第138話/恐れぬままに
こんなにも脱力したライブは初めてだ。別にライブじゃなくても疲れているけど。
衣装を着たまま椅子に座り、頭を切り替えるため天を見上げる。下を向くとまた過去に引き摺り込まれそうで怖かった。
終わった過去
終わってない過去
きっと、私の過去は終わっていない過去なんだろうね。だから、こんなにも引き摺る。
馬鹿みたいに変装用の伊達眼鏡なんて買ったりして今も過去から変われていない。
「みのり…」
「あっ、急いで着替えるね」
「ゆっくりでいいよ」
「お腹空いたし、早くご飯食べに行こう」
「うん…」
汗を拭いたあと、洋服に着替え私は帽子を被る。もう、いらないとは思うけど今日はお洒落アイテムとして伊達眼鏡をつける。
結構、似合ってると思うし、別の自分に慣れた気分になるしいいかもしれない。
「みのり、眼鏡似合ってるよ」
「本当?ありがとう」
梨乃に褒められ、伊達眼鏡は私のお洒落用のアイテムとして加わることが決まった。
「あっ、梨乃。お店さ、ここどうかな?」
「美味しそうー」
「良かった。ここね、よく親と行っていたお店なんだ」
「ここがいい!」
駅で美香達と別れ、私と梨乃はとんかつのお店に向かう。昔はよく親と行っていたけど、高校生になってからは行くことがなかった。
私がお母さんと仲悪くなったこともあるし、美沙といる時間が長かったから。
「美味しいー」
「うん。美味しい」
「とんかつ大好き」
「梨乃、少し交換しない?」
「うん!」
私は自分が頼んだヒレを梨乃のお皿に置き、梨乃がロースをくれた。梨乃がこんなにも笑顔で食べるなんて本当に好きなんだな。
私も久しぶりにこのお店のとんかつを食べれてやっと元気が出てきた。
「梨乃」
「何?」
「ありがとう」
「えっ…どうしたの?」
「梨乃に沢山助けられているから」
「私は何もしてないよ…」
きっと、私の突然の言葉に梨乃は驚いたはずだ。唐突すぎると分かっていたけど、梨乃にお礼をちゃんと言いたかった。
今日は梨乃がいてくれたから乗り越えられた。私はきっと誰よりも弱い人間で…
「みのり…私の方こそありがとう」
「えっ?」
「私も沢山、みのりに助けられてるから」
「そうなんだ。お互い様だね」
「うん。みのりと出会えて本当に良かった」
「私も梨乃に出会えて良かった」
こんなにも美味しい食事はいつぶりだろう。美味しいとんかつが大好きな人と食べるだけで何倍にも美味しくなる。
「梨乃。この後、甘い物食べに行かない?」
「行く!」
今日という1日を梨乃と最後まで楽しみたい。私が人間嫌いになった嫌な記憶はきっと消えてくれない。
だったら、幸せな記憶を沢山作りたい。嫌な記憶を思い出しても打ち勝てるように。
食事が終わり、私と梨乃は甘い物を求めて歩き出す。私達はまだ19歳だから夜遅くまでは歩けない。ドラマの撮影中だし。
20歳になったらお酒を飲んでみたいなとか、とんかつを食べなら思った。
あれほど、10代でなくなることが怖かったのに私は20歳になることを楽しみにしている。
今年、20歳になる私と梨乃。私達の20代はどんなアイドル人生になるのかな?
人生って不思議だ。どんな未来になるか予想できないし、思い通りにはいかない。
私の小さい頃の未来予想図は15歳で人気アイドルになっている予定だったし。
やっと、19歳でメジャーデビューするよ。怒涛のように周りの環境が変わったよ。
ドラマにも出てるし、映画出演も決まった。私の未来予想図は外れたけど思ってもいない方向に動き出した。
まさか、こんなにも女優としての人生が歩めるなんて思わなかった。人気アイドルになったとしても演技の仕事が出来るのは1割のメンバーのみだ。それぐらい狭い門。
でも、まずはアイドルとして頑張りたい。アイドルは私の小さい頃からの夢だ。
アイドル兼女優が一番理想で、でもアイドルである限り制限は付いてくる。
アイドルは面倒だね。
でも、好きだから辞められない。
アイドルは私の人生だから。
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