第2話

 如月薫は考える。

 目の前にあるのは、ステータス画面でまず間違いないだろう。

 先程のナースには見えていなかった様子なので、たぶん他人には見えないものであると。もしかしたら、見える者もいるかもしれないが。


 さて、先程からずっと表示されたままのステータス画面。この画面が消せるのか、ちょっと気になる薫である。


「オープンで現れたから、クローズで消えるのか? む。消えないな。ならば、ステータスクローズ」


 すると、先程まで薫の視界にあったステータス画面は一瞬で消えうせた。

 そうなると、今度は再び表示させたくなる薫。その理由は、きちんと画面の内容を確認していないからだ。


「オープン。まっ、出ないよな。ステータスオープン」


 言葉にした途端、先程消えたステータス画面が、ぱっと表示された。



   キサラギ・カオル(15)


 【種族】 新人族

 【Lv】 0

 【職業】 未知なる卵

 【状態】 健康

 ・HP  20/20

 ・MP  20/20

 ・腕力  10

 ・頑丈  10

 ・器用  10

 ・俊敏  10

 ・賢力  10

 ・精神力 10

 ・運   10


 【称号】

 ・生還者         


 【所有スキルポイント】 0P




 名前と年齢は覚えてるので、他も一緒だろうと思う。

 実は、ステータス画面が現れた事に、安堵している薫である。

 消した後に、もしかしたら表示されないかもと、不安に思っていたのだ。この少年、ここまでを見ると、軽率で小心者であった。



 さて、名前の次の項目をチェックする薫。


「種族は、新人族ぅ!?」


 個室だからか、叫んでしまっていた。思わず薫は扉を凝視してしまう。幸い、部屋の扉が開かれる事はなかった。

 間違いなく、小心者であるようだ。

 この場合、大抵の人間が同じ行動をする可能性もあり、一概に小心者扱いするのは間違っているかもしれない。


 叫んだ気恥ずかしさもあり、若干落ち着いた薫は、種族が新人族となっている事を再度確認し、脳内に疑問符が大量に発生した。


「人類とかホモサピエンスじゃなくて、新人族って……」


 考え悩むこと5分、知恵熱が出そうなので、種族問題はポイっとゴミ箱へ捨てて、考えないようにする事にした。

 解らないことを長考していては時間の無駄だと、受験勉強で学んだ薫は、以外と潔かった。



 次の項目は、レベルだった。

 薫のレベルは0であるようだ。これには、疑問が生じた。0なら、他も0じゃなければおかしくないかと。

 しかし、0歳児だと考えれば、理解できなくもない。0歳児だって寝返りや手足を動かす筋力はあるし、泣くことで欲求を伝える事も出来るからだ。

 そう考える、もうどうでもよくなる薫であった。


 さくっと、次の項目をチェックする。


「職業ね、えーと未知なる卵? 未知なる卵って一体なんだ?」


 どうやら、薫にとって独り言は、デフォであるようだ。

 そして、今度は長考することなく、次の項目へと移る。

 考えても答えが出ないものは、後回し。学習能力は高いようだ。


「状態は健康か。……完全に快復してる。あー、退院したいなぁ」


 なんと、ステータス画面では、健康であると表示されていた。

 本当は、また症状が再発するかもと、少し不安であった薫だが、なぜかステータス画面の表示を素直に信じる事が出来て、とても安心していた。都合がいい事は信じるタイプなのか。

 占いや詐欺など簡単に引っ掛かりそうである。


「あとは、HPとかあるんだ。なんだかゲームっぽいな。それにしても、HPMPが20で他がALL10って、大雑把だな。この値が、高いのか低いのか気になるけど、比較できる対象もいないし、情報もないし……どうでもいいか」


 安定の独り言である。

 そして、ようやくゲームみたいだと発言したが、すぐ側にあるラノベの存在を忘れている薫である。


「うえっ!? スキルがないの? バッカじゃね、クソゲーじゃん」


 誰もゲームとは言っていない。どうやら薫は、思いこみが激しいタイプ若しくは早とちりしやすいタイプの様だ。事実、ペーパーテストでもケアレスミスがちょこっとある。


「称号が生還者ねえ。まだ何もやってないよな? しかも何から生還したんだよ。まあ、こいつもどうでもいいや」


 長考は時間の無駄だと悟った薫は、清々しいほどのスキップスキルを発動する。


「最後は、スキルポイントが0P。今後、何らかの機会か手段で入手できそうだな」


 薫は思わずステータス画面のスキルポイントへと手を伸ばした。

 先程、ナースが居た時に両手を交差させた時には、何の反応も示さなかった画面が変化した。


「おっ、なんか出た。職業が未選択のために利用不可だって?」


 どうやら、偶然にもスキルポイントをクリックした様だ。

 新たにスキル一覧という画面に変っており、多種多様なスキル名が表示されている。

 しかし、その上に”職業が未選択のために利用不可”と赤文字がデカデカと表示されている。


 薫は仕方なく画面右上にある[戻る]をクリックする。どうやら、ゲームは下手でもプレイするのは好きなので、操作に慣れてきたようだ。


 元のステータス画面に戻った薫は、職業をクリックした。

 色とりどり・大小様々・丸から多角形の明滅するオブジェが並んでいる画面へと切り替わった。


 薫には、それら全てが卵であると、本能で理解できた。


 画面中央には、金色のボタンが”さあ、押すんだ”と言わんばかりに、存在感を主張していた。


 薫は、特に迷う事もなく、金色のボタンをクリックした。

 すると、金色のボタンが光り輝いたと思ったら、周りの卵が次々と金色のボタンへと吸い込まれていった。全ての卵が消えると、金色のボタンが、虹色のボタンへと変化した。


 薫は、またもや迷いも躊躇いもせずに、虹色のボタンをクリックした。


 虹色のボタンから何かが飛び出した。


 それは、猟師という白い文字だった。その後も、農民や盗人に行商人など、色々な白い文字が飛び出し続ける。

 しばらくして変化が起きた。騎士という赤い文字が飛び出してきたのだ。続く文字も赤色で、盗賊や剣闘士に魔物使いなど多種多様だ。

 さらに、今度は銀色文字の司祭や、金色文字の賢者など次々に飛び出してきた。


「なるほど。文字が固定されるか最後に残ったものが、僕の職業になるって事になりそうだな」


 薫は、未だに飛び出す文字を眺めながら、ワクワクしていた。どうやら、下級職から上級職へと確定したと思っている様だ。

 虹色の文字が飛び出してくる。


「ああぁっ、まじかよ。剣聖が消えた。って、大賢者も消えたぞ」


 露骨に残念そうな声を出す薫。物理のエースである剣聖に、魔法のスペシャリストたる大賢者が候補から外れた。

 さらに、勇者や魔王といった虹色の文字も消えた。


 そして、何も出なくなった。


「は? ……え? ……ちょっ、終わっちゃったのか? はあぁぁぁぁっ!?」


 いまや、ステータス画面に映る虹色だったボタンは、灰色となってしまっている。最後に文字が飛び出してから、2分間が経過したが、何も起こらない。


「これ、マジで打ち止め? 今までのは何だったんだよ。僕のワクテカを返せ!」


 高揚していた気分が、一気にダダ下がり、そこから怒りのボルテージが爆上げとなった薫は、灰色のボタンへとグーパンした。


 直後、閃光が迸り(薫視点であり現実には影響なし)、薫は「目があぁぁぁ」と、両目を両手で押えてベッドの上で呻いた。


 ようやく、視力が戻った薫が目にしたのは、【現創師】という灰色の文字だった。


「読み方が分んねえ。ふうっ、まさかの白色より酷い灰色とか……ないわー、マジないわー。もうワンチャン出来ねえのこれ?」


 あきらめの悪い薫は、灰色のボタンを何度かクリックしたが、変化することはなかった。

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