第214話/白濁な想い

水曜日になり、私は早起きして朝のニュースを見ている。隣にはお母さんとお父さんがソファーに座り、今か今かとラブ・シュガーの制作発表のニュースを待っている。


深夜枠のドラマだけど、こうやってニュースになるのは人気女優の森川愛がGLドラマに出演する+ラブ・シュガーの人気のおかげだ。


暫くして、ラブ・シュガーの制作発表のニュースが流れた。隣にいるお父さんとお母さんは嬉しそうに手を叩き喜んでいる。



人気漫画「ラブ・シュガー」実写ドラマ化!

主演は森川愛、藍田みのり(CLOVER)



私は朝のニュースだからそんなには時間は取られないと思っていた。まさか、私と愛が一昨日撮影したMVの映像が先行公開として主題歌の「sugar」と一緒に映されるなんて…


私と愛が【キス】をしている映像が朝から放送され、お父さんとお母さんは驚いた表情をしている。私だって驚いた。


きっと、これは監督とプロデューサーの戦略なのだろう。こんな風にラブ・シュガーを撮影するよと、こんな風なキスシーンがドラマにはあるよとファンに教えている。


でも、私としては親にキスシーンを見られて気まずい。親も娘のラブシーンを見るのはなんとも言えない感情だろうし。

それに仕事だとしても娘が同性の女の子とキスをしている映像はインパクトがある。


「おぉ…凄いな」


お父さんが絞り出したように言うから私は苦笑いをしながら「そうだね」と返事をした。

お父さんとお母さんが席を立った後、携帯で朝のニュースの反響を調べるとSNSでは私のファンが騒いでおり、《あいみの》好きのファンは阿鼻叫喚のお祭り騒ぎだ。


昨日、よっちゃんからシャワーのシーンについて撮影がOKか聞かれ、大丈夫だよと返事をしたけど、キスシーンだけでこんなにも反響があるとどうなるんだろうと思ってしまう。


思っていた以上に反響が大きいし、急速に私のSNSのフォロワーが増えていく。たった5分で300人以上も増えた。

私の名前をSNSで検索するとCLOVERファン以外の人達が私について呟いている。


・藍田みのりちゃん、柚木天役合ってる!

・藍田みのりちゃん、カッコいい…

・えっ、藍田みのりちゃんと森川愛ちゃんのキスシーン最高なんだけど


反響があることはドラマへの期待がされているってことで嬉しいことなんだけど…一瞬だけ高校時代のことを思い出しモヤモヤした。

忘れたいのに忘れることが出来ない過去。今も亡霊として私に張り付いている。


ほら…高校時代のクラスメイトから大量のLINEが来て気が滅入る。切ることが出来ない関係が嫌すぎてイライラする。

きっと、この関係は一生変わらない。お母さんとは緩和できたのに。



私は仕事に行くための準備をするために一度、自室に戻った。そして、ベッドに横になり、頭を切り替えるため深呼吸をする。

私は未来だけを見ていたい。過去にこれ以上囚われたくない…絶対に。


これからの未来はまず、ラブ・シュガーをヒットさせるのと。そして、2ndシングルがヒットさせCLOVERは正式なアイドルになる。


やっと、大好きなアイドルグループのStellaの背中が見えてきたんだ。


ここで加速しないと並べない。スキャンダルで一時期は炎上したけど、Stellaの人気は今も高く、CLOVERはまだ後ろを走っている。

でも、Stellaが減速した今、CLOVERは加速し、私は私の仕事を全うする。


アイドルはメンバー全員を一気に売りに出すことはできない。まずはグループへの入口を作るメンバーを加速させ、徐々に残りのメンバーを加速させていく。


これは色んなアイドルグループがやっている売り出し方。CLOVERは梨乃と私がその役割を補っていて、だからこそ頑張らないといけない。今が頑張りどきだ。


CLOVERが人気アイドルになるために…

グループのために、メンバーのために…

なのに、色んなものが加速する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る