第132話/不条理な求め方
今日はゆとりのあるスケジュールで、今もパジャマ姿のまま牛乳を飲む。
お母さんとお父さんはテレビでやっている朝の芸能ニュースに釘付けで、お母さんは高橋君と映画!と手を叩いて喜んでいる。
ドラマの出演が決まった時は私は親に当日まで仕事のことを言わなかった。でも、お父さんがニュースを録画したかった…と言っていたから今回は先に伝えた。
だから、お父さんがまだ寝ている時間なのに朝一のニュースを見るため起きている。
携帯には友達からSNSにはファンから沢山のおめでとうとコメントが来ていた。ファンの中には恋愛映画だからショックを受けている人もいるけどほぼ喜んでいる人が多い。
ネットニュースには高橋君と私の写真が載った記事があり、10月公開の純愛ラブストーリーって書いてあり苦笑いする。
恋愛不適合者の私には純愛ラブストーリーっていう言葉が一番似合わない。
ネットニュースをスクロールしながら見ていると、私の好きなアイドルグループが東京ドームで2daysのライブ決定!と書いてあり真剣に内容を読む。
デビュー3年目での東京ドームでコンサート。3年…この数字はとても早い数字だ。
でも、高橋君が所属するグループは既に3大ドームでのコンサートをしている。デビュー時から飛ぶ鳥落とす勢いのあるグループで人気はずっと鰻登りだ。
高橋君のグループもまだ3年目なのに凄いよね。事務所も大手だし。
そう言えばと思い、久しぶりにエゴサーチをする。本当はあんまりしない方が仕事をやりやすいけど反応が知りたかった。
高橋君のファンの人は映画の件を知り、ショックを受ける人、喜んでいる人がいた。
やはり、アイドルにとって恋愛系のドラマや映画は鬼門だ。ガチ恋が多い故に。
別に恋愛映画の撮影をしたからと言って、推しが共演者と恋愛関係になる確率なんて低いのに勝手に心配し勝手に落ち込む。
ただ単にラブシーンを見たくないって人もいるけど、演者からしたら仕事の一環だからどうしようもなくて…
仕事をやっているだけなのに、見たくないと否定されると私だったら嫌だ。
私にとって仕事は仕事だ。なのに、勝手に心配し騒ぎ出す。見たくないなら見ないようにすればいいのに。
あっ、でも私のファンなら分かるけど…なんで梨乃のファンが嫌がってるの?みのりのファンの人もショックを受けている人が多い。
〈みのりちゃんは梨乃ちゃんのなのに…〉
〈みのりの恋愛映画が見たいー!〉
みのりのがカップリング的な人気があるのは分かっているけど、この手のコメントを見ると押し付けられている感覚があり気が滅入ってしまう。そもそも…私の梨乃の恋愛映画ってあり得ないのに。
田中/奏多みどり.side
いや、いや、いや…はぁ?
えっ、どういうこと?
まだ、ドラマやってるよね?
撮影も続いているし、あり得ないから!
テレビの前で憤慨する私はきっと駄々をこねる子供みたいに見えるだろう。
でも、これは怒ってもいいと思う。ドラマ「彼女はちょっと変わっている」は絶賛放送中であり、撮影もまだ終わっていない。
なのに、テレビを見ながら朝食のおにぎりを食べていると芸能ニュースの時間になり、手に持っていたおにぎりを机の上に落とす。
テレビ画面には高橋君とみのりちゃんの写真が映っており…少女漫画が原作の恋愛映画の制作が決まったと報じている。
これは、流石にはぁ?となる。私が描いている原作のドラマに絶賛出演中の2人がまた幼馴染の役でラブストーリーの映画に出演する。
私の頭の中ではドラマが終わってからの未来予想図があった…
映画化・ドラマの続編を狙っていたのに、これは酷すぎる!2人が恋愛映画に出たらその役柄のイメージが付き、今やっているドラマの続きを制作しにくい。
あり得ない!彼女はちょっと変わっているの原作者として怒ってもいい案件である。
テレビ局と2人の事務所に突然の裏切り行為にあい、私は絶望に落とされる。映画や続編をやりたくないのか!と大きな声で言いたいよ。だって、明らかに裏切りだ。
映画出演は推しのみのりちゃんが女優としてのステップアップになるけど気持ちが追いつかない。せめて、ドラマが終わってから発表して欲しかった。
急いで原作の漫画を調べ、また絶望する。
ピュアなラブストーリーで、発行部数も1000万部を越える人気作。映画化になるのは当然で、キャラの絵を見て高橋君とみのりちゃんに合っているなと思った。
今日も仕事を頑張ろう〜と思っていたのに、気分がダダ下がりだ。
よろよろと椅子から立ち上がり、ソファーに横たわる。そんな私の姿を見た旦那が心配そうに「大丈夫?」と声を掛けてきた。
全然大丈夫じゃない!悔しいし、部数負けてるし!人気あるし!
推しの女優デビュー作が自分の漫画なのは一生誇れる自慢だ。でも、いくら何でも次の作品が早すぎる。
主人公がドラマと同じキャストだし、内容は違うけどこれでは比較されてしまう。
せめて、主人公を違う俳優にするか、ヒロインをみのりちゃん以外の人にしたら違っていた。映画配給会社!スポンサーの馬鹿!
全く違う話だって分かっているのに私からしたら森田翔平と鮎川早月のラブストーリーだ。それも設定が幼馴染で…似過ぎでしょ!
心を込めて作っていた作品なのに…真っ白な灰になり抜け殻になる。
受け入れられない現実に脱力感に襲われ、現実逃避したくて目を瞑る。これは、夢だと言い聞かせているのに、空気を読めなかった旦那が「みのりちゃん、映画が出るね」と言ってきてブチ切れそうだ。
「嬉しくない!」
「えっ、何で?」
「だって、まだドラマは撮影中だし放送中だよ」
「そっか…」
「ドラマの続編や映画化を狙ってたのに…」
「あっ、、そうだよね」
しんどすぎてこのまま寝込みたい。でも、仕事をしなければ原稿が落ちるし雑誌に掲載されず休載扱いになる。
私は漫画家だ。漫画でお金を稼いでいる。だから、落ち込んでいる暇はない。
「彼女はちょっと変わっているをもっとヒットさせて映画化まで持っていったらどうかな?上書きが出来るかもしれないし」
旦那の言葉にやっと顔を上げる。やっと、やる気が漲り立ち上がって頑張るー!と叫ぶ。他の漫画家に絶対に負けない。この作品はみのりちゃんが最高に輝くよう作った作品だ。
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