Fast Love

第7話 試練

～ 渡辺 麻那人 side ～

「渡辺君」

一人の女子生徒が俺に声を掛けてきた。

同じクラスの、下木村(かきむら) あや。だ。

「私…渡辺君が好きなんだ。付き合ってほしいの」

「えっ！？あっ！ごめん気持ちは嬉しいけど俺、彼女……」

グイッと引き寄せキスされた。

そして、そのまま話を続ける。

「知ってる。同じクラスの悠木 美冬さんでしょう？」

「だったら答えは決まってるだろう？」

「ねえ、この際、私達で悠木さんに試練与えない？」

「えっ？」

「聞いたよ～。彼女、初恋なんでしょう？」

「お前、どうしてそんな事迄……」

「好きな人の情報なら知ってるよ」

「………………」

「ねえ、どうする？もしそっちが良いなら協力するけど？」

「君、本気で言ってるの？君の事、一人の女性として見れないけど良いわけ？」

「良いも悪いも私…一応、彼氏いるし」

「えっ？」

「彼氏には了承済みだから。一応、彼氏も、悠木さんに近付いてみるらしいけど？」

「近付くって…？」

「大丈夫よ。近付いた所で、彼女が揺れ動く訳ないって！ 悠木さんに二股とか器用な事出来る訳ないし」

俺は迷ったあげく、彼女に協力して貰う事にした。

本当は気が進まなかった。

アイツを傷つける事は免れないからだ。

だけど俺は誓った

彼女が傷ついてしまった時

俺は彼女に何て言われようと

彼女の傍にいる事を――――

俺は、二人に話をした。

世吏ちゃんと、隆弘にアイツへの試練を―――

「お前、マジで言ってんの？」

「そんなやり方…美冬には…」

「俺だってアイツの悲しむ姿とか見たくないけど…アイツの為なんだって」

「麻那人……」

「麻那人君」

「本当、ごめん……マジ迷惑かけるかもしれないけど……」

そして

俺達の試練が始まった

ある日の放課後の事だった。

「麻那人」

彼女 、下木村が話掛けてきた。

「どう、悠木さん。何の変わりもなさそう？」

「知ってる様子ないからじゃない？俺から言った訳でもないし」

「じゃあ、もっと大胆に彼女の前で見せ付けた方が良いのかな？それとも付き合っている事言った方が良いのかな？」

「そんなの……」

彼女は、キスをした。

「ねえ……麻那人……」

「何？」

「私の事、本気で考えて」

「無理！」

「つめたーい」

「君が望んだんだから」

「本当、彼女の一途なんだから～」

「当たり前……」

彼女は、再びキスをし深いキスをされた。

「……うそ……」

私は、麻那人が他の女子生徒とキスしている所に遭遇し、目撃してしまった。

私はショックを隠し切れずにいた。

ある日のデートの日。

「美冬、どうかした？」

「えっ？」

「何かぼんやりしているようだけど」

「えっ？ 普通だよ」

「だったら良いけど……」

≪私…麻那人と１日過ごせるかな？≫

正直デートの気分にならない。

あんな所を見て日にちも経っていないし、

私は用事があるからとか色々な理由を言っては、一緒に帰る事を避けて来ていたからだ。

私は二人のキスシーンが脳裏に過るだけで、あの日から麻那人と二人きりなる事がなかった。

正直、私は一緒にいれないというよりは、いたくないのが本音だ。

「………………」

「……美冬…何かあった？ 体調でも悪いの？」

「悪くないよ」

「そう？無理しないで何処かで休んでも良いし。 それともゆっくり出来る所に行こうか？」

「良い！」

「…美冬…」

「本当に大丈夫だから！」

「………………」

「ねえ、美冬…本当の事言ってくれないかな？」

麻那人は足を止め、私も足を止めた。

「……本当の事？ 本当の事って？ 大丈夫だって言っているんだし、それで良いでしょう！？」

「美冬…」

「………………」

「…ねえ……麻那人……私…麻那人の彼女だよね？」

「そうだよ。改まってどうしたの？」

「じゃあ…私以外の人とキスしていた人は？」

「えっ！？」

「あの人は…誰？ 同じクラスの人は、麻那人の何？」

「…彼女だけど？」

ズキン

私は胸が引き裂かれたかのように胸がとても痛かった。

「彼女？」

「そうだけど？」

「………………」

「前に言ったじゃん。他に気になる人とか出来たりするって」

「……そっか……ごめん……麻那人……私、突然の事過ぎて頭の整理ついてないし、追い付かない……今日は…帰るね…彼女でも呼び出したら？」

「えっ！？ 美冬…？ ちょっと待っ……」

走り去る私の手を掴み引き止める。

バッと掴まれた手を振りほどく。

「美冬…」

「あんな所見て、二人きりでデートする気になれないよ！！」

私は走り去った。

「美冬っ！」

私は涙が次々に溢れてくる。

「…アイツ…知ってたんだ…様子がおかしかったのは……見掛けたからだったのか……ごめん……美冬…お前の為だと思って……マジ…ゴメン……」

私は、その日、大泣きし次の日、学校を休んだ。

その次の日も、そのまた次の日も……

数日後の夕方。

「美冬ーー、世吏ちゃんよーー」

私は玄関に行く。

「美冬、ちょっと髪……」

「切りたくて切っただけ。おかしいかな？」

「ううん、似合うよ。似合うけど、正直驚いた」

「そっか……それで？ 何か用事があったんだよね？」

「あ、うん……ノート３日分」

「そうか。わざわざありがとう。徹夜して写すね」

「うん、でもゆっくりで良いよ。明日必要なノート先に返してもらえば良いから。時間割りの変更もないから」

「分かった」

「美冬、明日は来れそう？」

「うん…多分…でもノート返さなきゃいけないから行くよ。ごめんね」

「ううん。それじゃ明日ね」

「うん…」

次の日、私は登校した。

その日の放課後 ――――

教室で二人きり。

「髪……切ったんだ」

「うん、切ったよ。おかしい？」

「いや……似合ってる」

「そっ？」

「美冬、無理してない？」

「無理？どうして？」

「いや……」

「ねえ、美冬……」

「今度は何？」

私は麻那人を見らずに返事をする。

「どうして何も聞こうとしないの？」

「聞く？何を？」

「他の女の子とキスしている所見たんでしょう？」

「うん、見たよ。付き合っているんでしょう？私以外の女の子と。だったら、それで良いでしょう？」

「美冬……」

「……それよりも……聞く事ないから別れた方が良いのかな？」

「えっ！？ ちょっと、どうしてそうなる……」

「キスしてたし、彼女と付き合っているんだよね。じゃあ私はもう彼女じゃない方が良いわけだし、二人も彼女いらないよね？」

「美冬？」

「嫌いになったから新しい彼女つくってキスしている仲だもんね？ 案外、体の関係あったりして！」

私は止まらなかった…………

こんなこと言いたい訳じゃないのに

次々に出てくる言葉に

私自身も止める事ができなかった……

「……別れようか……麻那人……ううん別れてあげるね。新しい彼女と仲良くしてね」

「美冬……」

「私…自信ないから。このまま麻那人と付き合っていく自信ない。私…ショックが大きくて麻那人への想いも良く分かんないし……」

「美冬……マジで言ってんの？」

「うん」

「……分かったよ……」

「後は私がするから麻那人帰って良いよ。彼女にでも連絡してデートでもしたら？」

「……美冬……」

麻那人は帰って行った。