感した。
しかし、現在のカミーユは病魔から解放された。その心は更に強靭になっており、憧れた存在が彼女で在ることを認めたのだから、白旗なんて揚げていられない。
カミーユは堂々と胸を張り、自分は薫の彼女だと告げた。もちろん、カミーユの心臓は緊張で鼓動を速め、その顔は赤くなっていた。宣戦布告したも同然なのだから、きつい反応が返ってくると構えていたカミーユであったが、笑顔で迎えられたことで一瞬呆けたものの、これまでの孤独から解放された思いが一気に溢れだし、うれし涙で薫たちをちょっとだけ困らせた。
薫はカミーユに対し、異空間タイプの魔道具を体験させ、ダンジョン化できるかどうかを試した。魔道具の持ち主が既に決まっている物は、カミーユの能力でもダンジョン化は不可能であった。その事に多少は安心した薫であるが、カミーユの職業レベルが低いので、今後も試していくことを忘れないようにメモした。
次に、[安らぎのコテージ]の持ち主をカミーユにして、ダンジョン化できるかどうかを試した。ダンジョン化は見事に成功し、カミーユは誰にも邪魔されることのないダンジョンを、新たに入手する事ができた。
魔道具の異空間の中に、更に異空間たるダンジョンの作成が出来たことに、カミーユはかなり驚き喜んだが、薫は驚きもしなかった。その理由は、実際に薫が体験しているからだ。
カミーユは勇気を総動員して、感謝とお礼だよと言って、薫の頬にキスをした。カミーユには薫が照れたり喜んでいる様には見受けられないので、多少ショックではあったが笑顔を崩さなかった。カミーユも自分が痩せていて、以前よりも魅力が減少している事を自覚していたためである。
薫が100%の耐性を持っている事など全く知らないカミーユであるが、薫から愛を囁かせるという大目標を決意し努力することを誓った。
キスをされた薫の方は、一瞬爆発的に気分が高揚したが、スキルにより鎮静化された為に表情に現れる事はなかった。しかし、短い時間の中で薫の思考は確かに動揺し、めっちゃ興奮したのだ。
母親や幼少期ではなく、現在の自分とあまり変わらない異性からのキス。例え頬とはいえ、美少女からキスされて、嬉しさと恥ずかしさで興奮しないはずがない。薫はまだDTで、女子というよりも友達付き合いじたいが最低限だったのだから、カミーユから受けたキスは、とてつもない破壊力を持っていた。
従魔たちと接する時とは、また感覚が違う肉体言語の威力であった。
薫が未だに1つしか入手出来ていない魔道具[荒野]。この魔道具は、内部を開発・発展させることで名称が変化する、面白いものである。薫はその中に、自身の空間収納で作成した倉庫を設置しているのだ。異空間の中に異空間を作れた薫だから、カミーユも[安らぎのコテージ]をダンジョン化できるだろうと考え、実行させたのだ。その目論見は、見事に成功した。
再び自分のダンジョンを手に入れたカミーユは、ぐーたらしていても勝手にSPが増えるしスキルポイントも貯まるようになった。しかし、このままではカミーユ自身のレベルは上がらないので、どこかで大量のモンスターを狩るかダンジョンコアを討伐するしかない。
薫は迷宮主の職業レベルが上昇することで発現するスキルに興味があるので、カミーユのレベルを上げる事にした。
カミーユのダンジョンコアに別のダンジョンコアを吸収させることで、カミーユのダンジョンが強化されることについては、カミーユのレベルがある程度高くなってから試すことにした薫である。カミーユ本人よりも、薫は迷宮主のダンジョンに興味を持ったのであった。
薫は忘れているのだが、迷宮主のダンジョンで作成されたモンスターは鍛錬をすることで、迷宮主と同じレベルまでレベルアップし強化もされるのだ。
さらにダンジョン攻略においては、攻略対象のダンジョン内にも自身のダンジョンを作成できるので、モンスターにモンスターをぶつけることで、カミーユ自身は戦闘することなく、ダンジョンコアを獲得できるのだ。相当な格上を相手に選ばなければ。
春人が迷宮主の能力を知れば、血の涙を流して悔しがることだろう。その性能差は、魔物使いの上位互換どころではないのだから。
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