第184話/幸福の定義

美沙が買ってきたパンをもぐもぐと食べる。塩っけのあるパンが胃に染みる。

お茶をごくごくと飲みながら、3つあったパンをすぐに食べ切った。


「みのり、よっぽどお腹空いてたんだね」


「昨日から食べてないから」


「入院はいつまで?」


「明日には退院するよ」


「そっか」


美沙は病室に入ってくるなり、私に駆け寄り抱きついてきた。かなり心配したらしく…

でも、私がごめんねと謝ると拗ねた顔をしながら「本当だよ」と言われ怒られた。


「はぁ、、美味しかった」


「この後の食事、入るの?」


「余裕だよ」


胃が大体満たされたけど、まだ胃には余裕がありまだ食べ足りない。


「みのりは過労で倒れたの…?」


「うん、、」


「無理しちゃダメだよって言いたいけど…仕事が忙しいもんね」


「私の自己管理が出来てないからだよ」


「そうなの?」


「仕事も大変だったけど、ずっと夜中まで勉強してたから…」


「大学受験か…」


「うん」 


せっかく、模試でA判定を取ったからには絶対に頑張りたかったし、私は一発合格を狙っていたから無理をしてしまった。


「みのり…大学受験、辞めないの?過労で倒れてまでしないとダメ?」


「それは…」


「何で大学受験するの?」


「武器がほしいから」


「武器って自分に対して?」


「うん」


私はアイドル好きではあったけど、自分のことを理解しておらず好きだけでやっていた。

でも、好きだけではダメなことに気づいたんだ。自分を理解することが大事だと。


「みのりは勉強意外にも沢山武器あるよ」


「歌とか?」


「うん。歌もだけどみのりは沢山の魅力があるし、笑った顔も真剣な表情も運動神経がいいこともだし、沢山あるよ」


「そうかな…」


「言っとくけど、みのりの通っていた高校はかなりの有名な進学校だからね。凄いんだよ」


「美沙も通ってたけどね」


「だから、私も凄いの」


美沙の言葉にふふと笑う。頑張って入った高校は親も親戚も誇れる学校だった。

有名な大学に進学する生徒が多数いる学校で…確かに凄いことだよね。


「みのりは十分に武器があるよ。それにこれからアイドルとして女優として活躍するんでしょ。大学に行く余裕なんてないよ」


「まだ、どうなるかなんて分かんないし…」


「何で自分を信じないの?本人が活躍する気概がなくてどうするの?」


「そうだよね…」


「私はみのりに元気に活躍してほしい。そして、余裕があったら遊んで欲しい」


「はは、最後の言葉が本音でしょ」


「当たり前じゃん」


美沙といると体の毒素が抜けていく。気が楽になり、気を張っていた自分から抜け出せて、無理をしなくてもいいんだって思える。


「大学受験はもう一度ちゃんと考えるよ」


「うん」


「美沙、ありがとう」


「へへ」


苦悩、焦り、不安がいつも私に付き纏っていた。ドラマに出ても、映画に出ても不安が完全には消えてくれなくて。

やっと、抜け出せなかったループから抜け出せそうだ。周りを見る余裕ができた。


「美沙。私の良い所、5個言って」


「みのりの良い所?そうだなー。優しくて、歌が上手くて、頭が良くて、運動神経が良くて、顔が良くて、スタイルが良くて、甘えん坊で、笑顔が可愛くて、私に一番優しい所」


「はは、めちゃくちゃ多いな」


「そうだよ。みのりは沢山の魅力があるもん。まだまだいい足りないぐらいだし」


「ありがとう」


固執せず、勉強以外の武器を磨くのもいいのかもしれない。自分磨きの手段はいくらでもあるし、無理をして体を壊したくない。


「美沙。今度、沢山遊ぼうね」


「うん!」


「何がしたい?」


「うーん。ドライブとか」


「ドライブでいいの?」


「うん。この前、海に行って楽しかったし。色んな所に行きたい」


「分かった。ドライブに行こう」


美沙と遊ぶ約束をし、美沙とずっと話していた。よっちゃんに寝なさい!と言われそうだけど、美沙と話す時間は私にとって癒しの時間で、休息の時間だ。


ただの藍田みのりで入れる時間。この時間は美沙といる時だけの貴重な時間。

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