第207話/TOXIC

溜め込んでいたものを吐き出すと心がこんなにも楽になるなんて知らなかった。



話しても何も変わらない

自分だけの問題

これはトラウマではなく嫌な記憶



だと、私が思い込もうとしていたから。そして、隣で気持ちよさそうに眠る美沙を見ながら、美沙が言った【異質】について考える。


綾香に…

梨乃に…

美沙に…


私と美沙の関係は異質だと言われた。美沙本人に言われるなんてまさか過ぎて驚いたけど、私と美沙のこれまでを思い返す。

確かに誰よりも私と美沙の距離感は近い。だけど、私にとって居心地が良いものだった。


逆に寧ろ美沙がいないと不安になるし、私は美沙に依存しきっている。


私は梨乃と違って割り切ればキスなんて誰とでも平気でできる。それでは何で綾香とはダメで美沙とは嫌悪感を抱かずキスができるのか…理由は明確だ。美沙だから。


私の中で美沙は特別で【異質】なのだ。


だから、私達は異質の関係になった。美沙は最初、戸惑っていたみたいだけど私のせいで変えてしまったみたいだ。


変えた方がいいのだろうか…?綾香にも梨乃にも美沙にも言われ、私は自分を知り、私と美沙との距離に迷いが出ている。


美沙はこのままがいいと言ってるけど、本当にそうだろうか?普通が普通じゃないと知った私は正解が分からずモヤモヤする。


私は仕事以外で同性とはキスが出来ない。まだ、トラウマから抜け出せていないから。

きっと、こんな風に美沙だけを特別視することはおかしいのかもしれない。


私は【異常】なのか、、心が壊れているだけなのか。答えはまだ分からないけど、自覚はある。私の心はあの時に壊れてしまった。





いつものように帽子を被り、私は電車で仕事に向かう。今日も事務所で打ち合わせで、ライブがないから体がムズムズするけど、もうすぐMVの撮影をするから楽しみだ。


私は可愛い踊りより激しく踊るダンスの方が好きだから今回がよりワクワクしていた。

あっ、、前まであったStellaの広告の看板が他の芸能人の看板に変わっている。


契約とかで偶々かもしれないけど、寂しい気持ちになった。でも、時間は止まらない。

否が応にも進むのだ。アイドルの変革期。そして、アイドルは毎年のように生まれる。


常に競い合いで、色んなジャンルのアイドルがアイドル界の頂点を目指す。

ジャンルが違うから別々に考えてもと思うかもしれないけど、アイドルという括りは一つしかない。俳優と一緒だ。


どこで活躍するかでジャンルってものが存在するけど括りは一つしかない。



窓からの景色から視線を携帯に移す。SNSでラブ・シュガーについてエゴサーチする。

これは私の日課で自分のことはエゴサーチをしたくないけどラブ・シュガーは勉強のためにエゴサーチするようにしている。


あれ…ラブ・シュガー、ドラマ化するの?って書いてる人がいる。もしかして、情報が漏れたのかなって思ったけど意図的な漏洩かもしれない。ファンの反響をみる的な。


ラブ・シュガーのファンの人達は嬉しがっている人もいれば嫌がっている人もいる。

嫌がっている人はキャストがまだ分からない状態だからで合わない人がやったらせっかくの大好きなラブ・シュガーが壊れると。


それに、ドラマでやってしまうと制限や内容の変更が怖いと書いてある。これもあるあるだね。彼女はちょっと変わっているの時もこんな書き込みが沢山あった。原作が好きゆえの不安なのだろう。


私は…やるからにはしっかり柚木天として演じたい。キスシーン、ベッドシーンなんでもやると決めている。

それにやっと、自覚した。私は…同性受けするタイプらしい。


私の目指すアイドル像は男性ファンより女性ファンが多いアイドル。だから、今回のドラマがどんな影響を及ぼすかは分からないけど女性ファンが増えると嬉しい。


◇ラブ・シュガー

◇柚木天


私は新たな一歩を踏み出す。今回の役は二番手。私の夢は着実に進んでいる。

だけど、周りから似合う役と言われるたび、引っ掛かりを覚える。私が周りにどんなイメージを持たれているかを知ったから。

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