第176話/ハレーション

松本梨乃.side


好きなこととやりたいことは比例しないことを嫌というほど押し付けられる。それとも、この感情は私の我儘なのだろうか?

私は歌って踊ることが大好きだ。でも、センターには興味がないし立ちたくない。


でも、この本音はこの場では言えない。だって、美香が受け入れているから。

怒っていいのに、拗ねていいのに、美香は簡単に新しい立ち位置を受け入れ、由香里とみのりからは「おめでとう」と言われた。


ずっと今まで美香がセンターとしてやってきた。美香のセンターはみんなが認めていて、私も美香が合っていると思っている。

でも、2ndシングルのセンターは私。ずっと、美香でいいのに…何で、私なの?


何で、みんなは簡単に受け入れるの?


それともセンターにこだわりがない私が変なの?私はアイドルとしてステージに立てればどの立ち位置でもいいのに…


勝手に話が進んでいく。私が思い描くアイドルとは違う方向に進んでいくのが怖い。


私は…

アイドルとして…


あれ…私のアイドル像って何だろう?そもそも私はどんなアイドルになりたいかな。

そう言えば一度も考えたことがなかった。だって、ステージに立てればよかったから。


私はアイドルになりたくて、ダンスを頑張った。踊るのが好きだし、メンバーやファンにダンスを褒められるのが嬉しい。

だから、沢山頑張った。もっと褒めてもらえるように、評価されるのが嬉しくて。


だから…


立ち位置なんてどこでもよくて、みんなに褒めて欲しいから頑張ってきた。

だったら、センターでもいいじゃんってなるね。でも、私はセンターは好きじゃない。


重圧があるし、美香でいいじゃんってなるし、、ねぇ…この考えって悪いことじゃないよね?我儘じゃないよね?


センターになりたい人がすればいいだけ。私はセンターに興味がないからやりたくない。

でも、なぜかセンターをやらないといけないという矛盾に頭が痛くなる。


「梨乃、センター頑張ってね」


よっちゃんに頑張ってねと言われても私はただ「やりたくない…」という言葉を飲み込んで頷くしかできなかった。


梨乃だったらカッコいいダンスナンバーが似合うよねとか、今回はハンドマイクではなくヘッドマイクにしようかとか…私以外の人がどんどん案を出し私はただ聞いている。



そんな私によっちゃんは呆れてるよね。さっきから私の正面にいるよっちゃんの顔は苦笑いが多く、寂しそうな表情をしている。


嘘でもいいから喜んだフリをした方が良かったのかな…でも、嘘が苦手だからきっと無理。絶対、顔に出ると思うし。


人生は当たり前だけど思い通りにはいかない。やっと、夢見ていた大きな夢に向かって走り出したけど、私の前にはいつも色んなものが邪魔をし立ち塞がる。


アイドルも…

恋も…


ずっと、思い通りにいかない。私は端で自由に踊りたい。私は目立つのが好きじゃない。

私の中でアイドルになりたい気持ちと目立つのが好きは比例しないのだ。


「梨乃?」


「えっ、何?」


「梨乃的にはどんな曲がいいかなって」


「えっと…めちゃくちゃ踊る曲」


みのりに突然質問されて、何も考えずに答えて、よっちゃんは苦笑いして…

虚無感に襲われる。やっと、憧れていたアイドルになれ、メジャーデビューして、3位という数字を貰ったのに。


私はただ流されているだけ。私にはみんなみたいに強い意思もなければ夢もない。

もう全て叶っちゃったから…私の中には何も残ってないのだ。だから、戸惑う。


メジャーデビューをし、もう望むことがないから恋に夢中になり…取り残される。

みのりに恋してからは私はずっと、みのりのことだけだった。みのりと恋人になりたくて、キスしたくて…欲望しかなかった。


虚無感が強くなる。自分の今の姿を知ったことで自分に絶望してしまった。

情けなくて、、みんなは頑張っているのに私はやりたくない!好きじゃない!と言ってばかりで我儘だったから。


こんなんじゃ…本気でみのりに置いていかれる。美香や由香里に置いていかれる。

私だけが成長せず、立ち止まったまま。もう、後ろには戻れないって分かっていたのに。

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