第137話/私の裏側

今日は朝から嫌な気持ちになった。駅で久しぶりにあった高校時代のクラスメイト。



高校2年からは美沙と出会い、3年も同じクラスだったから私は守られていた。

でも、今日…出会ったのは1年の時のクラスメイト。私に嫌な思い出と記憶を植え付けた張本人で私が嫌いな香りの女の子の1人。


いつもように帽子は被り、マスクをしていたのに…私は見つかった。


香りは一瞬で過去を呼び戻す。あの時の香りが私の体にまとわりつき…吐き気がする。

笑顔で私の名前を呼び、負の連鎖を作った張本人はきっと犯した過ちを分かっていない。


「みのり…?」


朝の記憶と戦っていた私は梨乃のお陰で負の世界から抜け出す。顔を上に上げると隣に梨乃がいてやっと心から安心できた。


「みのり…顔色悪いよ」


「大丈夫…具合は悪くないよ」


「何か飲む?私、買ってくるよ!」


「本当に大丈夫だから。梨乃、お願いだから離れていかないで…」


「えっ…うん」


梨乃が私のせいで戸惑った顔をしている。でも、今は梨乃に離れてほしくない。

梨乃の肩に頭を乗せると、梨乃の香りがして心が安らぐ。美沙と同じぐらい安心する。


最近、美沙に会えていないせいで心が不安定だったのかもしれない。私は安定剤がないと嫌な記憶から逃れられないから。


「梨乃…今日、ご飯食べに行かない?」


「行く!」


「何がいい?」


「みのりの食べたい物でいいよ」


「えー、梨乃の食べたい物にしようよ」


「じゃ…とんかつ」


「ふふ、とんかつ食べに行こう」


梨乃がとんかつが好きだなんて知らなかった。梨乃と出会って約2年になるのに。

まだまだ知らないことだらけだと知った。こんなにも一緒にいるのに。


・梨乃はダンスが上手くて

・アイドルが大好きで

・とんかつが好きで

・人見知りで

・演技が上手くて


あとは…何だろう?


梨乃は同い年ってのもあり、グループが結成された時、最初に話した相手ですぐに仲良くなった。

梨乃は大人しい印象があるけど、アイドルの話をすると目をキラキラさせるし、人と慣れるまでが時間がかかるだけで根は明るい子だ。


そして、可愛いのに交際経験がなくて。でも、

最近の梨乃の垢抜け感は凄い。

化粧を勉強し、梨乃の元からあった可愛さが更に磨かれている。


「梨乃って可愛いよね」


「えっ、急に…どうしたの?」


「うーん、心の内がポロッと出た」


「そうなんだ。ありがとう…」


梨乃を見つめたまま、素直な感情を口にする。でも、梨乃はこんなにも可愛いのに中学生の時、虐められていた。

虐めは自分に自信がないから下を作ろうとするバカな人がやることで腹が立つ。


きっと、梨乃とパンケーキを食べたカフェで会った子もそんな感じだったのかな?

偽物の一番になりたくて、自分を虚像する。


あの時、梨乃と一緒にいれて良かった。梨乃が困った顔をしていたし、私みたいに過ぎ去った過去に縛られてほしくない…



過去に縛られると私みたいになる。私は美沙に依存して生きている。

依存はいつも失うことに対しての恐怖と戦う。失ってしまうと壊れてしまうから。


この苦しみは私だけの苦しみで、美沙に迷惑をかけてしまうから言えない苦しみ。

最近は苦しみが蓄積されて押しつぶされそうになる時がある。いつかは依存から乗り越えないといけないのに弱い私は勝てない。


散々、美沙に依存してきたツケだね。梨乃にまで頼ろうとして…私は変われていない。





大好きなライブは最高だ。大きくはない会場だけど、ファンのみんなの前で歌い踊れるのが楽しく、暗かった気持ちが高まる。


可愛い衣装を着て、ステージ上の私はアイドルCLOVERの藍田みのりになる。

こんなにも落ち込んでいた私に元気をくれるのはファンの声援であり応援だ。


相変わらずコールが『あゆはる』が多いけど、求められるならプレゼントするよの思いで私と梨乃が隣になる箇所で梨乃に抱きついた。

あの香りを消したかったってのもあるけど…


私の行為で沢山の大きな歓声と悲鳴が上がる。面白いよね、ただ抱きついただけでこんなにも反応があるんだから。



私と梨乃はあゆはる人気の相乗効果でみのりのを今まで以上に求められている。

ファンは私達のドラマの関係性と現実をリンクさせたいのかもしれない。


ほら、今も私が梨乃に対してアクションを起こすとファンの歓声が湧き上がり勝手に盛り上がるから面白いし、笑ってしまう。


みのりのー!

あゆはるー!


と叫ぶファンのみんなを見ていると、私は現実に戻ってこれる。私はアイドルになりたくて、女優になりたくてここにいると。

やっと、少しだけ冷静になれてきた。でも、すぐに私の心臓は激しく鼓動を打つ。


何で、綾香がいるの?

私をジッと見つめ…

綾香とのキスがフラッシュバックする。


私は綾香が好きだった。大事な友達だった。でも、私達の関係は崩れた。

あの夏祭りの日に…綾香にキスをされて私達の関係は友達では入れなくなった。


私はそっとネックレスに触れる。心の中で美沙…の名前を呼びながら必死に笑顔を作り歌を歌い、ダンスを踊った。


ナンデイマゴロ…ナンデナノ?


由香里の元彼が来た日のことを思い出す。由香里はこんな感情だったんだね。

冷や汗が出そうで、感情がぐるぐるして頭がパニックになりそうだ。


今日は初めて伊達眼鏡を買って変装をした。これ以上、見つかりたくなかったから。

なのに…今度は綾香がライブハウスに来た。こんなの逃げる場所ないじゃん。


心臓が少し痛くなってきた。MCの時間が苦痛で、前をちゃんと向けない。

早く、音楽が流れて欲しい。歌って踊っていれば位置も変わるし綾香を見ずにいられる。


お願いだから、私を過去に戻さないで。

過去は過去、今は今なんだから、、


ミノリ、ダイスキー

ミノリトダッタラ、ツキアエル


みんな、発情期の猫だね。馬鹿みたいに欲情して、ニャーニャー鳴いて。

そんなに×××したいなら、ナンパするなりされるなりして男漁りすればいい。


それか彼氏を作ればいいのに、何で身近で欲望の発散をしようとするの?

美沙はよく男タラシとか男好きと言われた。でも、私からしたら一番欲に素直で純粋だ。


みんな欲望を隠そうとする。馬鹿みたいに自分を偽って、美沙を馬鹿にする。

だから、私はクラスメイトが嫌いだ。美沙を馬鹿にする人はみんな私の敵だ。


あの日、綾香は私と美沙の関係を変だと言った。私に勝手にキスしておきながら…


だから、私と綾香の関係は終わった。私は美沙を否定する人が嫌いだ。

美沙のことを何も知らないくせに、知ろうともしないくせに!そっちこそ、身勝手で嘘つきで、私を散々苦しめたくせに。


「みーちゃん、、最後の言葉」


「あっ、、ごめん」


いつのまにかライブが終わり、私の最後の言葉でいつもライブが終わるのに私の思考は綾香と美沙と過去に囚われていた。


美香に促され、慌てて最後の言葉の「CLOVER、好きですかー?」と言う。


ファンが「大好きー!」と返してくれて、これでライブは終わりだ。

やっと、ライブが終わり頭が回ってきた。そして、綾香だと思っていた女の子が違った。


朝、一番会いたくなかったクラスメイトに会い…被害妄想的な感じで綾香を生み出した。

いつも、忘れたいのにフラッシュバックする。籠の中の鳥みたいに逃げられない。

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