第188話/赤になった交差点

◆Feel Good◇


CLOVERの2ndシングルのタイトル。休んでいたせいで遅れた私の表題曲のレコーディングが終わり、ダンスの振り付けができ、私達はダンスの練習に取り掛かる。

昨日は美香達と久しぶりに会ったとき大変だった。抱きつかれ、めちゃくちゃ泣かれて。


申し訳ない気持ちになりつつ、美香達をあやし、梨乃に「バカ…」と不安そうな表情で言われ、めちゃくちゃ反省した。

自己管理で出来ていないせいでメンバーに迷惑をかけ心配させてしまった。



メロディーに合わせカウントをとりながら私達は振りを覚えていく。先生の動きが早いし、覚えるのが大変だけど楽しい。

それに何よりダンスがめちゃカッコよくて、早く衣装を着て踊りたかった。


1時間ほど、練習をし休憩に入る。みんなで飲み物を飲んでいると、よっちゃんがスタジオに来て、笑顔で「衣装のデザイン画だよー」と言いながら私達の元へ来た。


「めちゃくちゃカッコいいよ〜」


よっちゃんが私達に自慢げにデザイン画を見せてきて、私達のテンションは爆上がりだ。

デビュー曲の「Kiss Me」は可愛い衣装で、2ndの衣装はカッコイイ系のデザインで、スタイリッシュなシルバーと黒の衣装だった。


「凄ーい!」


由香里がデザインを見て手を叩いて喜んでいる。美香も「カッコイイ!」と喜んでおり、私も嬉しくて手を叩いて喜んだ。


「曲とダンスにピッタリの衣装でしょ」


「うん!!!」


よっちゃんの言葉に私達は大きな声で返事をする。既にワクワクしており、衣装が出来上がるのが楽しみで仕方ない。

新しいCLOVERのお披露目まであと少し。同時期に私は映画のプロモーションに入るから、丁度いい宣伝にもなる。


「ねぇ、みーちゃん」


「何?」


美香が私の隣に座り、声を掛けてきた。何だろうと横を向くと美香が私の髪を触り「髪、伸びたね」と言う。

確かに元の長さまでは全然戻っていないけど少しだけ髪が伸びている。


「早月の髪の長さもいいけど、少し伸びただけで大人びた感じがする」


「そうかな?」


「うん。最近のみーちゃん、魅力がマシマシになってる!」


「何それ…褒めてるの?」


「褒めてるよ!キュンとくるもん」


美香に笑顔でキュンとくると言われ、苦笑いする。この手の褒められ方はどう返したらいいのか分からない。

そんな私の気持ちを知らない美香と由香里は私を置いて私について話しだす。


「ゆーちゃん。最近のみーちゃんの魅力、ヤバいよね」


「うん!分かる。胸がザワザワくるもん」


私の何がヤバいのだろう?突然の2人の会話は理解出来ないしついていけない。


「ほら、2人とも…みのりが困っているから」


「えー、褒めてるだけだよー」


よっちゃんが助け舟を出してくれたけど、美香は私の顔をジッと見ながら「ふふ」と笑う。


「そんなに私の顔、好きなの?」


「えっ?へへ、好き〜」


揶揄うつもりで言ったのに美香は素直に好きと言うから何も言えなくなる。

由香里も「私も好きー!」と言い、甘えてくるし今日の2人は特に甘えん坊だ。


「みんな、休憩終わりだよー。練習しよう」


ダンスの先生の言葉で私はやっと美香達から解放され自由になれた。私は頭を切り替える。この曲のダンスは難しいから覚えるのも大変だしカッコよく踊らないといけない。


なのに、、梨乃の調子がおかしい。せっかくの梨乃はセンター曲なのに、休憩が終わった途端調子がおかしのか上手く踊れていない。


「梨乃ちゃん。ちゃんとリズムをとって」


「はい…」


梨乃が先生にリズムについて指摘をされる。CLOVERの中で梨乃が一番ダンスが上手だ。

でも、今日の梨乃はいつもの梨乃ではない。どこか不安定で笑顔もない。


休憩前はちゃんと踊れていたのにどうしたのだろう?梨乃自身も焦っているみたいで悔しそうな顔をする。


美香も由香里も梨乃の異変に気付き心配している。よっちゃんも梨乃の異変に気付き戸惑っているみたいだ。


「じゃ、次行くよー」


「はい!」


みんな、先生の言葉で真剣な表情をする。大事な2ndシングルだからこそ手が抜けない。

どれだけファンが付いているか明確に分かるのが二番目の作品であり、方向性が決まる。


だから今は全力で頑張らないといけないけど、ずっと梨乃が辛そうな顔をしている。

もしかしたら体調でも悪いのではないかと思い、休憩時間になった瞬間、私は梨乃の元へ行き「体調が悪いの?」と聞いた。


だけど、私の聞き方が悪かったのかもしれない。梨乃が「大丈夫だから…」と言い、休憩時間なのに自主練を始める。

必死にダンスの自主練をする梨乃を見たらもう声を掛けられない。私はよっちゃんとアイコンタクトし梨乃から離れる。


「みーちゃん…梨乃ちゃん、どうしたのかな?」


床に座って休憩している私の隣に由香里が来て、梨乃を心配している。美香も「無理してるよね…」と言い、不安そうだ。


「無理してると思う…」


「体調でも悪いのかな?」


美香が不安そうな顔をする。でも、私達は梨乃を見守るしか出来なかった。

よっちゃんも梨乃を見つめ、何か考え込んでいる。私が倒れて以来、よっちゃんはみんなの体調管理に過敏になっており、私が咳をするだけでめちゃくちゃ心配される。


これから私達はMV撮影などに向けて全力で走り出す。だけど、4人で前を向き頑張りたいけど調和が取れていない。

必死に練習をしている梨乃に近くに来ないでと言われているようで…近づけない。


「はい、続きやるよー」


ダンスの先生が手を叩きながら休憩の終わりを告げる。結局、梨乃の休憩はタオルで汗を拭いただけでずっと練習をしていた。

私達は立ち上がり、鏡の前に立つとよっちゃが手にペットボトルを持ち梨乃に近づく。


「すみません!ほら、梨乃。飲み物はちゃんと飲んで」


梨乃が大丈夫なのに…みたいな表情をするけど、水分補給は大事だ。渋々、梨乃はよっちゃんから受け取ったペットボトルの水を飲み、鏡の前で真剣な表情をする。

やる気は満ちているけど、余りにも飛ばすと体が追いつかなくなる。これは私の経験談だ。


私は意を決して、梨乃に「飛ばしすぎると体力が持たないよ」と言った。でも、私の言葉はまた間違えたみたいだ。

梨乃が「だから、大丈夫だって!」と言い、場の空気が凍りつく。私は梨乃にどんな言葉を言えば良かったのかな…


梨乃はあっ!という表情をし、落ち込むし…美香や由香里は戸惑っている。

私は苦笑いし、梨乃にごめんねと謝った。やっぱり人の心は難しい。分かりたくても分からないし、間違った選択ばかりする。


順調に進んでいたビクトリーロードにヒビが入った気がした。4人の心がまとまらず、梨乃だけ私達と背中合わせみたいな気持ちだ。

梨乃が更に落ち込んでいく…でも、私には何が正解なのか全く分からなくなった。謝ることも、諭すことも不正解で分かんないよ。

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