第133話/虚な首輪

谷口美沙.side


まだ起きる時間には早いのにお母さんに起こされる。「美沙!美沙!」と呼ぶから仕方なく下に降りるとテレビの画面の中にみのりがいて虚無感が襲ってきた。

今度は高橋賢人と映画に出演。凄いことなのに素直に喜べない自分がいる。


タイミングよく、みのりから映画に出演するよってLINEが来て…苦笑いする。

映画が公開する頃にはきっと、私の知らないみのりが増え続ける。これから永遠に。


みのりとお揃いのネックレスに触れるといつも気持ちを落ち着くけど今回はダメみたい。

こんな鎖なんて意味がないような気がしてきたし、みのりは更に遠くに行く。


きっと、アイドル藍田みのりは私の知らないみのりになり二分化していく。女優の肩書きが足したら三分化になるのかな?


高校時代、私の横にはずっとみのりがいて…って過去のことばかり思い出しても意味がないって分かっている。

これは恋愛も一緒だから。過去は過去でしかないし、今と比べるものではない。



私はみのりに〈おめでとう〉と返し、顔を洗いに行く。もう、目が覚めちゃったし二度寝する時間はない。

変わっていくみのりを目の当たりにし、鏡に映る私も変わることを決める。


まずは見た目から変わろう。気分転換にもなるし、気持ちを切り替えたい。

バイトでだいぶお金も貯まったし、そろそろ運転免許証も取りに行きたい。


いつか、みのりと車で旅行に行きたいねと話していたから少しでも早く叶えられるよう私も動き出さないといけない。


なんて…私の痩せ我慢だけど。





藍田みのり.side


今日は朝がゆっくりだった分、夜までずっと仕事で流石に疲れた。やっと全ての仕事が終わり、控え室の椅子に座り携帯を触る。

美沙からLINEが来ており、送られてきた写真を見ると…美沙が変わっていた。


髪が少しだけ短くなり、髪色も黒めになっている。気分転換とは書いてあるけど…美沙の雰囲気が前と違うから驚いた。

でも、私も仕事のために髪を切り、髪を染めたから一緒なのかもしれない。


「みのり、そろそろ着替えてー」


「うん」


よっちゃんに着替えを促され、私は着替えるために立ち上がる。私は根っからの仕事人間で仕事さえあればいいけど…やっぱり、美沙と会えない時間が寂しい。


高校の時から友達に美沙に対して甘すぎるや、優しすぎると沢山言われてきた。

でも、そんなの私の中で当たり前で、美沙は私にとって特別な人で一番大事な友達だ。


美沙は私の空気的な存在なんだ。絶対になくてはならないもの。


私は美沙に似合ってるよと返事を送る。でも、美沙からの返事はなくて…

結局、何時まで起きてたかな?台本を読みながら美沙からの返事を待っていたんだけど寝落ちしてしまった。


いつのまにか、私と美沙の間に距離が出来てきている気がする。朝になって美沙から返事が来たけど簡素な返事で…寂しかった。


それに、最近の美沙は連絡をくれない。いつも、私からで…最近、孤独感に苛まれる。

こんな風な距離になったのはドラマが決まってからで、私に気を遣っているのかもしれないけど、気を遣われる方が辛い。


なんて、独りよがりの考えで、美沙も大学やバイトで忙しいと思うし、私の知らない友達もいると思う。そんなの当たり前だ。


でも、美沙はいつも…私を優先してくれた。何で仕事が順調に進めば進むほど美沙だけが遠のくの?大事な人だけが遠くに行く。


大丈夫

大丈夫…


と言い聞かせる。美沙は私から離れていかないし、ずっとそばにいてくれる。

永遠は無理でもまだ制限時間はあるはずだ。まだ、大丈夫。あと少しは大丈夫のはず。


私はあの頃の自分とは決別した。美沙が私を守ってくれたからアイドルをやれている。

美沙がいたから、強くなれた。あと少しで、1つ目の夢が叶うんだ。


メジャーデビューしたら…美沙にCDを渡すのが夢なんだ。そして、大きなライブ会場に招待して、ずっとそばで応援してもらう。

まだ、私の夢は叶っていない。まだ、夢の途中なんだよ!過去の私は消えてよ!


ハキケガスル…

アノ、ニオイヲオモイダシタクナイ

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