第210話/ブラッディーメアリー

田中・奏多みどり.side


「えっ?マジか…」


やっと仕事の一区切りがつき、私は甘いコービーをゆっくりと味わう。脳が疲れに疲れて、ずっと私の体は糖分を欲していた。

そして、私と同じく休憩中の百香はなぜか携帯を見ながら項垂れている。


ここで宣言しておきたい。こんなにも!アシスタントに優しい先生はいないと私は自負している。よく、ご飯も奢るし飲み物もお菓子も沢山奉仕してるのに…


なぜ、百香は私の顔を見ながらため息を吐き「はぁ…」と項垂れるの?私、何かした?

私、百香の先生だよね?百香が憧れていると言ってくれた漫画の先生だよね?


「先生…今日は1日、携帯を触らないで下さい。ってか禁止です」


「やだよー!みのりちゃんの呟きや写真を見れないじゃん」


「別に1日ぐらいいいじゃないですか」


「無理!死んじゃう!」


「人間はそんな簡単に死にません!」


「無理ー!みのりちゃんを供給しないと仕事にならないもん。体が震えちゃう」


「中毒者じゃないですか!」


「そうだよ。自覚してるし」


私は自覚症状のある藍田みのり中毒者だ。でも、これはアイドルを応援する者には必ず発症する中毒で避けることはできない。

毎日、みのりちゃんを摂取しないと発狂しそうになるし、体が悶えてしまうのだ。


なのに、百香は私から携帯を取り上げようとする。酷いアシスタントすぎる。


「先生…せめて、今日の分を描き上げて携帯を触って下さい」


「無理!みのりちゃんを摂取しないと元気出ないし、脳が全く働かない」


「私の苺ミルクあげますから」


「飲みかけじゃん!」


「まだ、一口しか飲んでないのでほぼ新品です!これ、めちゃくちゃ美味しいですよ」


「えっ、本当?」


しまった、、百香から苺ミルクを渡され、思わず飲んでしまった。でも、本当に美味しくて、私の脳が活性化されていく。


「先生、飲みましたね。携帯を没収します」


「やだー!」


「じゃ、苺ミルク返して下さい!」


「やだ!」


「駄々をこねないで下さい!」


4時間も集中して漫画を描いていたのだ。だからこそ、安らぎが欲しいのに百香は本気で私の携帯を奪ってしまった。


「やだー、、返して」


「ダメです」


「せめて、みのりちゃんの写真を一目見せてよー。これ以上我慢すると死んじゃう」


「仕方ないですね…私の携帯で見せてあげます。ちょっと、待ってて下さい」


「最新のみのりちゃんがいいな〜」


「この写真でいいですか?」


「わーい!みのり…えっ?あいみのがラブ・シュガーの聖地で写真を撮っていた?」


「えっ…?あっ、LINEの通知!最悪…」


「えっ、、どう言うこと?」


百香がまた項垂れるように最悪…と呟く。私は必死にさっきのLINEの言葉を考察しようとするけ分からずにいる。


「先生…まだ、これは憶測ですからね」


「えっ、何が?」


「ラブ・シュガーのドラマ化の情報がSNSに出てましたよね」


「うん」


「ラブ・シュガーの聖地と言われる場所で森川愛ちゃんと藍田みのりちゃんが撮影をしていたらしいです。多分、ドラマのポスター撮りじゃないかと噂されてます」


「えっ!ラブ・シュガーのポスター撮り!マジで⁉︎えっ?へぇ?はぁ?」


「スタッフの人が沢山いて…確実に仕事の撮影みたいです。まだ、ドラマの情報は全然出回ってないですし、ドラマ化の発表もされてないですから本当かどうかは分からないですけど、絵里と天が初めてキスした場所で撮影をしていた情報がSNSに出回っているらしくて…ってか、先生、きいてます?」


「へぇ?あっ…うん」


「友達曰く、先生があいみの〜と喜んでいた写真はドラマの匂わせだったんじゃないかと友達が興奮しながら考察してて」


「はい…」


「もし、本当にドラマ化の情報が本当で、森川愛ちゃんと藍田みのりちゃんが苅原絵里と柚木天を演じるなら、、えっ、先生?大丈夫ですか!」


魂がゆらゆらと抜けて行く。26年生きてきて初めての体験をした。このまま、天に召されてもと思ったけど死ねるはずないじゃん!


私は机をバンバンと叩き「やったー!」と荒ぶる。ずっと、漫画を読みながら私の中で苅原絵里は森川愛ちゃんだったし、柚木天は…藍田みのりちゃんだった。


でも、まだ正式な情報は出ていない。ラブ・シュガーとは全く関係のない撮影かもしれないから80%ぐらいの期待値でいよう。


それにしても、まさか…森川愛ちゃんが百合作品に出るなんて凄い。森川愛ちゃんほどの人気女優が同性の恋愛ドラマ(ラブシーン満載!)に出ることは珍しいことなのだ。


「みのりちゃんが柚木天…」


「先生…顔面が壊れてますよ」


「だってー!」


「まだ、過度な期待はしない方がいいと思います。公式からは発表がされていないので」


「分かってるよ…」


「でも、柚木天役を藍田みのりちゃんが演じるならピッタリだと思います」


「でしょー!」


いつも俯瞰的に物事を見る百香からもお墨付きをもらい、私の期待値は93%まで上がって行く。それにきっと、ラブ・シュガーファンも私と同じ意見だと思う。

それほど、配役が合っているし違和感なく役柄が2人に変換される。


可愛い苅原絵里=森川愛

カッコいい柚木天=藍田みのり


最高の組み合わせであり、私が作者だったらテレビ会社、森川愛ちゃん、藍田みのりちゃんに感謝の手紙を送るぐらい感激する。

原作に合った配役は漫画家したら最初の厳しいハードルで軽々乗り越えられた。


「百香…私はもうダメだ」


「はぁ?何を言っているんですか…」


きっと、森川愛ちゃんと藍田みのりちゃん主演でドラマ化が発表されたら私は昇天する。

あっ、やっぱり嘘。ドラマを見終わるまでは絶対に死ねない。絶対に死なないから!

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