第6話
4月8日
退院を明後日に控えた如月薫は、家族が差し入れた本を、ナースから受け取った。
本は、ラノベと週刊誌と国語辞典。
ラノベは、新刊と見た目がきれいな中古品に、薄汚れた中古品だ。
週刊誌は、少年マンガと少女マンガとファッション雑誌。
国語辞典は、中古品だ。
全てひっくるめて、予算5,000円以内で、家族に購入して来てもらったのだ。
流行病で死んでいたかも知れなかった息子の頼みを、家族は快諾した。馬鹿親族とまでいかないが、そうとう薫に甘くなっている。
「よーし。どれくらいのSPになるのか、楽しみだ」
そういって、売買システムで本の値段を確認していく薫。
室内からは、持ち出し禁止状態なので、まだ売り払うわけには、いかないのだ。
前回売ってしまったラノベは、等価で買い戻した。9割引というキャンペーン中でなかったら、大損していたところだ。
「ふーん。新刊のラノベときれいな中古品のラノベは同額か。雑誌はドングリの背比べ状態で、薄汚れた中古品ラノベと、同じく中古の国語辞典が同額か」
結果をしっかりと、スマホのメモ機能で保存していく薫。金が絡むと、勤勉になるようだ。
今のところ、銀行強盗をする気はない様で、一安心である。
現創師になってから今日で4日が経った薫は、その間に自身のスキルを検証していた。
病室内にあるものを使用するわけにはいかず、売買システムを使い必要なものを購入し、使い終わったものは売却して、きっちり証拠隠滅をした。
まず最初に試したのは、空間拡張スキルだ。
射程距離は、視認することだ。対象をはっきり見る事で、発動する。
視力検査で例えると、ぼんやり見えても発動しない。
風船を対象に見立て、中心に空間拡張を使ったところ、20cm大に膨らませた風船は、一瞬で破裂した。
風船の表面に空間拡張を使うと、穴が開き風船は割れた。
幸いにも個室だったので、誰かに音を聞かれる事はなかったが、風船だと割れてどれくらい拡がるのか分らないため、段ボール箱を使った。
ポスターを使おうかとも思いはしたが、壁に穴が開いては大変なので、止めたのだ。
「これって、空間を切り取ってるのと変わんなくね。スキルにディレイタイムがないからチートと言えなくもないか。現実だし、便利だし、大歓迎だけどな」
空間拡張と空間収縮は、最大時が50cmの球形で同じ大きさだった。
薫的には、どっちも空間切除じゃんと思っている様だ。
確かに結果だけを見れば、50cm程の円形の穴が開くのだが、その過程は、違うのだ。
空間拡張は、点から1秒ほどで染みのように、じわーっと50cmに拡がる。
空間収縮は、50cmの透明な揺らぎが現れて、渦を巻くように点になって消滅するのだ。射程距離は、空間拡張と同じだ。
当然、残った部分にも違いがある。
拡張では、小さなギザギザ状に切り取られたようになるし、収縮だと、捻じ切られたように波打って渦状になるのだ。
この結果により、強度も確かめるべく、フライパンを使ったりもした。
結果は、段ボール箱と同じだった。
「攻撃力は、問題なしと。腕力上昇スキルは不必要だったか? 油断は禁物だったな。備えておくのが大切なんだよな」
実体験ではなく、誰かの言葉だったか本から得た知識だったかの受け売りである。薫の15歳の人生経験は、まだまだぺらっぺらで軽いのだ。
千里眼は、予想通りだ。否、千里眼の距離は不明だが、精巧な3DCGよりもよく見える。しかも、障害物を透過してだ。見る場所は、事前に把握しておかないと、トラウマ映像を見る事になる。
鑑定は、それなりに使える。ここに来るナースの氏名・年齢がわかっても、うーんって感じだし、スリーサイズは見えないし。
しかし、ナースには薫と異なる点があった。
【種族】は人族で、【職業】がなかったのだ。
鑑定対象が、薫と3人のナースだけなので、圧倒的にサンプルが足りない。
薫は、自分が一般人ではなくなったと自覚し始めている。
情報偽装は、確認のしようがないので保留だ。オンオフは可能だが、どちらの状態の時にも自分を鑑定したが、同じ結果だった。
ステータス強化系スキル(HP上昇・MP上昇・腕力上昇・頑丈上昇・器用上昇・俊敏上昇・賢力上昇・精神力上昇・運上昇)は、スキルレベル1毎に、ステータスにプラス補正の永続効果がある。 HP上昇・MP上昇は、+20。
腕力上昇・頑丈上昇・器用上昇・俊敏上昇・賢力上昇・精神力上昇・運上昇は、レベル1~5まで+5。レベル6~10まで+6。
薫は、HP上昇スキルにスキル改造スキルを使用した。
すると、3つの選択肢が現れた。
・1.1倍の効果
・ストック効果
・改造しない
薫は1つ目の1.1倍を確認する。20が22に微増するという、字面通りである。無難ではあるが、がっかり感は否めない。長い目で見れば、有効な効果である事は間違いないのだが。
次に2つ目のストック効果を確認する。通常効果とは別に、上昇分の1割、つまりHP2を隠しステータスとして貯蔵できる。あれだ、HPが0になっても復活出来るんじゃないか? と、薫は考える。
最後の改造しないは論外だ。
しばらく迷った薫であったが、万が一を考慮して保険は有っても損しない。よって、ストック効果を選択した薫であった。
MP上昇スキルも同じ選択肢であった。MPが0になると気絶するので、その前にお薬を飲めばいいのだが、やはり万が一もあり得るので、ストック効果を選択した薫であった。
次は、腕力上昇スキルの改造だ。
またしても、3つの選択肢が現れた。
・プラス1の効果
・2倍またはマイナス5の効果
・改造しない
薫は2つ目の2倍またはマイナス5の効果を確認する。
スキルレベル1上昇毎に、2倍またはマイナス5の判定とある。ギャンブルにあまり興味のない薫は、堅実にステータスが上昇する1つ目のプラス1を選択した。
頑丈上昇・器用上昇・俊敏上昇・賢力上昇・精神力上昇・運上昇スキルも腕力上昇スキルと同様に選択肢が表示されたので、プラス1を選んだ薫であった。
キサラギ・カオル(15)
【種族】 新人族
【Lv】 1
【職業】 現創師ランク1
【状態】 健康
・HP 140/140 new
・MP 140/140 new
・腕力 62 new
・頑丈 62 new
・器用 62 new
・俊敏 62 new
・賢力 62 new
・精神力 62 new
・運 62 new
【スキル】
・空間拡張レベル1
・空間収縮レベル1
・HP上昇レベル2 new
・MP上昇レベル2 new
・腕力上昇レベル2 new
・頑丈上昇レベル2 new
・器用上昇レベル2 new
・俊敏上昇レベル2 new
・賢力上昇レベル2 new
・精神力上昇レベル2 new
・運上昇レベル2 new
・鑑定レベルMAX
・千里眼レベルMAX
・地図レベル1
・用心レベル1
・情報偽装レベル1
・物理耐性レベル1
・魔法耐性レベル1
・ストレス耐性レベル1
【固有スキル】
・スキル改造レベル1
【EXスキル】
・究極空間収納(∞)
【称号】
・生還者
【所有スキルポイント】 7P new
さっそく薫は、ステータス強化系スキル9種のレベルを2まで上昇させた。
地図と用心は、非常に実用的だ。
地図は、大・中・小と大きさを変えられて便利である。体感だと、半径300mくらいだろう。残念ながら平面だけど。
用心も地図と同じくらいの範囲で、生物がいるのがぼんやりと分かる。対象に注意を向ければ、灰色の像が浮かび上がるのだ。
地図と用心の組み合わせは、素晴らしい。これに千里眼を合わせると、安全確保は楽勝と言えるくらい、神スキルになる。
当然ながら、僕のスキル改造により、地図・用心・千里眼の3スキルは、現在性能がアップしている。千里眼は、初期からレベルMAXだったためか、スキル改造が出来たのである。
地図は、3Dにヴァージョンアップしたし、用心と情報を直接リンクして、対象をマークできるようにした。
そこを千里眼で、対象のクリアな映像が手に入るようにしたのだ。
決して、覗きに使ってはいない。これは、スキルの実証実験だったのだ。
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