第27話

 薫が動画をアップしようと準備を終えたころ、5人が帰宅した。


 薫からの報告を受けた4人は、春香以外はあっけらかんとしていた。春香は、顔を引きつらせている。


「認識の甘い馬鹿がまだいるんだな。息子に手を出すとは。俺がその場に居たなら、庭の木に吊るして晒し者にしてやったものを」

「ほんとよねー。もし、ご遺族の方がいらっしゃったら、慰謝料を請求しましょうね、あなた」

「ああ、もちろんだ」


 これまでと違い、両親も物騒な会話を交わす。

 春人は、驚きの目で両親を見ている。春人には、薫を襲った連中に良い感情は一切ないため同情心もないが、殺すとか吊るすなどの考えは、流石に湧かないのだ。

 春香は、あまりの内容にコメントできずにいる。


 そこへまた、薫が過激な言葉を口にした。両親は薫の意見に肯定的な様である。


「家の前で騒いだら”(この世から)消す”って書き込もうと思うから、来ないんじゃない?」

「確かにそうだ。後出しではなく、事前に警告しておくのが良いだろう。良い所に気が付いたな、薫」

「こちらからじゃなくて、相手から仕掛けたって事が重要になるのよ。警察に電話しているのに、警察が対応しなかった動画を上げるのは、そういう意味でもとても効果があるはずよ」


 春人は、これまでと逆の行動を取ろうとする薫に対して、素直に疑問をぶつけた。


「なあ、兄貴。自分から情報を出すってのは、どうしてなんだよ? 俺らには漏らすなって言ってたじゃん」

「んー。あいつらの顔を見てもさ、仲間って感じが全くしなかったんだよ。だから、殺す時も躊躇しなかったし、殺してからも良心の呵責さえ感じなかった。それは今もだ。逆に、幽霊を倒した時の方がショックだったな。だから、以前の僕とは変わったんだと痛感してる。でも、僕から積極的に誰かをどうこうするつもりはないけど、降りかかる火の粉は一切容赦しないことに決めた。それに、これから娯楽を生み出す人間が減ったら、僕の人生の楽しみが減っちゃうからさ。新人族には、そういう人たちと共生して欲しんだよ。だから、この動画とある程度の情報開示は、世間への意思表示かな」


 春人は、薫が力に酔いしれて暴力的になったらどうしようかと不安であったが、そうでもないらしいので一安心し、幽霊の存在に興味がわいた。

 薫の情報開示うんぬんには、もう口出ししない事にしたようだ。


「へぇー、幽霊っているんだ。やっぱり足がなかったり、こう両手を前に垂れ恨めしや~的な?」

「ああ、いるよ。日本風じゃなくて両足のある西洋風だけど。まあ、幽霊の話よりも、先にみんなの戦果を聞かせて欲しいかな。僕が動画をアップするのは決定事項だから、どれくらい情報を流すかは、みんなの意見も聞きたいから、最後でいいよね?」

「そうね。一旦、お茶をしてからにしましょう」

「私、美玖さんの意見に賛成です。ちょっと落ち着いて情報を整理して考えたいので」



 薫は、4人の戦果を聞くことにした。まずは母親の提案通り、お茶を飲んで落ち着いてからだ。


 気分がリフレッシュしたところで、テーブルの上に、迷宮核の宝箱(小)が5個置かれた。

 薫以外の4人の顔には、笑みが浮かんでいる。

 最初に口を開いたのは、春人だった。


「なんだかなぁ。簡単すぎて期待はずれもいいとこだったぜ。醜いゴブリンと不細工なコボルトしかいなかったし。テイムする気も起きなかった。俺のワクテカを返せって叫んじまった」


 春人の愚痴に、一緒に行った3人が頷いている。

 楽に攻略出来たのだから良かったことなのに、簡単すぎて肩すかしをくらった気分なのだろう。

 まあ、ドロップ品はあったみたいだし、それ故に笑みも浮かぶのだろう。


「それじゃあ、傭兵の出番はなかったのかな?」

「ええ。使用する必要性を感じなかったわよ。罠は在ったんだけど、簡単に見破れるものだったのよ」


 薫の質問に、母親の美玖が答える。


「それってスキル関係なく?」

「否、探索スキルを習得していたお陰だろう。ただ、浅い落とし穴だけだったからな。落とす目的と言うよりは、つまずかせるって感じだったな」


 今度は、父親の武彦が答える。


「父さんの場合は、そう感じたんだね。春人とはるかさんは、罠をどう思った?」

「罠もショボかったぜ」

「私も、だんだん緊張しなくなるくらい、子供の悪戯いたずらと思える簡単な罠でした」

「へぇー、怖い罠だね」


 春人と春香の感想を聞いた薫は、怖い罠であると評した。それについて、理解が及ばない春人と春香は首を傾げる。

 そんな2人に説明するように、武彦と美玖は話をする。


「そうだな。ダンジョンの難易度が上がったことに気がつかないと、罠であっけなく死にそうだな」

「広くなくてモンスターも弱い。個人宅は、チュートリアルダンジョンって感じかしらね? 慣れて舐めきってしまった人が難易度の上がったダンジョンに挑んだら、死亡者がたくさん出そうな感じね」


 薫と両親の会話を、春人と春香の2人は、真剣な顔で聞いていた。春香は、チュートリアルの意味が分らなかったらしく、春人に尋ねていた。


「他には何かあった?」

「ああ、やはり実際に戦うと気分が高揚したな。雑魚とはいえ」

「ええ。得物を振るうのに、狭い場所もあったんだけど、良い経験になったわよね」

「そうだ、兄貴。はるか姉ちゃんの符術って凄かったんだぜ。こう、モンスターに札が貼りついて爆発するんだよ。ボンッってな。俺の鞭さばきも兄貴に見せたかったぜ」

「おい春人。父さんの火弾や魔力弾だって凄かっただろ」

「まあ、確かにカッコ良かった。でも、親父は武器を使った戦いの方がもっとイケてたぜ!」

「私も、武彦さんが刀でモンスターを倒す様には、圧倒されました。美玖さんも、鮮やかにモンスターを薙いで優雅に蹴散らす姿がとても素敵でした」

「あら。ありがとう、春香さん」

「そっか。みんな、ダンジョン討伐は楽しめたみたいだね」

「レベル差があったからな。そうだ、薫。父さんは手に入れたぞ」

「母さんも手に入れたわよ」


 薫は何のことだと、春人と春香に視線を向けたが、2人にも分っていない様だ。

 ニヤニヤしている両親に、薫は仕方なく聞くことにした。

 諦めの速さは相変わらずの薫である。


「それで、2人は何を手に入れたの? 当然、教えてくれるんだよね?」

「「【アーツ】だ(よ)」」


 薫は、そんなモノもあったなと、思い出した。従魔に習得せてもいいかなと思っていた薫ではあるが、自分で覚える気はないので、失念していたのだ。

 1日前の事を忘れる薫は、健忘症の気があるかも知れない。


「習得できたんだ、良かったね2人とも。使用したらMPって減るのかな? 武器で普通に攻撃するよりも、威力がアップしたりするの?」

「覚えたてだからな、威力はそれなりだ。あと、MPも消費するが気にならない程度のものだ。【アーツ】にもレベルがあるから、レベルアップしてみないことには今後MPの消費が上がるかどうか分らん」

「その為にも、明日は今日よりも強いモンスターが出るダンジョンに行こうと思ってるわ」

「そうなんだ。気を付けてね。強いモンスターってどれくらいのレベルなの?」

「今日遭遇したのはレベル10未満のモンスターばっかりだったな。個人宅は弱いのばかりなんだろう。正にチュートリアルだな」

「よーし、俺も明日はカッコいいやつをテイムするぞ」

「春人きちんと警戒を怠らずに行動しろよ」

「だーいじょーぶだって」


 軽い態度で応じる春人を心配する薫であるが、両親も一緒に行動するのだからと、それ以上心配するのをやめ、別行動を取った結果を報告することにした。


「あとさ、やっぱりパーティーを組んでいても、一緒のダンジョンにいないと、報酬は貰えないね」

「やっぱりそうなるのね」

「それって普通じゃね?」

「ゲーム的な感覚だとそうだけど、現実だからな。これからも、色々と試していかないとな。父さんはとても楽しいぞ」

「そういえば、みんな同じレベルになったんだし、今日の夕食はお祝いでもする?」

「兄貴、良いこと言うじゃん。今夜は初級到達者記念パーティーだー」

「いいわね。お祝いしましょう。春香さんと雫ちゃんの歓迎会も一緒にしましょう」

「そういえば、歓迎会をやっていなかった。春香さん、こちらから誘っておいて申し訳ない」

「いいえ。武彦さん、頭を上げてください。美玖さんも止めてください。私たちはとても感謝していますから」


 その日は、1時間話し合い、2時間ほど飲んで食って騒いだ後、薫以外は早々に就寝した。やはり実際にダンジョンに入り、モンスターやダンジョンコアを討伐して来たのだから、みんな相当に疲れていたようだ。


 薫は、空間収納でささっと後片付けを済ませると、1人で動画のアップと開示しても良い情報をSNSへとアップすることにした。


 ”新人族狩りが来たので、正当防衛で対処した”と。

 ”目には目を、命を狩る行為には命を持って償わせる”と。


 もちろん、SNSは荒れに荒れた。

 大人ではない者達の、命を軽視した命の遣り取りに。

 あまつさえ、旧人類は新人族に、傷を負わせられない事が発覚したのだから。

 モラル云々は元より、旧人類と新人族での口撃戦となったのだった。

 そして、変わってしまった世界において有用なアイテムの存在に歓喜した。

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