第三話 時の流れ
幽世にきてから数年の月日が流れた。この世界では時間という概念はないものの、不思議と朝と夜の区別が存在した。
ただそれは、あくまでも区別がされているだけであって、昼夜問わずいろんな人に出会う事ができた。
「今日もお腹がすきました・・・。本当は実体がないのにお腹がすくって、よくよく考えたら変な感じですけど」
「私たちはそういう存在ですから」
「またこんな所に入り浸って。神様が焼き鳥食べているというのは、いまだに慣れない光景ですね」
ふらふらと今日は何を食べようかと散策していると、例の神様が焼き鳥を頬張っている所に出くわした。
その姿はまるで神聖さをまるで感じないが、神様とは必ずしもそういう存在ではないと彼女は言っていた。
ただ、いくらそう言われても流石に抵抗を感じる。
「ねこねさんも一緒に食べましょ。私・・・奢っちゃいますよ!!」
「とても俗物的ですね。あっ!! そっちのやつ3本下さい。あとつくねとねぎま1本づつで」
「はいよっ!!」
この世界では当たり前のように貨幣が流通している。現世では使えない物だが、使い方は変わらず一緒だ
仕事も商店や飲食店。指導者や
だからなのか、異常に俗物的というか住む世界が違うだけで現世となんらかわりはしない。
「おまちどうさんっ!!」
気づけば焼き上った串が1皿に盛られ目の前に置かれる。香ばしさに加え、食欲をそそる匂いが鼻孔をくすぐり、最初はつくねを1つ口に含んだ。
もぐもぐと口を動かしながら私は隣に目をやる。
「なんでこんな所で油売ってるんですか? 一応、仕事中でしょ?」
「息抜きも大切ですから。それに、こうやってねこねさんに会える気がしていたんですよ!!」
そうやって陽気に絡んでくる姿を華麗にかわしながら、じっと顔を見る。よくよく見るとテーブルの上にはなみなみと注がれたあるものを見つけた。
「もしかして、酔っていますか?」
「まだまだいけますよぉ~!!」
「別にいいですけど、飲みすぎないで下さいね」
「はぁ~いっ!!」
今では気さくに話せるようになったものの、最初の数か月は委縮していた。凄い力を持っていると思っていたが、やはりそれなりの人物だったからだ。
彼女は私のような存在をあるべき場所に導いたり、時には消し去らなければいけないという。
それは神らしい行いであり、かつての私がどうなるか選択しなければいけない一歩手前だったというのも改めて聞いた事だ。
怒りや悲しみといった強い思いが最悪の形で影響を及ぼす。俗にいう悪霊と呼ばれるような存在。
もし私があの場で誘いを断っていたらどうなっていたかも教えてくれた。
その時はギリギリまで私の気持ちを尊重し、理性を失ったバケモノになった時に浄化もしくは消滅させる予定だったようだ。
そういう事を包み隠さず話してくれたからこそ、私は彼女の事を信じれるようにもなったのだ。
「難しい顔をしてたら、ご飯がおいしくなくなるよぉ~?」
「あなたはもっと難しい顔をした方がいいと思いますよ。傍からみたら遊び人だって思われちゃいますよ」
「ねぇ~? 前から思ってたんだけど、私に厳しくない? 私、神様なんだよ!! 実はすっごく偉いんだよ!! 褒めてくれてもいいんだよ!!」
「め、めんどくさい人ですね・・・」
やはり酔っているのか、絡み方がめんどくさい。これも今に始まった事ではないのだが、何かあると酒に逃げる節がある。
ちゃんとしている時は威厳もあるのだが、こうやって裏の姿を見ると委縮しているのも馬鹿らしくなってくるというものだ。
少し溜息をつきつつ、私は自分の存在について考える。
「私はどれくらいあなたに近づけたのでしょうか・・・」
ふいに声が漏れる。
日々、力の使い方を知れば知るほど道のりの険しさがわかってくる。この世界には彼女の他にも力を持つ存在が大勢いた。
そんな多くの神格を得た人達を前に目指さなければいけない頂き。そして、その長い修練の果てに願いが叶うと思うと溜息のひとつやふたつ出るというものだ。
「ねこねさんは私になりたいんですか?」
「なんかニュアンスがおかしいですけど、あなたのような存在になりたいんです。私は頑張っているつもりですが・・・。才能ないんですかね・・・」
「え? そんな事ありませんよ? 何いってるんですか?」
私の真剣な声色とは裏腹に彼女は笑いながら軽い返事を返してくる。その姿はどこからどう見ても、酔っ払いのそれだ。
流石の私もその態度にイラっとしたものの、溜息をついて苛立ちをおさめる。
「で、それはどういう意味ですか?」
「どういう意味って。ねこねさんは力の扱いがとてもお上手ですから。それこそ1を教えたら100を理解するみたいな感じですからねぇ~。初めて人の姿になった時も、普通なら上手く立ち上がる事もできないんですよ」
そんな事は初耳だ。人の姿になった時も、体のつくりが違うのはすぐにわかった事だ。
それでも手足の動かし方なんて直感でわかるのが普通だと思ったくらいである。いくら初めての体験だからといって、自分の意思で動かせるものに驚きはあっても出来ないなんておかしな話だ。
私はいま、素直にそう思った。
「わかりました。その話は置いておきましょう。・・・すいません。適当に盛り合わせお願いします」
話を聞きながら既に空になった皿を返却し、おまかせで次の注文をする。そして、その間に気になる部分を聞いてみることにした。
「で、先程のつづきを!!」
「続きも何も、力の使い方がお上手で上達も目を見張るものがあるというだけのことです。さきほど才能がないなんて言ってましたが、それは・・・ねこねさんに教えられる方がそういう方達しかいないってことです。私も含めてね」
「と、ということは、もしかして!!」
顔を近づけ、私は彼女の先の言葉を待った。彼女は少し顔を赤らめているが、照れているのか単に酔っぱらっているのかはわからないが、今はそんなことどうでもいい。
「確かに、力の大きさ的にはあと少しといった感じです。まさかこんなに早く目標を達成していくとは思っていませんでしたから、少し調整もかけています」
「調整・・・?」
「はい。急成長したその力が安定している今なら問題ないのですが、何かの拍子に不安定になる恐れもあります。そういうのを含めての調整です。それが終われば・・・」
「現世にいけるってことですね!!」
急に元気が出てきた私は、さっきまでの暗い顔はどこへやら。にこにこ顔で未来を夢見る。
あと少しで、またみんなに会えると思うと表情が緩んでいく。
「そういう事だったら、早くいってよね!! もぉ~、なんで言ってくれなかったんですかぁ~」
「ねこねさんってたまにキャラ変わりますよね・・・。普段はクールなのに・・・」
「えっ? いつもどおりですよぉ~。大将!! この人にいいお酒ついであげて下さい!! そ、それがいいです!!」
「これ結構高いよぉ? 大丈夫かい、お嬢ちゃん」
「大丈夫です。こう見えて、結構持っているんですよ」
この世界には食事以外にも大きな家を購入したり、旅行的なものをする事ができる。
ただそんな事にうつつを抜かしていると、あっという間に時間が過ぎ去りそうで結局ため込んでしまっていたのだ。
正直、高級酒の1本や2本なんの問題もないのである。
それからというもの、私は更に成長を遂げることになる。やはりモチベーションというものは大切だ。
気づけば高位の存在。神格を有するほどに成長した私は苗字を貰えることになった。
あくまでも形式的な儀式であり、卒業証書みたいなものである。何か変わるわけでもなく、責任を押し付けられるという事もない。
そして私はついにやり遂げたのだ。
「あなたに『化神』の姓を与えます。今日よりあなたは化神ねこね。さぁ、お行きなさい。あたなが待ち望んだ者のもとへと」
わたしは旅だった。
振り返ればあっという間だったようにも思える長い日々。5年・10年・15年、私は頑張ったのだ。
「待っていて下さい!! 今から会いに行くからね!!」
強い思いを胸に幽世から一匹の猫が現世へと旅立ったのである。
化神ねこね @bakegaminekone
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