第92話

 薫は、さっそくUSの依頼から片づける事にした。だが、その前にフランス勢に確認することにした。ここで待っているか、外に出るかである。

 薫の考えでは、それほど時間を掛けずとも楽に済むと考えている。だから、待たせたとしても2時間も掛からないだろうと説明した。ボリス大使は取り急ぎの用件はないので、ここで待たせてもらうと返事をした。

 薫は建物内の機能を限定的に使う許可を与え、[開拓都市]を自由に見て回ることの許可も出した。一言、迷子になっても責任は取らないと付け加えて。


 アメリカ勢と日本勢も、建物内や開拓都市を使用したり見学したいと主張したが、アメリカ勢は薫と一緒に移動するので当然却下され、日本勢には動物園の問題に早く対処して貰いたい薫なので、こちらもまた却下された。

 マイク大使は、自分が同行しても仕方ないと言い張ったし正論でもあったが、US側から擁護の声が一切上がらなかったことで、薫と同行することに決まった。



 [開拓都市]から如月家の敷地へと出た一行は、それぞれに行動することになる。もちろん日本勢は東京へと引き返していった。薫とアメリカ勢は、USの所有する【乗り物】であるボールドイーグルに乗り、目的の原子力空母まで移動することになった。

 このボールドイーグルの大きさは、トヨタのクラウンを想像してもらうと分かり易い。名前は白頭鷲であるが、見た目は長方形の箱である。入り口は両側面に2か所あり、中は異空間であるらしく滅茶苦茶広い。ゆったりとした座席は座り心地も良く、リクライニングも可能。前後の席の間も1mとかなりゆとりがある。そんな席が200席ほどある。

 薫は笑顔のマイク大使に席を勧められ大人しく座る。当然、横にはマイク大使が座り、ボールドイーグルの説明を始めた。

 ボールドイーグルは最高速度マッハ15で、ワシントンDCと東京間を30分もかからず移動できる超高速航空機だという。しかも、220人の人員を一度に運べる上に衝撃波も生み出さず搭乗者への負担も全くないと、もの凄く自慢している。薫はマイク大使の話を止めさせることはせずに、黙って聞いていた。


 目的地までおよそ4500km、わずか11分ほどで到着した。マイク大使の自慢した通り、離陸・加速・減速・着陸に至るまで一切の衝撃を感じなかった。隠密烏も同じではあるのだが、見た目の美しさや隠密性については比べようもないので、そこは黙っておいた薫である。



 空母の甲板はかなり殺風景であった。戦闘機やヘリ等、ただの1機も見当たらない。その理由は、発見後、空間収納に特化した能力者が、速やかに回収したからだ。


 薫は聞いてもいないのにまたしてもマイク大使から、近接防御火器システム 近接防空ミサイル シースパロー艦対空ミサイル 不発弾を投棄するためのボム・ジェティソン・ランプ 統合型カタパルト制御システム、通称「バブル」と呼ばれる昇降式のコンパートメントなどの説明を受けた。


 軍艦に特別興味のない薫にとっては、聞き流すだけであった。マイク大使も、薫の興味を引けなかったことに気付いたようで、ダンジョンコア討伐を頼むと、強引に幕引きを図った。


 薫はその場でダンジョンコアを探る。このダンジョンは全56階層で、最高レベルのモンスターはレベル59のやけにメカメカしいゴーレムであった。沢山の砲門とミサイルを搭載し、中央の胸部に当たる部分には円形の巨大砲があり、その内部には赤い稲妻が迸っている。

 しかし、このモンスターには用心スキルが反応していない。こいつの周りにいる、2つの頭をもつ犬型モンスターが集団でいたから発見できたのだ。

 こいつはテイム可能なモンスターなのかと、疑問に思う薫。仮にテイムできたとしても、こんなゴツイ奴を従魔にする気が1nもない薫は、忘れる事にした。


 ダンジョンコアの確認も出来た薫は、ダンジョンコアをあっさりと討伐し、ドロップ品を回収してから、そばにいるマイク大使にミッション完了を告げた。


 驚いたマイク大使たちは、薫なりのジョークと受け取った様で、一頻り笑った後に、改めてダンジョン討伐を頼んできた。しかし、討伐し終えた薫の返答が変わるはずもなく、護衛の一人を確認に向かわせたマイク大使。

 それからすぐに身振りと大声で叫ぶ護衛。空母のレーダーが動いているし、ゆっくりと航行し始めている。ダンジョン化が解けている事実を受け入れたマイク大使は、速やかに迷宮化防止結界の設置と対処を命じた。


 マイク大使は如月薫に関する情報収集を欠かしていなかったので、この少年が長距離攻撃能力を有する可能性も知っていた。

 しかし、現実はどうだ。目の前で起きた事が、未だに信じられないのだ。ダンジョンへ入ることもなく、ダンジョンコアを討伐したであろう如月薫。能力者の報告では、ダンジョンコアには敵意や害意がないので、用心スキルでの発見は困難な事を知っている。

 ならばこの少年は、一体どうやってダンジョンコアを見つけ出したのか?


「キサラギボーイ、聞いても良いかね?」

「なに?」

「一体どうやってダンジョンコアを発見したのかね?」


 マイク大使は、おそらく如月薫が答えることはないだろうと思いつつも、聞かずにはおられなかった。如月薫が長距離攻撃能力を有している事は、確認できたのでそこは良い。だが、ダンジョンコアの発見方法はどうしても知りたいのだ。

 すると、マイク大使の期待に応える回答があった。


「ああ、千里眼ってスキルがあるんだよ。これは、どんな場所でも見通せるスキルなんだけどさ、慣れないとトラウマになりそうな場面を視る事になるからきついよ」

「千里眼」

「そそ。その千里眼と地図と用心を組み合わせれば、結構簡単だよ。今回のダンジョンみたいに成長したダンジョンは、最深層にダンジョンコアがあるから楽なんだよね」

「楽……頼もしい言葉だな」


 マイク大使はスキルの情報にもかなり目を通している。だから、地図スキルと用心スキルの最大範囲が、3kmだということも知っている。どう考えても最深部までは届かないだろうと、ツッコミを入れそうになる。

 しかし、如月薫が長距離攻撃能力を有しているのは確認することが出来たし、攻撃目標を的確に確認する術を持っている事も理解できた。何よりも、ダンジョンコアの討伐に慣れきっている事が、少年の言葉から感じ取れた。


「フランスの方もあるからさ、なるべく急いでね」

「あ・ああ、問題ない。USは精鋭ぞろいだからすぐに終わるだろう」

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