第20話
モンスターが出現し、日本のいたる所で被害が出始めて、その翌日には略奪行為が始まっている。
警察は頼りにならない事を、身をもって知った。
このような状況で、新しい職が見つかるとも思えない。職が見つからなければ、来月には今の住処を出ていかなければならない。
可愛い一人娘は、まだ1歳にも満たない。
天野春香は、決断した。
「お言葉に甘えさせていただきます。娘と2人、よろしくお願いします」
彼女は、如月家の厚意に縋る事にした。
◇◇◇ 如月家
家の中には如月一家の4人と、天野母娘がリビングにいた。
あのあと、3件目のドラッグストアで商品を購入し、銀行によってから帰宅したのだ。銀行へ寄った時、薫は貸金庫や金庫を荒らしたりはしなかった。ダンジョンコアで賄える事を知った薫には、銀行を襲う気は微塵もないようだ。
薫の母親である美玖は、軽く会話を交わしたりしながら春香へ気を配っている。
「はるかさんは、1階の空き部屋を使って頂戴。お昼を食べたら、引っ越しをしましょうね」
「お、お世話になります」
如月一家の世話になることを決断した春香であったが、未だに戸惑っている事を察している武彦も、春香に軽く声掛けをする。
「そんなに緊張しなくてもいいからさ、はるかさん。とはいえ、初日からは難しいだろうから、ぼちぼち慣れてけばいい」
「でもさ、家の車とはるか姉ちゃんの車を使っても、家具とか運ぶの無理じゃね?」
「春人、黙ってろ」
「なんでだよ」
春人は、薫にでこぴんを受け悶えている。薫は手加減をしたつもりであったのだが、まだまだ調整が必要なようだ。薫は、ステータスの低い春人で力加減の実験を行っているようである。
世の中の多くの弟という存在は、兄の理不尽な行為を受ける事が多いのである。
春人を沈黙させた薫は、春香にあるキーワードを伝えることにした。
「引っ越しとか、とても簡単だから。はるかさん、ステータスオープンって言ってみて。別に言葉に出さなくてもいいけど」
薫の言葉に、春香は疑問を浮かべながら「ステータスオープン」と、言葉を発した。
「何これ!? あっ、ええぇ!?」
春香は驚きの声を上げている。
如月一家は、全員が経験済みなので、笑ったりすることなく生暖かく見守っている。
少し落ち着いた春香は、誰に問うでもなく呟く。
「これは一体どうなって……」
あくまで推測であるがと前置きして、あのウイルスに感染した者は、ステータスオープンと口にするなり念じれば、ステータス画面が表示されること。
職業を得る事で、モンスターと戦う力を手に入れられるようになること。
スキルポイントを消費することで、職業以外の新しいスキルを手に入れられること。
自分以外の能力者とパーティーを組む事が出来ること。
売買システムでこれまでになかった物を購入できたりすること。
などを、大雑把に説明した。
しかし、春香は現金の入金が出来ないという。彼女のSPは当然0なので、SPをCPに両替することも確認できないとのこと。
だが、薫は「すぐに解決するから心配ない」と、一蹴した。
「えーっと、追加で重要な事を。急激にレベルアップすると、身悶える事になるんで、覚悟しててね。たぶん、1回で済むと思うから。そのあとに、力加減を覚えてね」
薫は出来るだけフランクに話した。春香は、薫が猫をかぶっていたのを知った。だが、悪い気どころか嬉しく感じた。
昼食を終え、全員で春香のアパートへ向かった。
アパートに着いてから、薫は近くのダンジョン化した個人宅を見つけた。
住民は留守なのか殺されたのか不明だが、モンスター以外の反応はなかった。
薫はさくっとダンジョンコアを1つ討伐した。
勿論、ドロップ品も回収した。
現在のところ、虹色のコイン1枚と奇麗な小箱1個がセットでドロップしている。
――ああっ!? はあああぁぁぁぁん!
春香は絶叫して、蹲ることとなった。原因は、急激なレベルアップによるものだ。
赤ん坊は、母親が預かっているので問題なかった。
幸い、近所から人が出てくることはなかった。日本なのに。
両親と春人もレベルが2つ上がったようだが、3人は最初の時のような激しい快楽を覚える事はなった。3人とも薫の言葉を疑っていたわけではないが、以前のような事にならずに済んで少なからず安堵していた。
薫のレベルは、上がらなかった。多少はレベルアップを期待していた薫であるが、そろそろ簡単にレベルアップはしないだろうと思っていたので、あまり落胆してはいなかった。
「薫、黙ってするんじゃない!」
「薫は、夕飯抜きがいいのかしら?」
「ばか兄貴」
もちろん、両親と春人から責められた薫であった。現在の薫にとっては、食事を作ってもらえなくても全く困らないが、一応反省しているようだ。
こうなることは事前に説明をしてはいたが、実行前にもう一度告げるべきだったと思ったので、春香にも謝罪をした薫であった。
春香が落ち着いてから、引っ越し作業をみんなで始めるはずであったが、春香が空間収納を習得したことで、手伝うこともなくなった。
幸いにも、春香の契約しているアパートはダンジョン化していなかったので、安全かつスピーディに作業は終了した。
時間が余ってしまったので、ダンジョンに行こうと春人が提案したが、赤ん坊がいるので4人から却下された。春香は赤ん坊の安全が第一なので、その場でしっかりと意思表示した。
薫が反対した理由は、ただただ面倒くさいからであるが。
だが、時間が余ったのは確かである。
5人は、改めて話をする事にした。
「あー、ダンジョン行きたい。従魔が俺を呼んでるんだ」
「春人、それってまじ厨二発言だから」
「なっ!? もうチュウニじゃねえし。俺中3になったし」
春人は、わざとそんな言い訳をした。父親も母親もオンラインゲームで知識があるので、スルーしてあげる事にした。
春香には、その辺の知識がないので疑問の表情を浮かべていた。
「近くのダンジョンコアを、あと2つか3つ潰していいかな? 僕もレベルを1つ上げたい。そうすれば、はるかさんのSPもスキルポイントも余裕が生まれる。そしたら、僕以外の4人でパーティーを組んでダンジョンに挑めばいいよ」
「薫はそんなにダンジョンが怖いのか?」
薫が意見を出したことで、みんながざわついたが、父親が代表して口にした。
「怖いよ。ゲームじゃなくてリアルだからね。この先、僕のスキルが効かない相手がいる可能性もある。それに、僕は従魔を3体も購入してるんだ。従魔のレベルも上げたいんだよ。今のままだと、鑑賞用で終わっちゃうし」
「魔物使いの俺でさえ、まだ従魔がいないのにぃぃぃぃぃ」
「春人、静かにしなさい」
「……」
「僕はビビりなチキン野郎で構わない。いざ、窮地に陥った時に、すぐに逃げられる手段を手に入れるまで、危険は冒したくないんだ」
「瞬間移動スキルか」
「瞬間移動スキルね」
「そそ。それに、ダンジョン内で活動することで、今後別の能力者と接する機会は確実に増えると思う。僕は人間を殺したくはないんだよね。やられたらやり返すのが僕のポリシーだから、攻撃されたら殺しちゃうと思う」
薫の発言に、はるかと春人が表情を引きつらせる。
両親は真剣に聞いていた。
「確かに、他の能力者と接触するリスクは増えるだろう。父さんが物理耐性スキルを習得したのも、基本は人間を警戒してのことだしな」
「そうなのよね~。力に溺れる人間って必ず出てくるのよ。そういう輩には、言葉は効果がないのがね~」
「リアルで甘い対応をとれば、死ぬだけだよ。生き返らせるスキルや魔道具や薬は、現在のところ見つけてないからさ」
「兄貴がいればじょぶじゃん。ぶっちぎりステータスにチート級のスキルなんだし」
「春人、僕は職業を得るときに、魔王って職業があったのを見ているんだ。魔王の職業に就いた人が善人である場合もあるかも知れない。でも、善人が他人に迷惑をかけないとは限らないし、僕と敵対しないとも限らない。僕は目立たずにレベルアップしておきたいんだよ。だから、僕の情報を誰かに勝手に教えるなよ。春人はぽろっと漏らしそうだから」
「魔王とかあんの? まじで!?」
春人の反応に、薫はそっちかよと思ったが、敢えて無言を貫いた。
しばし無言の時が過ぎる。
「よし、今日は薫のレベルが上がったら帰ろう。明日の事は、またあとで話し合おう。はるかさんもそう言う事で構わないかな?」
「は、はいっ。よろしいです」
はるかの答えに、みんなから笑いが起こった。
結局、ダンジョンコアを2つ討伐したら、薫のレベルは18へと上がった。
家族は3人ともレベルが15になり、はるかのレベルは14になった。
キサラギ・カオル(15)
【種族】 新人族
【Lv】 18 new
【職業】 現創師ランク2
【状態】 健康
・HP 855/855 new
・MP 855/855 new
・腕力 354 new
・頑丈 354 new
・器用 354 new
・俊敏 354 new
・賢力 354 new
・精神力 354 new
・運 354 new
【スキル】
・空間拡張レベル2
・空間収縮レベル2
・HP上昇レベル9 new
・MP上昇レベル9 new
・腕力上昇レベル9 new
・頑丈上昇レベル9 new
・器用上昇レベル9 new
・俊敏上昇レベル9 new
・賢力上昇レベル9 new
・精神力上昇レベル9 new
・運上昇レベル9 new
・鑑定レベルMAX
・千里眼レベルMAX
・地図レベル8
・用心レベル8
・情報偽装レベル2
・魔物調教レベル3
・清浄レベルMAX
・物理耐性レベル1
・魔法耐性レベル1
・ストレス耐性レベル1
【固有スキル】
・スキル改造レベル2
【EXスキル】
・究極空間収納(∞)
【称号】
・生還者 ・大物殺し
・迷宮核討伐者(初)
【所有スキルポイント】 0P new
キサラギ・ハルト(14)
【種族】 新人族
【Lv】 15 new
【職業】 魔物使いランク2
【状態】 健康
・HP 274/274 new
・MP 312/312 new
・腕力 77 new
・頑丈 77 new
・器用 39 new
・俊敏 39 new
・賢力 106 new
・精神力 106 new
・運 77 new
【スキル】
・鞭術レベル2
・魔物調教レベル2
・手加減レベル2
・従魔召喚レベル2
・HP上昇レベル6 new
・MP上昇レベル6 new
・腕力上昇レベル6 new
・頑丈上昇レベル6 new
・器用上昇レベル6 new
・俊敏上昇レベル6 new
・賢力上昇レベル6 new
・精神力上昇レベル6 new
・運上昇レベル6 new
・物理耐性レベル4 new
・鑑定レベルMAX
・空間収納レベル1
【固有スキル】
・魔物魅了レベル2
【称号】
・迷宮核討伐者 ・大物殺し
【所有スキルポイント】 11P new
キサラギ・タケヒコ(41)
【種族】 新人族
【Lv】 15 new
【職業】 魔技侍ランク2
【状態】 健康
・HP 264/264
・MP 290/290
・腕力 114
・頑丈 106
・器用 106
・俊敏 106
・賢力 114
・精神力 106
・運 77
【スキル】
・刀術レベル2
・剣術レベル2
・魔力弾レベル2
・火弾レベル2
・HP上昇レベル6 new
・MP上昇レベル6 new
・腕力上昇レベル6 new
・頑丈上昇レベル6 new
・器用上昇レベル6 new
・俊敏上昇レベル6 new
・賢力上昇レベル6 new
・精神力上昇レベル6 new
・運上昇レベル6 new
・物理耐性レベル4 new
・鑑定レベルMAX new
・空間収納レベル1 new
【固有スキル】
・魔刀解放レベル2
【称号】
・迷宮核討伐者 ・大物殺し
【所有スキルポイント】 11P new
キサラギ・ミク(40)
【種族】 新人族
【Lv】 15 new
【職業】 尼闘兵ランク2
【状態】 健康
・HP 330/330 new
・MP 330/330 new
・腕力 114 new
・頑丈 114 new
・器用 90 new
・俊敏 90 new
・賢力 114 new
・精神力 114 new
・運 90 new
【スキル】
・長刀レベル2
・物攻上昇レベル2
・単体回復レベル2
・複数回復レベル2
・HP上昇レベル6 new
・MP上昇レベル6 new
・腕力上昇レベル6 new
・頑丈上昇レベル6 new
・器用上昇レベル6 new
・俊敏上昇レベル6 new
・賢力上昇レベル6 new
・精神力上昇レベル6 new
・運上昇レベル6 new
・物理耐性レベル4 new
・鑑定レベルMAX
・空間収納レベル1
【固有スキル】
・複合結界レベル2
【称号】
・迷宮核討伐者 ・大物殺し
【所有スキルポイント】 11P new
アマノ・ハルカ(19)
【種族】 新人族
【Lv】 14 new
【職業】 姫巫女ランク2 new
【状態】 健康
・HP 300/300 new
・MP 337/337 new
・腕力 120 new
・頑丈 120 new
・器用 133 new
・俊敏 120 new
・賢力 133 new
・精神力 133 new
・運 133 new
【スキル】
・符術レベル2 new
・霊弾レベル2 new
・癒しの祈りレベル2 new
・浄化の祈りレベル2 new
・禊の神域レベル2 new
・HP上昇レベル5 new
・MP上昇レベル5 new
・腕力上昇レベル5 new
・頑丈上昇レベル5 new
・器用上昇レベル5 new
・俊敏上昇レベル5 new
・賢力上昇レベル5 new
・精神力上昇レベル5 new
・運上昇レベル5 new
・物理耐性レベル4 new
・鑑定レベルMAX
・空間収納レベル1
【固有スキル】
・神降ろしレベル2 new
【称号】
・迷宮核討伐者 new ・大物殺し new
【所有スキルポイント】 15P
「……やっぱ兄貴のスキルはチート過ぎだろ」
春人はレベルアップして嬉しくもあるが、直接戦闘もせずに対象を破壊する薫のスキルをチートと呼ぶことで、無自覚の不満を解消していた。
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