第9話

 医師が説明をしている中、薫はスキルポイントを使って、いくつかのスキルレベルを上げていた。

 快楽耐性はなかったものの、なくて良かったとほっとしていた。


 なお、現創師により得たスキルレベルには、スキルポイントを振っていない。空間拡張と空間収縮は問題ない威力なので、貴重なポイントを割り振る必要性を感じないからだ。


 なお、スキル改造には、スキルポイントを振ることができなかった。

 スキル改造のレベルアップは、職業ランクを上げないと無理のように感じた薫であった。


 ついでに売買システムへ画面を切り替え、大量に手に入れた宝石が売れるのかを確かめる事にした。


「んんん? マジかよ、SPがめっちゃ増えてんだけど」


 薫は、スキルの検証でSPをかなり消費していた。記憶が間違っていなければ、残りは80,634SPだったはずだ。なぜ、細かいことまで憶えているかは、薫のみぞ知る。


 それが、191,634SPになっているのだから驚くわけだ。


 100,000SPは、【称号】大物殺しのボーナスである。

 ステータス画面を見落としていた薫である。


 宝石は魔石であった。

 最初に倒したオーク(伯爵)の魔石は10,000SPで売れる。

 あと小さい魔石が1個10SPで売れるのが60個、1個20SPで売れるのが20個ある。


 魔石の数イコール現在、薫が倒したモンスター数である。

 最初の個体を除いて、80体を倒しているが、まだレベルアップはしていない。


 どうやら、最初のモンスターは格が違ったようだ。豚野朗とはいえ、流石は伯爵が付いていただけはある。


 薫は、スキル画面に切り替えると、魔物調教スキルを習得するとすぐにレベルを3まで上げた。

 魔道具は、1体に1回使いきりで、それなりの値段がするからだ。


 当然、薫の目的は従魔を購入する事である。


 薫は、またもや悩んでいた。

 さっきの行動力はどこへ行ったのか。

 しかし、3候補のうち2候補は購入できるのだが、1体を切り捨てる選択が、薫にはなかなか出来ないのだ。

 まだ、購入していないのだが。


 悩んでいた薫の耳に入ってきたのは「――襲撃されています。このフロアの防火扉はすべて閉じているので、階段は使用できません。エレベーターも使用できなくなっています。2か所の滑り台で駐車場へ避難します。職員の指示をよく聞いて、順番を守って静かに行動してください」と、医師が話を終えたところだった。


 どうやら、医師と師長が主導する2班に分かれて行動するようだ。

 しかし、2つの滑り台は5mほどしか離れていないので、2班に分かれても並ぶためだけで、ここからの移動距離も15mほどである。


 薫は医師の班に属し、職員の出した滑り台の列に大人しく並ぶ。

 その間、地図スキル3と用心スキル3で拡げた索敵範囲にいるモンスターを倒して、魔石を回収していく。血しぶきや血糊で床や壁が着色されているが、死体が散乱していることはなかった。モンスターは、殺した人間をきれいに処理しているようだ。食事中のモンスターを見ても薫が感じたのは嫌悪感のみであり、殺された者の敵討ちをしようと思うようなことは一切なく、ただ単に屠る。

 この行動により、この病院での犠牲者が減少した。薫的には、人助けをした気持ちはさらさらなかったが。


 訓練だと、滑り台で降りられない人が出るものだが、みんな命がかかっているので、淀みなく滑り降りていく。

 悲鳴と警報と雄叫びが聞こえているのだから、留まりたい者などいないわけだ。


(おお、レベルアップしたぞ。さっきみたいな強烈な感じはまったくないな。慣れたのかな?)


 薫は、ステータス画面を開き、ステータスをチェックする。



   キサラギ・カオル(15)


 【種族】 新人族

 【Lv】 15 new

 【職業】 現創師ランク2

 【状態】 健康

 ・HP  520/520 new

 ・MP  520/520 new

 ・腕力  221 new

 ・頑丈  221 new

 ・器用  221 new

 ・俊敏  221 new

 ・賢力  221 new

 ・精神力 221 new

 ・運   221 new


 【スキル】

 ・空間拡張レベル2

 ・空間収縮レベル2

 ・HP上昇レベル2

 ・MP上昇レベル2

 ・腕力上昇レベル2

 ・頑丈上昇レベル2

 ・器用上昇レベル2

 ・俊敏上昇レベル2

 ・賢力上昇レベル2

 ・精神力上昇レベル2

 ・運上昇レベル2

 ・鑑定レベルMAX

 ・千里眼レベルMAX

 ・地図レベル1

 ・用心レベル1

 ・情報偽装レベル1

 ・清浄レベルMAX

 ・物理耐性レベル1

 ・魔法耐性レベル1

 ・ストレス耐性レベル1

 ・魔物調教レベル3 new


 【固有スキル】

 ・スキル改造レベル2


 【EXスキル】

 ・究極空間収納(∞)


 【称号】

 ・生還者         ・大物殺し


 【所有スキルポイント】 140P new



(1レベル上昇でステータスが1.1倍になるのか。尖ったステータス構成じゃないって、平凡で良いな。魔石も56個増えたし)


 順番がきたので、薫は淡々と滑り台を使って滑り降りる。

 先に降りていたナースが、上半身で受け止めてくれる。

 合法セクハラ万歳!


「お疲れ様でした。次の方が降りていらっしゃるので、あちらへ」


 薫は、ナースにお礼の言葉と返事をしてから、自分の班へと向かう。

 レベルアップもしたことだし、近くのモンスターはかなり倒したので、薫は狩りを中止した。

 モンスターは、依然として出現し続けているのだが。


 どうやらモンスターは、建物から出る事は出来ないようだ。モンスターの行動範囲が、病院の敷地内とかだったらこの駐車場も危険だが、建物内限定で間違いない様だ。つまり、屋上も避難場所としては使える。梯子車などの救助は必要になるが。


 薫は、家族への新たな情報として、モンスターは建物内から出られない事、なるべく建物内から出るように、家に着いたら庭で待機しようとメールした。



 未だに病院の建物内は、阿鼻叫喚の状態であることがこの場にいる者には理解できるのだ。

 運よく建物内から逃げだせた者が助けを乞うているが、助ける余力のある者はいないようだ。否、もしかしたらモンスターが出て来て襲われるかもしれない恐怖に、足が竦んでしまっているのかもしれない。あの付近のモンスターは、粗方狩りつくしているが、それを他者へと報せる気はない薫である。


 班の人数確認も終わり、薫は自宅へ帰る旨を班長である医師に伝え、タクシー乗り場へと向かう事にした。


 病院スタッフに引き留められた薫は、「今日は元々退院日であるし、病院の建物内はモンスターが出るので、駐車場に留まっていても仕方ないでしょ。だから、僕は家に帰ります。家族にも連絡して返事も貰っているから」と、スマホを見せながら笑顔で言い切った。


 確かに建物内ならばともかく、風が吹けば肌寒い季節のため、この場で待機させて症状がぶり返しては、元の木阿弥どころか病院の信用問題だ。

 そうとは言え、この異常事態に未成年をたった1人で行動させて何かあれば、こちらも信用問題になる可能性も高いのだ。

 しかしながら、相手の家族も少年が戻ってくるのを望んでいるため、これ以上引き留めるわけにもいかず、気を付けて帰るように言い含めた医師らであった。

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