第93話
薫は、フランス勢と一緒にパリまでやって来た。彼らの用意した乗り物もボールドイーグルであったが、ボリス大使曰くコンコルドとのことであった。見た目はまんま白い箱なので、箱で良くねと思う薫である。
パリには、天を衝く建物群が存在していた。おそらくDX系だと思われる。あの区画一帯に以前何が存在したのか分からないが、頑固で有名なパリ人がよく承諾したものだ。通行人や車両が行き交っていない道路は、どこか物寂しさを覚えるが、遠くない未来復興するんだろうなと、信じて疑わない薫であった。
バジリカ大聖堂へと到着した薫は、中には入らずスキルを使って覗いてみた。モンスターは徘徊しているが、見た感じ成長したダンジョンではないようだ。
モンスターのレベルが低いのでダンジョンを討伐する気になった薫は、ダンジョンコアを探すことにした。ダンジョンコアの近くには、護衛らしきモンスターがいる場合が多い事を、これまでの経験で学んでいる薫は、モンスターが複数固まっている場所を優先して探っていく。しかし、防御力に特化したモンスターがうじゃうじゃいるので、鬱陶しい。
そうとは知らないボリス大使は、薫がダンジョン内にも入らず、ただ突っ立っている事を心配して、どこか調子でも悪くなったのかと声を掛けた。
「全然、どこも悪くないよ。今ちょっと中を覗いてたんだ。確かにダンジョン化してるけど、成長はしていないね。ここは、モンスターは弱いけど数が尋常じゃないね。でも、すぐに終わると思うから、大人しく待っててよ」
ボリス大使とその取り巻き連中は薫の言葉に驚きながらも、これが世界一と噂される新人族かと、素直に納得していた。現時点で、レベル70未満のモンスターを斃せると言える者など、目の前の少年以外にいないに違いないと確信している。
すると、その如月薫が見つけたと言ってすぐに消えた。残されたボリス大使たちは、所在なくその場に佇むしかなかった。
薫は瞬間移動ではなく、亜空間を移動して目的の場所へとやって来た。そこから様子を見ると、先ほど精霊眼で覗き見ていた光景があった。
その場所は、ダンジョン内にあるのにダンジョンとは異なった空間である。その空間には服が乱雑に脱ぎ捨てられており、お菓子やカップメンの空容器などが散らかる汚部屋と呼ぶに相応しいものである。
ベッドの上では、だぼだぼのTシャツを着て寝ころんだ状態で本を読んでいる少年がいる。少年の名前はカミーユ・ルソー16歳。薫と近い年齢であるが、その四肢はかなり細くて頼りない。青い瞳に目鼻立ちの整った面立ちは、間違いなくイケメンである。
薫がこの少年に興味を持ったのは、少年の職業が迷宮主であるからだ。少年のすぐ近くには、形は同じだが虹色をしたダンジョンコアがふわふわと浮かんでいる。
詳しく見てみると、カミーユ・ルソーのダンジョンコア(Lv2)と表示される。つまり、バジリカ大聖堂ダンジョンは、カミーユ・ルソーのダンジョンであるのだ。いくらバジリカ大聖堂内を探索したところで、ダンジョンコアを見つけ出すことは不可能なのだ。
この場所を見つけ出し、入ることが出来なければ。
薫が発見できたのは、亜空間を作ったり移動したり出来るスキルがあるおかげであった。ダンジョンコアを探していたところ違和感を覚えた薫は、己の直感を信じて一点を集中して視た結果、異なる空間を見つけ出すことに成功したのだ。
薫は、カミーユの空間へと侵入することにした。自身の作成した亜空間をカミーユの空間と繋げたのだ。薫と己の空間が繋がったことに気付いた途端、カミーユは侵入者へ攻撃するのではなく、頭を抱えてガタガタと震えながら命乞いを始めた。未だ侵入者である薫の姿を目にしてもいないのに、心から怯えているのがよく分かった。生来が臆病なのか、それとも後天的にこの様にならざるを得なかったのか、薫には分からない事である。
薫はスマホを取り出すと、カミーユへと話しかけた。
「初めまして、カミーユ・ルソー。僕はこのダンジョン化したバジリカ大聖堂を元に戻して欲しいと、この国の大使から依頼を受けた如月薫というものだ」
すると、震えていたカミーユが薫の名前に反応して、顔を勢いよく上げた。そして、薫の顔を食い入る様に見つめてきた。青い目のイケメンに見つめられるも、直前まで震え怯えていた面影が、一切なくなっている事に興味を持った薫であった。
「わあーお、夢みたい。本物のカオルに会えるなんて。神様ありがとうございます。あなたを呪ったことを懺悔しますから許してください。これからは、毎日祈りを捧げる努力をします。あ、カオルは日本人なのにフランス語が上手なんだね」
感情が爆発したのか、顔を上気させて捲し立てるカミーユ。どうやら、薫の事を嫌ってはいない様で、話し合いで解決できるかもと思う薫。
なお、薫はフランス語を話しているわけではない。音声翻訳アプリ万歳である。
「カミーユ・ルソー、質問しても良いかな?」
「うん、何でも聞いて。そんなに物知りじゃないけど、分かることなら答えられるから。君の動画を見てから世界が変わったんだ」
薫は、カミーユ・ルソーのダンジョンコアの特性を聞くことから始めた。カミーユ・ルソーの説明によると、普通のダンジョンとの違いが刳いものだった。
このダンジョンは、ダンジョン内で行動するものが増えれば増えるほど、それに比例してSPが貯まり、スキルが使用されればスキルポイントも貯まる。行動するものは、人に限らずモンスターでも構わないそうだ。だから、モンスター同士を訓練という名目で戦闘させることで、スキルポイントも入手できる。そうやって貯まったものは、ダンジョンマスターであるカミーユ・ルソーが好きに使用できるそうだ。
ダンジョンコアのレベルに応じて、作成できるモンスターやダンジョンの広さも変わるそうだ。そして、作成したモンスターは成長もするそうだ。
カミーユの能力は、ニート垂涎の能力であった。薫的にはかなり羨ましいと思えた。しかし、薫とて働かなくても衣食住に困らない立場なのだから、お前が言うなである。
自前のダンジョンコアを成長させるには、自身の職業ランクが上昇しないと無理であるらしい。しかし、普通のダンジョンコアを吸収させることで、領域を広げ階層を増やすなどの強化をすることが可能であるらしい。
なお、設置したダンジョンの移動も可能であるらしく、カミーユ・ルソーと敵対しなくてもバジリカ大聖堂を開放することが出来ると分かり、薫は再度ここを訪れた理由を説明した。
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