第8話

 薫は、ナースを前に俯いている間に、オーク(伯爵)の居た部屋をみていた。

 そこには、500円玉よりもかなり大きな青く輝く宝石が転がっていた。

 どうやらモンスターを斃すと、モンスターの肉体や所持していた武器は消えるようだ。


「……ゲームかよ」


 ナースがいるので、ぼそりと呟いた薫である。

 薫は、空間収納で青く輝く宝石を回収した。


「ん、んん。如月さん、緊急事態です。みんなで避難しますので、至急ナースステーションまで同行して下さい」


 言い終わるや否や、ナースに右手首を掴まれた薫は、大人しくナースの後を小走りでついて行く。


(そっちへ行ってどうするって言いたいが、能力は知られたくないし、取り敢えずついて行くか。単独よりも、人に紛れていた方が僕の能力も隠せるし)


 なお、薫はナニがナニで汚れていたのを、急いで清浄スキルを習得し使用して奇麗にしたので、臭ったりしない。


 ナニもしている。


 ナースは、を確認して薫を先導しているのだ。素晴らしいプロ意識だ。


 薫は、廊下を移動している最中にも、近くにいるモンスターを空間拡張で始末している。

 どうやら、先程のオーク(伯爵)よりもレベルの低いモンスターらしく、レベルアップはしない様だ。当然、宝石は回収している。



 ――キャアァァァァァァ


 ――ジリリリリリリリリ


 ――ブモォォォォォォォ


 ――ギャアァァァァァァ


 ――ブッヒヒィィィ


 警報が鳴り響く中、なかなかの惨劇が起きているようだ。

 しかし、薫には関係ないことだ。

 少なくとも、知り合いが襲われているわけではないので。


 家族へは、メールで状況説明と家へ帰る事を知らせているし、家族からは今のところ危険な状況にはないと返信が来た。


 薫同様、家族にも避難所へ向かうという発想はない様だ。

 危険な状況になければ、避難所へは行かないだろう。


 ナースステーションへ辿り着くと、患者とスタッフとの間で小競り合いが起きていた。

 60代の角刈りで色黒の太った男性が、医師を大声で怒鳴りつける。


「何が起こっているか、ちゃんと説明せんかっ! テロでも起きておるのか? どうなんじゃ? 緊急事態だけじゃ、みんなも不安にしかならん」


「皆さんが集まったらご説明しますので、今しばらく大人しくお待ち下さい。大声を出されると、貴方様も周りの方も体に良くありません」


 師長らしき人物が、怒っている男性を宥めている。周囲の患者の反応は、老人の主張にやや傾いている感じがする。


(今来たばっかりの僕は、待ってないから不安が増すってこともなかったし。でも、この爺さん、自分の事で怒ってる老害ってわけじゃなさそうだ。迷惑だけど)


 薫がそんな事を考えていると、ここまで誘導してきたナースが、先程の師長らしき人物へと報告する。


「師長、西棟の患者様全員、確認できました」


 ナースの報告に、師長が頷き、医師へと報告する。


(あっ、師長さんで当たってた)


 50代と思しき細身の男性の医師が、説明を始めた。

 そんな中、薫はこれ幸いと、自身のステータスチェックを始めた。



   キサラギ・カオル(15)


 【種族】 新人族

 【Lv】 14 new

 【職業】 現創師ランク2 new

 【状態】 健康

 ・HP  473/473 new

 ・MP  473/473 new

 ・腕力  201 new

 ・頑丈  201 new

 ・器用  201 new

 ・俊敏  201 new

 ・賢力  201 new

 ・精神力 201 new

 ・運   201 new


 【スキル】

 ・空間拡張レベル2 new

 ・空間収縮レベル2 new

 ・HP上昇レベル2

 ・MP上昇レベル2

 ・腕力上昇レベル2

 ・頑丈上昇レベル2

 ・器用上昇レベル2

 ・俊敏上昇レベル2

 ・賢力上昇レベル2

 ・精神力上昇レベル2

 ・運上昇レベル2

 ・鑑定レベルMAX

 ・千里眼レベルMAX

 ・地図レベル1

 ・用心レベル1

 ・情報偽装レベル1

 ・清浄レベルMAX new

 ・物理耐性レベル1

 ・魔法耐性レベル1

 ・ストレス耐性レベル1


 【固有スキル】

 ・スキル改造レベル2 new


 【EXスキル】

 ・究極空間収納(∞)


 【称号】

 ・生還者         ・大物殺し new


 【所有スキルポイント】 136P new



(おおっ! レベルが一気に14になってる♪ レベル36の格上だと、こんなに上がるものなのか。キャップ制限とかあるゲームだと、経験値減少とかあるし。これは、現実だけどな。それだけでなく、職業ランクが2へ上昇、空間拡張・空間収縮・スキル改造のレベルも2になってるじゃないか)


 薫は、顔がニヤけてしまうのを堪えながら、ステータス画面を見ている。


 どうやら、レベルアップによるステータスボーナスは、ランダムではなく一定倍率であるようだ。ランダムであれば、HPとMP、腕力から運までの値に違いが表れていなければならない。

 しかし、HPとMP、腕力から運が同じ値であるため、レベルアップ毎に元ステータスが数倍されているとわかるのだ。


(スキルポイントが136Pか。やはり、1レベルアップで10P貰えるって考えていいのかな? まあ、まずは快楽耐性を習得しないと)


 薫は、スキルの画面で快楽耐性を探すが、見つからなかった。


(おいおい、苦痛耐性があるのに、快楽はないのかよ。……そっか、普通に考えれば、快楽を失ったら楽しみなんて失うよな)


 薫は、レベルアップの弊害に耐える決心をした。本当は、急激なレベルアップであった為、あれほどの快楽を得た事を、薫は知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る