第187話/最高のラストライン

田中・奏多みどり.side


本当は締め切りが迫っているから仕事を頑張らないといけない。でも!ドラマ「彼女はちょっと変わっている」の最終回の日に仕事ができるはずがない!そのなの当たり前!


私の初めての映像化作品であり、大好きなみのりちゃんが鮎川早月役を演じているんだ。

どれだけ切羽詰まってても、ドラマを見ない選択肢なんてあり得ないからね。


それに、百香も諦めてるし徹夜をすればいいだけ。百香には後日、高級なお食事を奢って、おやつを沢山買って…謝って。



今日の評価とDVDの売り上げでドラマの続編が決まるかもしれない。それほど、大事な最終回だからこそ私は正座をして見ている。


「うぅ…」


「先生…開始5分で泣くのは早すぎます」


「だって…」


鮎川早月役を演じているみのりちゃんを見るだけで涙が止まらない。だからこそまた鮎川早月を演じるみのりちゃんが見たいよ…


「泣いていたら見れないですよ」


「分かってるもん…」


演技をするみのりちゃんと梨乃ちゃん。2人とも可愛くて、ドラマを見るたび私は誇らしい気持ちでいっぱいだった。


2人とも初めての演技なのに上手で、何で今まで地下アイドルをやっていたのか分からないぐらいめちゃくちゃ可愛くて…つくづく人生って不思議だよね。



あぁ、、可愛いすぎる。みのりちゃんも梨乃ちゃんも森川愛ちゃんも高橋賢人君も。

みんな同い年で…これも不思議な縁だ。いくら学生の役でも演じる人の年齢は大抵バラバラが多く同年代は少ない。


それなのに同い年の4人が揃い、出会い、一つの作品が生まれた。4人の演技がとてもよくてみんな役柄そのものだ。

ラストに高橋君が所属する曲が流れ…


「続編決まるといいですね」


「(ひっく、ひっく)ゔん…」


号泣しているから百香の言葉に上手く返事ができなくて、百香は苦笑いしているけど私は感極まり喋ることが出来なかった。


推しがいることが好きに人を応援できることが楽しくて幸せで、、私は幸せ者だ。

私の夢は叶い、また違う夢をみる。夢は無限大で終わりがない。





藍田みのり.side


よっちゃんと食事をして帰ってきたあと、急いでお風呂に入ってドラマの最終回をお母さん達と見ている。


少し前だったら考えられない光景でお母さんと横並びで一緒にドラマを見るのは少しだけ照れくさいし恥ずかしいけど嬉しい。


ラストの曲が流れた時、お母さんは手を叩いて喜んでお父さんもニコニコ顔でぬるくなったビールを飲んでいる。



私は余韻に浸っている。初めて出演したドラマの最終回は胸を打つものがあった。

このドラマのオーディションに受かったからこそ今の私がいる。


あっ、美沙からLINEが来た。〈ドラマ良かったよー!〉と書いてあり、私はすぐにありがとうと返事を送った。

美香や由香里からもLINEが来て、私もお父さんと一緒で嬉しくてずっと笑っている。


ずっと憧れていたアイドルになれて、テレビ画面に映る私を見て、この感覚はなんて言えばいいのかな?

一番近い感情は感無量かな。まだまだ夢は沢山あるからこれからだけど嬉しい。


早く映画も公開してほしい。大きなスクリーンに映る自分を見たいし、また夢が一つ叶う。この夢が叶ったらまた違う夢を叶えるために精一杯頑張って叶えてみせる。



あとは、ドラマのオーディション。私はどんな役でも掴み取りたい。演技が好きだからこそだけど、アイドルとは違う自分になれるのが嬉しいし2つの顔を演じて行きたいから。


受かりたいな…


美沙に私の武器は沢山あると言われたから、1つの武器にこだわりたくないし、早く売れたいという気持ちが強い。

人気は継続しなければ終わりがあっという間にくる。それほどシビアな世界。


私は待つのは性に合わない。だから常に動きたいし、心配性だから落ち着かない。

永遠に仕事をしていたいし、休みがなくても倒れはいい頑丈な体が欲しい。お母さんやよっちゃん、美沙が聞いたら怒りそうだけど。


ソファーから立ち上がり、今も録画したドラマを一話から見直しているお父さんとお母さんを置いて浴室に向かう。

続編があったら戻るけど、今日で鮎川早月は終わり。アイドル藍田みのりになる。

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