第160話/不便で不透明な感情の行き場
吉田夏樹.side
後ろが気になって車の運転に集中できない。お店で起きたこともだけど、色々とありすぎて何から整理したらいいのだろう。
みのりへの文句がムカつくし、美沙ちゃんが女の子達に水を掛けたのはスッキリしたけどSNSなどに何か書かれないだろうか…
などと、色々頭の中で考え…みのりをバックミラーで何度もチラチラと確認する。
みのりが酷く落ち込んでいる。酷いことを言われて傷ついているだろうし、何より大事な友達が自分のために戦ってくれたのに何も出来ない自分が悔しいはずだ。
私もみのりと同じ気持ちだ。
私もいたのに誰も守ってやれなかった。
あの時、私が高橋君とみのりは付き合ってもないし何の関係もない!と言っていたらどうなっていただろうか?
きっと、何も変わらないだろう。恋は真実さえも見ようとせず盲目にさせる。
だからこそ、お金が生まれるけど…
恋愛をしたら…
恋をしたら…
結婚をしたら…
芸能人は誰かのものになると今までの価値を失い、離れていくファンが多い。一度、熱愛報道が出るだけで不真面目で、仕事を蔑ろにしているなどと言うファンもいる。
本人は仕事と恋愛を両立させているだけなのに…ファンの目線はあまりにも厳しい。
分かっているよ。必死に応援している人に恋人がいたり結婚していたら素直に応援できないって。結局はどの立場で見るかになる。
全てを受け入れるのは難しいけど、お金が発生する職業だからこそシビアになる。
誰も手をつけていないケーキと食べ残しのケーキ、どっちを選ぶ?という問いと同じだ。
極端な例だけど、綺麗なケーキを私も選ぶ。だって、お金を払うのは自分だ。
でも、今回の件は違う。高橋君と何もないただの共演者のみのりに敵意を向けた。
これは愚かな行為でしかない。みのりも高橋君もただ仕事をしているだけ。
なのに、理解されない。勝手に妄想して、身勝手に湧いた感情に振り回され暴れ回る。
あー!悔しい!めちゃくちゃ腹が立ち、頭の血管が切れそうだ。
アクセルを踏む力も強くなり、スピードが出ていたことに気づき慌てて緩める。
でも、これで私の野心はメラメラと燃えた。CLOVERがアイドルの頂点に立つのはもちろんだけど女優としての地位を高める。
アイドルは恋愛に厳しいけど、女優として名を売れば売るほど価値を高められる。
早めの時間にライブハウスに着き、みんなを降ろしたあと私はすぐさま車に乗り、みんなの分のお弁当の買い出しに行く。
本当は出前でも良かったけど、お菓子などを買いたかったから外に出ることにした。
目的のお店に着き、注文した物が出来上がるのを待っている間、携帯でさっきのことが拡散されてないかチェックをする。
水をかけたのは美沙ちゃんだけど、美沙ちゃんとみのりが友達だとバレると色々と面倒い。今の所、藍田みのりやCLOVERで検索をしても何も出てきてないけど安堵は出来ない。
逐一、SNSをチェックし検索をしなくては。後で急に怒りが爆発し、何もしていないみのりへの当てつけが書かれるかもしれない。
はぁ…まさかここまで高橋君のファンがみのりに敵意を抱いているなんて。2人の短い期間での再共演+キスシーンがある恋愛映画が地雷になったのかもしれない。
【アイドルはみんなのアイドル】
ファンからしたらそうかもしれないけど、アイドル側は表向きはそう装うけど人間だ。
だから、恋もするし結婚もする。どれだけ、みんなのアイドルでも好きな人は出来る。
勿論、好きな推しメンやアイドルに恋愛感情なんてない。ただ好きだから応援しているとありがたい存在(ファン)もいる。
マネージャー的には応援する側の熱量は高い方が嬉しい。熱くなればなるほど、熱心に応援してくれるし、お金を落としてくれる。
でも、熱くなりすぎて沸騰するのはやめて欲しい。理想も身勝手な思想だと気づいて。
自分が作り上げたイメージを守って欲しいなんてただのエゴなのだ。自分だけの理想の王子様像は叶わない夢だと気づいて欲しい。
人間はなんて面倒な生き物だろう。恋は色々とフィルターをかけ、曇らせる。
携帯をポケットに入れ、私はカウンターでお金を払い、お弁当の入った袋を手に持つ。
やっと、お昼ご飯が食べられる。私もお腹が空いたし、みのり達も待っているだろう。
後はお菓子を買って早急に戻ろう。せっかくお店に入ったのに、食べずに出ることになるなんて拷問でしかない。
隣座席にお弁当を置き、ライブハウス近くのコンビニの駐車場に車を止める。
お店の中に入り、私はカゴの中に色んなお菓子を入れ、レジに向かい会計を済ませた。
コンビニを出る際、私はチラリと本棚に目をやる。お洒落なファッション雑誌の表紙を飾っている高橋君がおり…ため息を吐く。
この世に絶対に疑われない、否定されない、応援される恋はないのだろうか?どんなにお似合いでも必ず否定派はいる。
【みのりの】は…
こんなにも歓迎されているのに
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