第209話/虚弱的思考

今日はラブ・シュガーの顔合わせとポスター取りをする日。今回で三度目だけど、いまだに緊張するし、仲良しの愛がいるからこそ気合いが入り気持ちが昂っている。


周りを見渡すとドラマがGLだからかキャストも女性が多い。原作でも男性は親や教授などしか男性は出てこないし。

理由は徹底的に絵里と天の恋物語を作るための周り固めで、幸せなストーリーのため。


異性のライバルで盛り上げる展開なんていらない。恋の濃度で盛り上げればいいと。


ってよっちゃんが言っていた。私より何度もラブ・シュガーを読み込み、私にラブ・シュガーについて熱く語るよっちゃんはマネージャーの鏡であるけど熱量がちょっと熱い。


美香や由香里ほどではないけど、この前…よっちゃんは美香達とお風呂のシーンは絶対に入れてほしいよね!と盛り上がっていた。



台本読みの前に監督とプロデューサーからドラマについての熱い思いを語られる。

ずっと、ラブ・シュガーをドラマ化したかったという思いと、最高の巡り合わせでキャストが決まったこと。


監督とプロデューサーに熱い思いを伝えられ、重圧だけどより気合いが入る。

私の横に座っている愛も既に苅原絵里で、まだ撮影が始まってないのに入り込んでいる。


この緊張感がたまらない。新しい仕事をしているんだと気合いが入るし、新しい現場は常に演技の学びの場だ。



暫くして顔合わせと台本の読み合わせが終わり、私と愛はポスター撮影のために移動をする。最初の予定では別の日だったけど、天気の関係で今日になった。


今回のポスター撮りは野外なのだ。車の中で衣装に着替えた私は、車を降りてスタイリストさんにヘアメイクをされていく。


今回の役は年齢も一緒で等身大の役だから普段の化粧とあまり変わらない。でも、メイクさんには好評で他のスタッフさんからも柚木天みたいと笑顔で褒められた。


監督やプロデューサーからも「最高!」と親指を立てたジェスチャー付きで言われた。



8月の天気は空が明るく野外での撮影向きだ。でも、今日は日曜日だから人が多い。

人気スポットってのもあるけど人気女優の森川愛が撮影していることが周りに伝わり人が集まってしまった。


周りを気にしながら私達は苅原絵里と柚木天になり監督とプロデューサーと話し合う。

何度かテスト写真を撮り、光加減などの確認で待つ間、私は愛とお喋りをした。


「まさか、この場所でポスター撮りなんて思わなかった。凄い偶然だね」


「この場所ってラブ・シュガーの聖地らしいよ。初めて絵里と天がキスした場所」


「そうなの⁉︎知らなかった」


「私もこの前、初めて知った」


私と愛は何も知らずにこの場所で写真を撮た。ある意味、奇跡的で思いがけない偶然が必然だったのではないかと思えてくる。


「あっ、じゃあ。この前のデートは本当に絵里と天のデートだね」


「うん」


「面白い偶然だなー。そっか。この場所だったんだ」


苅原絵里と柚木天はこの場所で初めてのキスをし、そして…ドラマの一番最初のシーンになる。この場所で私と愛のキスシーンからドラマが始まるのだ。


私は監督に指示をされ、愛を後ろから抱きしめる。このシーンはドラマではカットされるからこそポスターになる。


私達は恋人感を醸し出し楽しそうに笑い合う。絵里と天がキスをするのは夜だからシーンを繋げるイメージなのかもしれない。



そう言えば、本を読み返していた時…私はあることに気づいた。美沙が私との関係を【異質】だと言った理由。


絵里と天は私と美沙だった。


ずっと0距離で、顔が近くて、どこでも引っ付いていて、お揃いのネックレスをしていて…唯一違うのは私と美沙は恋人同士ではないことと、エッチぐらいかな。キスはしたことあるし、お風呂も一緒に入る。


私は同性だからと全く気にしてこなかった。美沙やメンバー以外とは無理だけど、一番仲良しの美沙だから何も考えない距離だったし、私にとって安心する距離だった。


でも、距離ってなんだろうと思う。誰がこの距離は恋人同士の距離って決めたのと。

一般的な距離の考え方が私は違う。だから、面倒だなって感情もある。


何枚か撮られた後、写真を愛と確認していると、一緒に見ていた監督とプロデューサーは満足げで、スタッフの人からも「お似合いのカップル…」と嬉しそうに言われた。


カップルの距離感って何だろう…?アイドル同士ではこんな距離はざらにある。

あっ…だから勘違いが生まれるの?近い距離をずっと見せられ、カップル売りがいつのまにかカップルに変換されてしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る