第177話/脳内麻薬

吉田夏樹.side


今日も…疲れたと腕を上げ伸びをし、体をほぐしながら大好きなビールを飲む。

仕事終わりのビールは最高だ。横にいる友達は私が買ってきたおつまみを黙々と食べており、互いに自由に過ごしている。


今日は突然、友達の春菜と飲みたくなって押しかけたけど、コンビニで買ったお酒とおつまみを見た瞬間「お酒ー!」と言いながら私が手に持っている袋を嬉しそうに受け取った。


「今日、一日中家にいたの?」


「うん。ずっと、映画とYouTube見てた」


春菜の髪は軽くセットしているけど、明らかに一度も家から出ていない雰囲気が満載だ。でも、羨ましい休みの過ごし方でもある。

みのり達もだけど私も休みが全くなく、仕事が休みの日でも仕事をしている。


「夏樹、目の下に隈があるよ。ちゃんと、寝てる?」


「4時間は寝てるよ」


「短っ!それで体は大丈夫なの?」


「今の所は大丈夫」


今の所は大丈夫だけど体はやっぱり疲れており買ってきた缶ビールのアルコールが体を巡り、まだ1缶も飲んでないのに酔ってきた。


「でも、疲れたー」


「お疲れ様」


「今日、アルコールが回るの早いみたい」


「おつまみ食べなよ。胃に悪いよ」


春菜が硬いめざしを手で掴み、私の口元で「ほら、ほら」と言うから口を開けると硬いめざしが口の中に入ってきた。

めざしの濃い塩味が口の中に広がる。でも、めざしのおかげで酔いが少しだけ飛んだ。


「マネージャーの仕事って大変だね」


「まぁね」


CLOVERのメンバーはみんな良い子で、仕事を真面目にするから手はかからない。梨乃の頑固な部分は大変だけど、ドラマや雑誌の仕事などはちゃんとやってくれる。


でも、それでもマネージャーはやることが多く、売れっ子の担当をすると忙しさが半端ないし、打ち合わせが何よりも増える。


「ねえ、夏樹がさ。担当しているCLOVER凄いね。ドラマや映画に出たり、デビュー曲も初登場3位だったし」


「うん。なんとか順調にいってる」


「藍田みのりちゃん可愛いよね〜。私ね、みのりちゃんが演じる鮎川早月がめちゃくちゃ好きなんだ」


「春菜って、カッコいい女の子好きだよね」


「うん。見た目は可愛い女の子なのに内面がイケメンな子にグッとくる」


私は「そうなんだ」と言いながら、やっぱりのみのりの魅力は同性に刺さると確信する。


「あっ、みのりちゃんとさ。高橋君って付き合ってるの?」


春菜がジャーキーを食べながら、興味があるのか興味がないのか分からない表情で聞いてくる。きっと、話のネタ的な感じだと思うけど「お似合いだよね〜」と言われ、ため息を吐きたくなった。


「付き合ってないよ」


「そうなんだ。残念」


男女がドラマや映画で共演をしたら、お似合いとか言われるのは仕方のないことだ。でも、気をつけないとアンチもつきやすい。

実際にみのりにも高橋君のファンのアンチが既についている。身勝手な感情で…


みのり達は本当に付き合っていないし、当然写真も撮られてないから炎上はしていけど粘着質なファンは多数いる。


ファミレスの時もそうだったし。妬みや僻みは世界一カッコ悪い応援の仕方で、一番楽しくない応援の仕方だ。

芸能人を本気で好きになるのは悪いことではない。でも、共演者や仲良しの同業者に迷惑をかけたらただの悪質なファンでしかない。


ファミレスの件を思い出し、私は「マジでバカみたい…」と呟く。春菜は私の重く苛立った言い方に驚いた表情をしている。


「あっ、ごめん。春菜のことではないから」


「色々大変そうだね。ほら、飲もうよ」


春菜に言われて、残っていたビールを飲んでいく。アルコールがさらに回り、酔っているのか体がふわふわしてきた。

空きっ腹にお酒を飲み、完全に酔った私は溜め込んでいた悩みが爆発しそうだ。


◆梨乃は才能の無駄遣いをしようとする

◆みのりは高橋君のファンから妬まれている

◆みのりと梨乃の人気が強すぎる

◆美香と由香里をどうしたら…


でも、美香も由香里もしっかり考え方が大人になっており安心した。2ndシングルは梨乃をセンターでいくと話した時、美香と由香里は「分かったー」と明るく返事をした。


梨乃が嫌そうな顔をしたのは置いといて、2人が梨乃のセンターに対し嫉妬をしていないことに安心できたことは大きい。


みのりも笑顔で梨乃に「おめでとう」と言い、みんなで祝福した。当の梨乃は喜んでいる感じはなく「ありがとう…」と言っていたけど梨乃がセンターは当然の結果。


みんな、梨乃がドラマのヒロイン役を掴んだことでCLOVERが活躍できていることを理解しているし実感している。

2ndはダンスナンバーでカッコいい曲調でいくことが決まったし、あとは曲のサンプルを聞きまくり決めるだけ。


「夏樹。そう言えば、本見た?」


「見たよ。めちゃくちゃ甘々で凄かった」


「でしょー!ラブ・シュガーはライバルや倦怠期や喧嘩別れとかがないのがいいの」


「でも、少しエッチだね」


「まぁね。女性漫画だし」


私はだからかと納得する。キスシーンが多いし、何よりイチャイチャする場面が多い。

設定は19歳の大学生だけど、少女漫画とは違うリアルがあり内容も濃ゆい。


今もBLドラマの人気は強く、この漫画がドラマ化されたら春菜の言う通りGLブームが来るかもしれない。それほど、内容も良かった。

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