現代ダンジョン系 あのウイルスから始まるぬるい物語

灰虎

1章

第1話

 2019年、変異したウイルスが、ある大国から拡散した。

 世界的健康に関する組織は、危険性は低いとの見解を示した。

 だがしかし、明くる年、僅か数か月でパンデミックとなった。

 感染爆発後、世界各国は出入国だけでなく自国内での移動制限も行った。

 それにより、その年の夏に開催予定であったスポーツの祭典は、翌年へと延期される事になった。


 ただ、そのウイルスは、世界が生まれ変わる序章でしかなった。


 ウイルスにより新たな人類の誕生が起こったのである。

 それに遅れて、ダンジョンが世界中いたる所に発生し始めた。

 最初は、モンスターを見たとの情報がツブヤイターで発信された。

 その後すぐに、類似の情報がネットを通じて世界を席巻し、少し遅れてテレビでも情報が流れだした。


 小さいものは個人宅、大きなものは洞窟などの大自然。


 時が経つにつれ、空にも変化が起こった。


 そう、人類は新たなる脅威だけではなく、新たなる未踏領域も知る事となったのである。







 ダンジョン発生の数日前 4/4


 日本の田舎町に住む15歳の少年は、高熱にうなされていた。あと3日で高校の入学式だというのに、13日前から病床に伏せっているのだ。

 少年の家族も、全員が風邪のような症状に罹患したものの、症状は軽く5日ほどで回復したが、少年だけが重症化したのだ。


 この症状は、世界中で蔓延しているウイルス性のものと同じで、事実検査結果も、陽性と判定された。


 この病は、重症化すれば高い確率で死亡する。ただし、非常に感染力が高いものの、重症化はそれほど多くはない。


 現在、世界中でワクチンや治療薬の開発が急ピッチで進められている。


 生憎と少年の治療に、治療薬は間に合いそうもなかったが、運よく少年は快復する事が出来た。



 せっかく入学式前に快復した少年ではあったものの、再発の可能性もあるため、数日は経過観察が義務付けられており、退院もできず入学式も不参加が決定してしまった。


 卒業式も卒業生と父兄と教師のみと、例年とは違い異例の静かで寂しいものであったが、高校の入学式まで参加できないのはショックであった。


 少年は、気晴らしにと弟が差し入れたラノベをベッドの上で読んでいた。

 それは、剣と魔法の異世界に転生てんしょうした若者が、現代知識チートと特殊能力チートで無双し、美少女や美女を囲うチーレム物語だった。


「ははっ。なんともまあ、ご都合主義の展開だ。僕の高校デビューは一体どうなるのか……はあぁぁぁぁ」


 高校生活最初の躓きが確定したので、独り言で深い溜息まで漏らす少年の精神状態では、ラノベの内容がかなり不愉快だったようだ。

 しかし、何を思ったのか、少年は呟いた。


「ステータスオープンってか」


 突如、少年の目の前に、ライトグリーンの半透明なスクリーンが表示された。

 あまりに突然な出来事に、驚いて身を固くする少年。


「・・・・・・・・・」


 驚きすぎて、声を出すどころか息をするのも忘れている。


すると、突然横から声を掛けられた。


「如月さん、如月さん」


 すぐ左から防疫服に身を包んだナースが、少年の顔を覗き込んでいた。


「うわぁぁぁ!?」


 声をかけられ他者に気付いた少年こと、如月きさらぎ かおるは、素っ頓狂な声をあげると、半透明のスクリーンに両手をササッと交差させ消そうとする。

 その様子を見たナースは、薫に一瞬怪訝な目を向けるも、お腹の位置にあるライトノベルの表紙が目に入り、にこやかに声をかけた。


(もしかして、この子はラノベを読んでるのが恥ずかしいのかな?)


「なになに? おねーさんの興味を惹きたいのかな? ぼーっとしてたけど、大丈夫かな」


「!? え? ……大丈夫に決まってるじゃん」


 如月少年は、半透明のスクリーンとナースの顔を2度3度見た後、何でもないといった。

 ナースの反応を見る限り、半透明のスクリーンは自分以外には見えていない事を悟る薫。


「バイタル測定しますね。 ――――はい、終わりました。それでは、また後で伺います」


 ナースはテキパキと測定を終えると、部屋を出て行った。


 ナースが部屋から居なくなったことで、薫は改めてライトグリーンの半透明なスクリーンを見つめた。





   キサラギ・カオル(15)


 【種族】 新人族

 【Lv】 0

 【職業】 未知なる卵

 【状態】 健康

 ・HP  20/20

 ・MP  20/20

 ・腕力  10

 ・頑丈  10

 ・器用  10

 ・俊敏  10

 ・賢力  10

 ・精神力 10

 ・運   10


 【称号】

 ・生還者         


 【所有スキルポイント】 0P


 名前と年齢は、自分のもので間違っていない。漢字ではなくてカタカナ表示だけど。アルファベット表示でなくて良かった。


 変なところでほっとしている薫であった。


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