第3話 彼の存在

「美冬、彼、渡辺君、モテモテみたいだよ」


と、世吏ちゃんが言ってきた。



「渡辺君? そっか。確かにカッコイイよね?」

「カッコイイと思うけど恋愛には進展しなさそう?」


「うん、ないと思うよ」

「そうかな?」

「そうだよ」




数日後の学校帰り。



「おーーい、悠木ーー」



名字を呼ばれ、振り返る私。



「あっ! 渡辺君」



私の隣に来る渡辺君。



「こんな所、他人に見られたら妬かれちゃうよ」

「えっ?」

「世吏ちゃんから聞いたよ。渡辺君、モテモテなんだって?」

「そうなんだ」

「実感ないんだ」

「ないよ。ところで調子どう?」

「えっ? 何の?」


「恋の調子」

「あー、全然変わらないよ!良い人いないし、ときめく人もいないし」

「そう?」

「うん」



私達は色々話をしながら帰った。





次の日。



「美冬、昨日、渡辺君と良い感じだったみたいだね」


「えっ? 普通に一緒に帰っていただけだよ」

「そうかもしれないけど、周囲から見れば良い雰囲気だったんじゃない?」

「そう?」


「そうなの! ねえ、渡辺君に対して、こうドキドキしたりとか胸のトキメキないの?」

「ないよ」

「…即答…」



私達は色々話をしていた。



それから渡辺君とは時々、一緒に帰る仲になっていくものの、私の心は何の異変はなかった。





ある日の放課後。


帰ろうとした時だった。


3人の女子生徒が私を取り囲むように私の行く道を塞いだ。



「あなた、悠木 美冬さんよね? ちょっと顔貸してくんない?」


「えっ? でも……私…用事……」



私の話を聞こうともせず連れ出す。


3人の女子生徒は私を屋上に連れて行った。




「あの…何ですか? 私、用事から急いで済ませ……」




ドンと押し飛ばされた。



「きゃあ!」



私は驚く中、ゆっくりと立ち上がる私。



「純情ぶった態度で彼に近付かないでよね!」

「えっ? 彼って……?」

「トボケないで!彼といったら渡辺くんよ!」


「渡辺…君?」

「そうよ!」

「何、親しそうに帰っているわけ?」

「本当、超ムカつく!」

「図々しい!」




ドンッと再び押し飛ばされる私。



「…っ…」


「今度近付いたり、一緒にいる所見かけたら承知しないから!」




そう言うと3人の女子生徒は私の前から去った。





次の日。



「悠木」



私を呼ぶ声がし、振り返ると渡辺君の姿。



「渡辺君……ごめん……」

「えっ!? 何? 急に謝って」

「渡辺君とは帰れない……私……先に帰るね」

「悠木、待って!」



グイッと腕を掴まれ呼び止められ、私の胸の奥が小さくノックした。


私は下にうつ向く。




「……何か…言われた?」


「………………」


「悠木……?」



私の顔をのぞき込む渡辺君。



「…れたの……」

「えっ?」



顔をあげる私。



「言われたの!近付かないで!って……一緒にいる所を見たら承知しないって…だから…帰れないよ…」



私は下にうつ向く。



「誰が、そんな事……」


「……知らない……良く知らないよ!……初めて…そんな事言われ…名前とか知らないし……」



掴んだ手をゆっくり離す渡辺君。



「……そっか……分かった……じゃあ、隣並ばなきゃ良いじゃん。距離保って帰ろう悠木」


「渡辺君…」


「なっ!」




優しく微笑む渡辺君の笑顔に、また胸が小さくノックする。


そう言うと帰り始める渡辺君。


私達は一定距離を保ちながら会話が出来る距離で帰って行く事にした。




まるで縮まりそうで縮まない


私の初恋のように


私達の距離は


いつ縮みますか?






あれから、私を陰で、そういう事をする人はいなくなり普通に過ごせるようになり、渡辺君とは相変わらずだった。




ある日の事だった。




「なあ、伊東って可愛いよな? 悠木は見てて飽きねーし!」


と、澳君。


「まーな。悠木はドジだし何か放っておけないかも」


「あー、分かる! 何か憎めない。しかも、あれは本当の純な奴だな」

「本当……今まで会った事のない女の子。ちょっと彼女の事マジになっちゃおうかな? 俺」

「えっ?」




バコッ



バコッ




「痛っ!」


「今は授業中だ!! 授業に集中しろ!」





――― そして―――



「ねえ、二人って良いコンビだよね?」


と、世吏ちゃん。



運動場で体育の授業をしている渡辺君と澳君の姿を私達は授業中に外を見ながら言う。


私達はクスクス笑う。





次の瞬間 ―――




バコッ



バコッ






私達は頭を軽く打たれた。




「った!」


「全く! 朝にも男子生徒が同じように怒られた二人がいたぞ! 授業に集中しろ!」


「すみません……」




と、謝りつつも、私は時々、外の様子を見ながら何故か無意識に渡辺君を追っている自分がいた。

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